徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

運動神経ゼロ犬…(其の八 鼻黒の秋と冬)

2007-02-25 22:50:22 | 運動神経ゼロ犬
 台風の時は鼻黒も居間に上げて貰える。
それだけでも興奮状態で息が荒い…。
嬉しいんだけど不安…そんな表情でみんなを見ている…。

 犬は耳が利くから…風の音が普段とは違うことに気付いている。
落ち着かない様子でハアハアと息をする…。
けれども…部屋を動き回ったり騒いだりはせず…おとなしくじっと座っている。

 時折…みんなに撫でて貰っては…嬉しそうに尻尾を振った…。
野外で暮らしている鼻黒は…家の中に居るのが窮屈そうだ…。
それでもみんなと一緒…がいいらしい…。

 早いうちに散歩へは連れて行ってもらっているから…小さい時のように頻繁に粗相はしない…。
時には…家具にマーキング…もないわけではないが…。

 みんなが寝る頃になると鼻黒も居間の隅っこの自分用の毛布で静かに眠る…。
外ではゴォーゴォーと風が唸っているが、其処に居れば安全だと分かっているみたいだ…。

 朝一番で…台風一過の青空の下へと出して貰う…。
外へ出るのが嫌だとは決して言わない…。


 すすきの穂が揺れる頃、散歩帰りの鼻黒の身体には盗人萩がいっぱいくっついている…。
ダニほどには鬱陶しくないのか意に介さない様子…。

 背中を擦りつけるように擦り寄ってきて、茶色い抜け毛と緑の種のプレゼント…。
それはあまり…有り難くないよ…。
でも…ちょっと冬毛に変わってきたんじゃない…?

 毛皮のコートもそろそろ冬支度か…。
御布団あれだけで足りるかい…?
オカンになんか出して貰おうか…。

 にこにこすりすり…。
夏の暑い時でも傍に居たがるけど…寒くなってくると余計だね…。
 doveが風邪を引いて寝てる時いつも…doveの蒲団に潜り込んでたからかな…。
お前が居るととても温かだった…。


 雪が降り始めると地面もほんと冷たいね…。
小屋の中に居ればいいのに…。
そんな白い息をして…。

 踏み石の上に座っている。
冷たい石の上に…自分の尻尾を敷いて…。

○○ちゃん…尻尾ナイナイ…と親父が声をかける。
鼻黒の顔が緊張する…。

遊んで貰えるのかな…。
その眼が輝く…。

 オカンが新しいバスタオルや毛布を小屋に入れてやると…やっと小屋に飛び込んだ。
いつもの毛布が冷え切って寒かったんだろう…。
 貰ったばかりの毛布を鼻でならして居心地を整える…。
何枚かの蒲団を器用に組み合わせて…。

 毎年…クリスマスにはケーキが貰える…。
普段は食べられない美味しいケーキ…。

 前の家に居た頃…そう…バターケーキの頃…オカンが○○ちゃんにも…とケーキをのせた皿を持って外に居た鼻黒のところへ行った。
オカンがケーキのきれっぱしを箸でつまんで鼻黒にやろうとすると…鼻黒は人間の子供のようにあ~んと口を開け…ひと口ひと口箸で食べさせて貰った…。

 ぱくっと食いつくのではなく…あ~んと…。
人間みたいだわ…オカンは今でも思い出して笑う…。


 晩年…鼻黒は冬になると風呂の湯沸しタンクのある勝手口の中に入れて貰って夜を過ごした…。
其処は外よりはずっと温かくて時々誰かが来て触って貰える…。

 勝手口の扉の内側に好みの形に毛布を整えて眠る…。
風も吹かないし…雪も降らない…温かい家の中で春まで過ごした…。


雪が降ったよ…鼻黒…。
明日積もっていたら…森へ行こうか…。

 お前が雪の中を駆けて行く姿はなかなか格好いいよ。
芝には雪がよく似合う…。

 だけど…うさぎに夢中になって雪の中でこけるなよ…。
埋もれちゃったら…見えないよ…。

なにせ足が…短いんだから…。



 


続く…。