夢の羅列<インテグラの家-p4 最終話> 20171015
つづき。
状況を打開すべく本棚に話題を振った私に家主の男は一冊を取り出し寄越した。
開いてみるとそれは画集で、見たことのない作品であった。
少し乱暴だがわかり易く説明すると、
シャガールを白黒だけの水彩で描いたような絵で、私は素直に悪くないなと感じた。
「けっこういいねぇ」
私の本心から出た言葉だったから、男にも通じたらしく、
「夜画っていうんだよ」そう私に応えた。
やが。
夜画というスタイルなのか。初めて聞いた。
シャガールと書いたが、
言葉からのイメージなら「銀河鉄道の夜」や、
中原中也の「ひとつのメルヘン」などを想わせた。
夜画と呼ばれた絵を見ているうちにふと私は現況において覚めた。
夢の中ではっきりと自分は“ここにいる”という感覚を持ったのだ。
今、私は知らない男の部屋にいる。
部屋の中にはなぜか車があり、私は立ったまま画集を開き、
白と黒と灰で描かれた絵を見ている。
本の重さ。紙の手触り。しっかりと自分の手にそれはあった。
そして思い出したように私は男に言った。
「現住所はあるんだよ」
それは、私に家がないということではないんだよ、という意味を伝えたかったのだ。
でもなぁ。オレの家はどこだったか。
どうやってこの家に来たのか思い出せない。
そんなに遠くはないはずなのだが。
しかし外に出ればきっと星だけの暗い夜道が続いているだけなのだ。
当てどもない。
おわり。