徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

運動神経ゼロ犬…(其の七 鼻黒の春と夏)

2007-02-23 17:37:17 | 運動神経ゼロ犬
 早朝…オカンが雨戸を開けると待っていたかのように…ウァゥォン…と挨拶…。
どうやら…おはよう…と言っているらしい…。

前の家と違って丘陵地の新しい家では、鼻黒に声をかけてくれるような近所のおばさんたちや子供たち…工事のおじさんたちも居ない…。

昼間はたったひとりで留守番をしている…。
大概…昼寝…。

 小屋に敷いてある毛布を引っ張り出して干し…その上で自分も干さっている…。
遮るものもなく天日干しされた鼻黒の毛は…毛並みが悪くてぞこぞこだが…それでもふうわりと温かい…。


 会社と自宅が林を抜ける道一本で繋がり、眼と鼻の先の距離になったこともあって、丘陵地へ来てからの散歩は親父の日課になった…。

 それでも休日の散歩には…親父と子供たちの中の誰か…とが連れ立って出かけることもよくあった…。

 人けのない丘陵地の原っぱでは…鎖を外して自由にさせてやることができた…。
鼻黒はこれ幸いに原っぱのど真ん中を突っ走る…。
縦横無尽に駆け回る…。

 時折…ゆっくり歩いている親父やdoveの脛の辺りをするっと掠めるようにして駆け抜けていく…。
小さな身体中に満ちる喜び…開放感…笑顔…溢れさせて…。

見ていて胸が空くほど小気味良い走り…。

 足が短いだけに春の散歩は草花の間を抜ける格好になるので…戻ってきた時には鼻黒の黒い鼻が花粉にまみれていることもある…。

なんとも可愛い…。


 家族の休日は鼻黒にとって盆と正月のようなもの…。
誰かかんかに遊んで貰えて嬉しそうだ…。

 誰も家から出て来てくれないと…サッシの向こうから気が気じゃなさそうに真剣に人の動きを眼で追っている…。
そんな眼をされちゃ触ってやらずには居られない…。

 町中とは違って丘陵地にはダニが多く…鼻黒の身体には血を吸って膨れ上がったグレーの玉がいくつも食いついていた…。
小さいものは海老茶の小型の蜘蛛みたいなものだが…血を吸うと1㎝以上にもなる。
それが身体中にいっぱいくっついている…。

 鼻黒と遊んでやるたびにダニを取って潰してやるのだが…あまりに数が多くて閉口した…。
これだけ血を吸われていたら気持ち悪いだろうなぁ…。
 しかもこれらのダニたちはしっかりと皮膚に喰らいついている…。
本当に嫌な奴等だ…。


 夏になると…自分で穴を開けて作った乳母車の別荘に移動…。
ボロボロの乳母車は案外風通しがいいようだ…。
屋根代わりに乳母車から小屋へ渡した板があるので、中は丁度日陰になっているから、格好の昼寝場所なんだろう…。
 
 暑い日が続くと鼻黒も食欲がなくなる…。
犬も人間と同じで、あまり暑いと夏バテする…。
何しろ毛皮を着ているからなぁ…。

 その毛皮を通してでも薮蚊は襲うらしく…いつも首の辺りを後足で掻いていた。
蚊取り線香を焚いてやっても…それほど効果は上がらないみたいだ…。
ないよりはましというところか…。

 素麺を汁がけにして与えてやると口当たりが良いのかつるつると食べる…。
ラーメンは嫌いだが素麺はわりと好きなようだった…。

 嫌いと言えば…韮…韮粥の韮だけ残して米だけをきれいにたいらげた。
舌だけ使ってよくまあ…と感心するほど…。

 二匹目の犬の時に初めて知ったのだが、韮だの葱だの玉葱だのは犬には食べさせてはいけない野菜なのだそうだ…。
分からんままにいい加減な餌を食べさせて可哀想なことをした…。

 ペットの餌や躾けに世間が眼を向けるようになったのはまだ最近のことで、ちょっと前まで、犬は味噌汁御飯、猫は鰹節御飯が定番だった。
今時の愛犬家が聞いたら目を剥きそうな話だ…。

 親父と子供たちが川遊びに出かける時にはお供をすることもあった…。
車酔いしながらも一緒に行きたいらしい…。
雨や水溜りが嫌いなくせに…川では平気で泳ぐのが不思議だった…。


 秋風が吹く頃…オカンが小屋の中の敷物を増やしてやった…。
新しい…と言っても古毛布など人間のお下がりだが…敷物が小屋に入ると…悦び勇んで小屋に飛び込み好みの形に敷き直す…。
犬にも好みの寝心地…があるようだ…。

 これからだんだん寒くなるなぁ…鼻黒…。
雪が降ったら…森へ行こうな…。
森の冬を見つけに行こうな…。





続く…。