Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

学会の初日は雨が降る

2012年04月23日 | EBM関連
先週はCCMの新しい号が出たけど、それは保険として来週に取っておこうと思う。何故なら、Anesthesia and Analgesia (AA)がチョー面白かったから。

そんなAAから、まずサラッと二つ。

da Silva PS, Fonseca MC.
Unplanned Endotracheal Extubations in the Intensive Care Unit: Systematic Review, Critical Appraisal, and Evidence-Based Recommendations.
Anesth Analg. 2012 Feb 24. [Epub ahead of print] PMID: 22366845.
ICUにおける予期しない抜管(自己/事故抜管)について検討した研究をsystematic review。文献が50見つかり、予期しない抜管の頻度は0.1-3.6 / 100 intubation days、つまり10人が10日挿管されていたら、0.1-3.6回起こるということ。危険因子などについても検討あり。

Mankes RF.
Propofol Wastage in Anesthesia.
Anesth Analg. 2012 Mar 13. [Epub ahead of print] PMID: 22415537.
ある病院の手術室8部屋で捨てられた注射薬を拾い集め、何が多かったか検討。単純にml数で表すと、Propofolが全体の45%を占めた。50mlと100mlのバイアルを廃止し、全部20mlアンプルだけにしたら、捨てられる量がなんと十分の一になった。

ついでにNEJMも。
Lamy A, Devereaux PJ, Prabhakaran D, et al.; CORONARY Investigators.
Off-pump or on-pump coronary-artery bypass grafting at 30 days.
N Engl J Med. 2012 Apr 19;366(16):1489-97. PMID: 22449296.
19カ国79施設4752名を対象としたRCT、Off-pumpとOn-pumpを比較。Primary outcomeは死亡/脳卒中/心筋梗塞/透析のどれかが30日以内に起こるかどうか。その結果、primary outcomeの発生頻度に差はなかったが、off-pumpの方が、輸血が少なく、出血のための再手術が少なく、AKIが少なく、呼吸器系合併症も少なかったけど、revascularizationは多かった。
この文献は7月にJSEPTICのジャーナルクラブにアップ予定。

で、本題はこれ。
Greenberg RS, Bembea M, Heitmiller E.
Rainy Days for the Society for Pediatric Anesthesia.
Anesth Analg. 2012 Feb 24. [Epub ahead of print] PMID: 22366849.

The Society of Pediatric Anesthesia(SPA、アメリカ小児麻酔科学会?)の総会の初日に雨が多いかどうかについて検討。1987年以降のデータを集め、月日や開催場所を考慮して検討した結果、学会初日に雨が降る確率はそれ以外の日に比べ2.63倍多かった(p=0.006)。P値が非常に低いため、単なる偶然とは考えにくく、学会に何らかのパワーがあると思われると著者等は結論。学会の開催地を干ばつで困っている地域で行うことを勧めている。

さて。
そんなわけあるかい!
と、皆さん、お思いでしょう。
そりゃそうだ。
で、ちゃんとこの文献についてeditorialがある。

Steven L. Shafer and Franklin Dexter
Publication Bias, Retrospective Bias, and Reproducibility of Significant Results in Observational Studies
Anesth Analg May 2012 114:931-932

つまりはバイアスがかかっているのが原因。
一つはpublication bias。
学会の開催と天気が関係ない、という文献を誰かが書いたら、速攻でリジェクトされ、精神科へのカウンセリングを勧められるだろう。
もう一つはretrospective bias。
人間はランダムなものの中からパターンを見いだす能力に長けている。例えば、円周率の72桁目から偶数が10連続で続く。その確率は2の10乗なので1024分の1。それが72桁目で起こるなんてすごい、とか。
今回のも、きっと誰かが気がついたんでしょう。あれ、この学会って雨が多いよねって。で、実際に調べてみたらそうだったと。でもこれは、気がついてから調べているので、当然のこと。

観察研究、特に後ろ向き研究は、あくまで仮説を立てるだけ。確信を得るには前向き研究、できれば二重盲検のRCTが必要、と。

噂を信じちゃいけないよ~
私の心はウブなのさ~
コメント (1)
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