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Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

自動取り込みの罠③:バイタルサイン

2020年11月16日 | データベース・JIPAD
やっと自動取り込みらしい話。

昔々、ICUには大きめの紙にバイタルやら点滴やらアウトやら血ガスやらを手書きしていた。その頃は、頻度は1-2時間に1回だが、ナースが現状の正しいバイタルサインを記載していた。しかし電子カルテや部門システムが登場し、心拍数や血圧や呼吸数をモニターから自動で取り込んでプロットするようになった結果、正しいバイタルサインの記録はICUから消えた。
世界中で起こっているんですよ、これ。すごい話だと思いませんか?

電子的なバイタルサインの記載方法は主に3つある。
1:生のデータをそのまま表示する。多くは1分毎。
2:10-30分毎にデータを自動プロットし、変なデータがあれば適宜修正。
3:1-2時間毎にナースが手入力するか、モニタから取得した数値を確認しないと表示されないようにする。

このうち3は紙カルテの時代とほぼ同じなので正確といえば正確だが、頻度が少なすぎて経過が分かりにくかったり、著明なバイタル異常(徐脈、頻脈、ショック、高血圧)があっても追記されなかったりするので、現代のICUのバイタル情報としてはイマイチ。それに、異常値の記載がされにくい=重症度スコアが低めに算出される=施設の予測死亡率が低くなる=standard mortality ratioが高くなる=施設の評価が低くなる、という問題もある。
1は患者さんの状況をもれなく表示する。しかし線が太くなって見にくいし、A-lineの採血時とか心電図電極がはずれた時とか呼吸のインピーダンスがとれずゼロになった時とかも表示されてしまう。そのため、入室24時間以内の最高最低は自動取り込みできない。この値以上と以下ではデータを利用しないというルールを作って自動取り込みする方法はあるが、不正確だし、心停止しても無視される。
1と3の中間が2で、両方の良いところと悪いところを併せ持つ。個人的にはこれがちょうど良いと思う。しかしナースにより適宜の修正が必須で、それをしないとグチャグチャなグラフになり、自動取り込みすると不正確な情報になってしまう(やけに頻呼吸だったり、血圧の脈圧がすごく小さかったり)。

約70施設を訪問した僕の経験では、1:10%、2:60%、3:30%くらいではないだろうか。
正しく自動取込みされ、かつ施設の評価も正しく行われるには、2を選択し、かつちゃんと修正する習慣をつける必要がある。しかし、そんな施設、ほぼない。

ICUのデータベースを手作業で収集するときにもっとも時間がかかるのがこのバイタル情報。「自動入力なら簡単なのに」と言いたくなるのはわかるのだが、現実はこんな感じ。
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自動取り込みの罠②:身長、体重、病名、術式

2020年11月15日 | データベース・JIPAD
・身長、体重
電子カルテにはBMIやBSAを計算してくれる機能があったり、体重の変化をグラフ化する機能があったりする。なのでどちらかというと電子カルテの得意分野。しかし自動取り込みに必要なのはICU入室時の情報なので、電子カルテの情報、特に体重はとても使いづらい。入院時に体重を測定して電子カルテに入力する習慣が病棟にあっても、入院後に状態が悪くなって数日後にICU入室したり、OP室で補液されて入室したりするので、電子カルテの体重はあてにしにくい。部門システムでも電子カルテでも、入室時に現状を測定(もしくは本人家族から聴取)して、それを入力する習慣が必要。

・病名、術式
以前、こんな記事を書いた。
データベースにおける病名の書き方
つまり、こんなことを書きたくなるくらい、データベースにとって病名は大事だと思っている、にも関わらずちゃんと記載されない状況に出くわすことが多い、ということだ。
電子カルテにはDPC用の病名欄はあっても、退院サマリーに記載するような病態をよく表した病名を入力する欄はない。
部門システムには病名欄があるが、何も書かないか、DPC病名を取り込むか、手術室からの情報を使用するか、のどれかのことがほとんど。しかし、ICU的視点での病名はそのどれでもないことが少なくない。つまり、この欄はほぼ必ず手書きする必要がある(順調だった予定手術は例外)。でも、診療にあたっている人(主治医とか担当ナースとか)は病名を知っているので、部門システムの病名欄って誰も見ない。だから手入力する人なんかいない。
にも関わらず、部門システムではどのページを開いてもこの病名欄が表示されていたりする。ちゃんと書けば全スタッフが共通の病名を認識することができるので、データベースのためだけじゃなくて臨床的に意義があると思うのだが。入室したら正しい病名を書こう。書き方は上記の記事を参考に。
術式はまあ80%はOP室からの自動取り込みでOKだが、予定術式なので確認は必要だ。

これで2つ書いたが、まだ患者背景ですよ。
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自動取り込みの罠①:入退院日、入退室日時

2020年11月14日 | データベース・JIPAD
・入院日
ICU部門システム(PhilipsのACSYSとか、日本光電のPrimeGaiaとか、フクダ電子のMirrelとか、富士フィルムのPrescientとか)を利用している場合、自動取り込みはこの部門システムを当然使う。しかし、どういうわけか、部門システムに入院日の項目を作っていない施設が少なくない。じゃあ項目を追加すればいいじゃん、と思うかもしれないが、電子カルテが情報を送信しないといけないので、両方のシステムへの介入が必要になる。後でやろうとすると無駄に高くつくから、電子カルテと部門システムの導入時もしくは更新時に入院日を取り込めるようにしておこう。

・退院日
APACHEなどの重症度スコアで予測されるのは退院時転帰なので、退院日および退院時転帰はICUのデータベースには必須。にもかかわらずICUでは収集するのが困難な項目の代表。なのでデータベースを自前で作っているところでは集めていなかったりする。多くの施設で採用している収集方法は、退室後の患者さんの電子カルテをちょこちょこ開き、退院したかどうかを確認するという面倒な作業。しかし実はこれは自動化が可能。院内の診療情報部とかシステム課とかいった部署で退院日と退院時転帰を出力してくれるので、それを取り込めばいい。JIPADにはその機能があるから。

・入退室日時
ICUに何時に来たのか、何時に出て行ったのか、すごく基本的な情報のように思われるが、この情報が自動で収集できない施設は驚くほど多い。
部門システムの場合、新規患者を作るには入室日時の入力が要求されるので、例えば予定手術の患者さんが入室する前にナースが事務作業をしたいときなど、まだ患者さんが来ていないのに現在時刻を入力して、そのままになっている施設は多い。退室日時も似たようなもので、これを入力しないと患者さんをベッドマップから動かせないので必ず入力はされるのだが、やり忘れて退室から何時間も経ってから入力するなんてことは珍しくない。これを回避するには、入退室日時は物理的に患者さんが移動した時間を入力することを習慣化する必要がある。
電子カルテの場合、部門システムのように入退室日時の入力は要求されない。温度版のバイタルグラフも連続しているので、実際に患者さんが何時から何時までICUにいたのか分からない施設がある。これだと手入力でも収集できない。看護記録に時間を書く習慣があるところはまだマシだが、書き忘れることもあるし、自動取り込みはできない。転棟(病棟からICU、その逆)という入力作業はあるので、その日時は記録されているはずだが、これまた物理的に患者さんが移動した時間である保証はないし、ナースはそうする必要もないので、自動取り込み先として使えないことが多い。もっとダメなのは手術患者。ICU入室時間は手術が終わって物理的に患者さんがICUに来た時間だが、”転棟”作業は病棟から手術室に移動した時間に行われることがほとんどなので、仮に正確に入力されていても自動取り込みには使えない。電子カルテのどこかに入退室日時の欄を作り、それを手入力する以外の方法はないことが普通。

日時なんて自動化できる筆頭のような気がするが、実際はその逆だったりする。
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データの自動取り込みの罠

2020年11月13日 | データベース・JIPAD
ほとんどの人は、こんな話には興味がないかもしれないが。
個人的にはとても関心があるというか、自分の仕事に強く関連しているので、一度まとめておこうと思う。

JIPADという仕事をしている。
このブログを読んでくださっている方で知らない人はもういないだろうと期待したいが、念のため言っておくと、
Japanese Intensive care PAtient Database
の略で、「国内最大の集中治療データベースです。」
僕の担当はデータ入力が正確かつ簡便に行われるようにすることで、その一環として、実際に施設を訪問してアドバイスをする、”サイトビジット”というのを5年前からやっている。平均で月にだいたい1ヶ所、これまで約70施設を訪問してきた。

どの施設も自分たちの状況に合わせたデータ収集方法を模索されていて、僕はそれをより良くする方法の提案をするという形でやっているので、結果として同じ方法でデータ収集をしているところは1つもない。そういうものかもしれないし、それは本当は望ましくないのかもしれない。「これがベスト」という方法をJIPAD側が提示するべきなのかもしれない。現状では多くの理由でそれはできていない。

この千差万別の方法を分類するとしたら、一番簡単なのは”自動入力”と”手入力”。もちろん自動入力の方が手間は少なくて済むのだが、これまたいろいろな理由で結構多くの施設が手入力をしている。そういう施設に行くと、「自動でやれたら簡単なんですけどね」という発言をされることが多い。
間違っていないのだが、じゃあ自動入力しているところは”正確かつ簡便”にデータ収集できているかというと、そうでもない。結構いろいろ苦労されている。

そのためなのか、「JIPADに参加すると大変だ」という噂が一部では飛び交っていると耳にする。
これは、正しくもあるが、間違ってもいる。
例えば慈恵は医者だけでデータ収集をしているが、日勤や当直が使う時間は1日で数分程度、責任者の僕でも月にせいぜい5-6時間で済んでいる。自動入力をしている他の施設と比べ、多分明らかに短時間。理由は、自動入力の前の段階で、入力がスムーズに行くように工夫をしているから。

これまでの経験を踏まえ、自動取り込みがどうしてうまく行かないのか、どんな前準備をしておくとよいのか、明日からいくつか書くことにする。これからJIPADへの参加を考えている方、JIPADじゃなくてもICUでデータを自動で収集しようと考えている方の参考になれば、嬉しい。

どんだけいるかな、そんな人。
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JIPADが2018年度年次レポートを公開!

2020年05月30日 | データベース・JIPAD
2018年度年次レポートを公開しました。

2015年度から発行しているので、今年で4年目。
最初は約5000例でスタート、そこからほぼ倍々で増えていて、今回は4万例弱まで来たよ。
来年は更に倍かな。

日本のICUの疫学情報はJIPADだけ。
是非、ご覧あれ。
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JIPADの機能をまとめました。

2020年02月20日 | データベース・JIPAD
日本のICUレジストリであるJIPAD
単にデータを収集するだけでなく、どんどん機能が追加されているので、まとめてみましたよ。

基本収集項目
・重症度スコア、人工呼吸期間などICU患者の把握に必要な情報の収集
・データ収集に必要なファイルメーカーファイルを無償で提供(ファイルメーカーは別途購入が必要)
・各メーカーの部門システムと連携して自動収集が可能
・入力間違いを指摘してくれるアラート機能が充実
・情報収集をより正確、簡便にするノウハウの提供(クエリ制度、サイトビジット)
・収集データが出力可能(自施設の状況把握、多施設研究への参加時の負担軽減)
・年次レポートを作成、公表
・参加施設向けに施設レポートを発行(ベンチマーク情報)
・全施設のデータを研究などの目的で利用可能(審査あり)

ExJIPAD
・基本項目とは別に施設独自の収集項目を自由に設定(JIPADサーバには送信されない)
・収集データが出力可能(自施設の状況把握、多施設研究への参加時の負担軽減)
・入室患者リストの表示、印刷(申し送りなど日常診療での使用)
・テキスト入力などカンファレンスでの使用も可能

その他
・日本集中治療医学会専門研修施設、新規申請および更新における申請書自動作成機能
・今後は日本集中治療医学会専門医申請補助機能も追加予定

こんなにある。リスト化してみて、自分でびっくり。
参加しない理由、ある??
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JIPADのデータ利用が解禁!

2020年02月02日 | データベース・JIPAD
になった。2020年2月から。

具体的には、こちらをご覧ください。
現状で、8万例くらいのデータが使えるよ。
研究し放題だね!
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JIPADの文献第一号!

2020年01月08日 | データベース・JIPAD
あけおめ、なんて今更かしら。

Irie H, Okamoto H, Uchino S, et al.; JIPAD Working Group in the Japanese Society of Intensive Care Medicine.
The Japanese Intensive care PAtient Database (JIPAD): A national intensive care unit registry in Japan.
J Crit Care. 2020 Feb;55:86-94. PMID: 31715536.


しばらく前にonline pubされていて、てっきり紹介したものと思っていたのだけど、ブログ内を検索しても出てこないから、どうも忘れていたらしい。

JIPADの文献、ついに出ました!
第一号はJIPADの仕組みとか、日本の疫学データとか。
図がちょっとかっこいいと思っております。

そして大ニュース。
もうすぐ、JIPADのデータが参加施設に開放されるよー。
すでにクリーニングが終了している、約8万例のデータ。
研究、し放題だぜい。

ただし、参加施設の人だけですからね。
データが欲しい人は、まず参加してね!
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データベースがあると楽できる。

2019年09月08日 | データベース・JIPAD
先日、集中治療医学会より集中治療専門医研修施設に向けた施設調査のアンケートの依頼が来た。
その中に、

・年間入室の総患者数
・年間延べ在室日数
・人工呼吸器使用患者数(NPPVは含めない)
・血液浄化法実施患者数(CHDF, HD, PMX-HP, 血漿交換など)
・ECMO(v-a, v-v どちらでも)実施患者数
・APACHE IIの中央値、25パーセンタイル、75パーセンタイル
・APACHⅡ以外で使用している重症度指標の中央値、25パーセンタイル、75パーセンタイル
・ICU実死亡率
・病院内実死亡率
・予測死亡率に用いたスコア、その予測死亡率

という項目があった。

毎年、こういう統計データの算出は部長から頼まれて僕がやるのだけど、今年はふと思い立ち、時間を測定してみた。
PCの前に座ってから、渡された紙に数字を書き込み終わるまで、14分だった。
ファイルメーカーやエクセルを使いなれているというのもあるけれど、楽な仕事だ。

JIPADに参加している施設では、これらの項目は全て収集している。
しかも、これらの数字を自動で算出できる機能を近日中に提供する予定。
さらに楽だ。
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JIPADのホームページが更新

2019年07月03日 | データベース・JIPAD
最新のレポート(2017年度版)

PDFはアップされていたけど、ホームページ内でかっこよく見られるようになった。
日本のICUの最新情報が見られるのはここだけ!
27000例に何が起こったか、是非、ご覧あれ。
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