だが夜は気づかなかつた、
それはすでに夜の傷口だつた、
しづかだつた。
野田宇太郎の詩「夜の傷」から抜粋
野田宇太郎wikiリンク
━━以下説明と感想━━
この傷口というのは、老いて切り倒され横たわる樫の木の切り口である。
森の奥で夜の闇がその白さを隠すように忍び寄る。
やがて樫の木は闇に見えなくなり、
“傷口は木のそれから夜のものに変わった”
私の感想では、この“”内がこの詩の要であるだろう。
重ねて書くと、
切り倒された樫の木の太く白い切り口はまるで傷口のように見えたが、
夜がやってきて森が闇に覆われると樫の木も闇に溶けて、
白い切り口だけが闇に浮かび、それはいつしか夜の傷口に見えた。
だが夜はそのことに気づかなかった。
何かの暗喩であるようにも思えるし、
しづかだった。という最後の一行に読めるように作者はただそこにあるがままを書き記したようにも思える。
私はふとニーチェのこの言葉を思い出した。
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
E V O L U C I O 20201027
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