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20220806 夏の歌・岡しのぶ/歌集より5 (追記あり)

2022-08-06 17:32:07 | 本の要約や感想
20220806



いつかの夏の夜
川べり
月がついてくるといって
泣いた私が
同じことをいって
泣く妹の手を
ひいて行く
月の夜



──岡しのぶ / もし君と結ばれなければ──より

    (ネスコ発行 / 1996文芸春秋発売)


ここ数日、紹介している岡しのぶの歌集の中には短歌だけではなく、あまりに華奢な著者の姿や、風景などの小さな写真が載せられている。

その写真にはそれぞれ著者のほんの呟きがキャプションとして添えられている。

上の文もその一つだが、しかし著者が歌人であるため、短い文もつい韻文となってしまっていて、まぎれもなくこれは詩であり、実は私はこの歌集の中でこの一文が一番好きなので、これを載せて彼女の歌集の紹介感想などは一応の区切りをつけたい。



20220807追記


以下を追記しておきたい。

上に紹介した短い詩のどこに私が惹かれるのかというと、普遍性に、だ。

いつだったか自分が幼い時に、月がついてくると泣いた記憶のある姉が、今度は同じことを言って泣く妹の手を引き川べりを歩いてゆく。

このような意味の詩たった8行を繰り返し読むと私は情景の中に閉じ込められてしまいそうになるのだ。

───月の川べりを歩く少女と幼子の姉妹。親も一緒に歩いているのかもしれない。夏祭りの帰りだろうか。しかし辺りは夜の深い緑。妹は甘えたくてさっきまで泣いていた。
家族の会話も静寂の神秘にいつしか途切れ、川の音と虫の声だけの中を歩ている。
小さな橋をいくつか横目に通りすぎると、家はもう近い。───

月がついてくると思える心の真白さは短いだろう。
それはすぐに気にならなくなり、いつか存在すら忘れて、しかし時を十分に重ねて後、ふと見上げた空に変わらずあることに気づき、あれからずっと自分を見守っていたのかと思ったり、優しい光に誰かの姿を見たりする。

私はこの詩を読むと、何度も読むと、姉妹たちから少し離れた橋の上にでも立って見ているような気になる。また自分が親の気持ちになって一緒に歩いているような気にもなる。月になって上から家族を見ている気にもなるし、鳥や虫になって木の陰からこっそり呼びかけてみたくなるのだ。

だから何度読んでも飽きない。百回読んで飽きないのだから、千回でも飽きないだろう。この詩が私にとって普遍性を持っているのだ。しかしそれは私だけのことかもしれない。他人の興味に何も感じないことは、いくらでもあるから、人それぞれの感じ方でいいだろう。

歌集の主役である短歌は素晴らしいものが多いが、身体も頭もずいぶんと錆びてきた私にとって本気で読むには少し消化が悪い気がする。夏の午後にでも、さらっと読むのがちょうど良く、うっかり読み込むと変な熱が出てきそうだ。だから上に置いた詩の幻燈のような鈍い月の明るさがちょうどいいのだろう。そして私は川のそばに住んでいる。月はめったに見上げない。


E V O L U C I O


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