徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

運動神経ゼロ犬…(其の六 怖いよ~っ!)

2007-02-21 09:52:00 | 運動神経ゼロ犬
 鼻黒は打ち上げ花火が嫌いだ…。
遠くであってもパンッとかドンッとか言おうものなら…きゅ~きゅ~ぴ~ぴ~騒ぎ出す…。
丘陵地に新しく建てた家は隣町に近いので…隣町の打ち上げ花火の音がよく聞こえた…。

 小屋を庭との境の土留の上に置いた関係で、鼻黒は家の中の様子を窺い知ることができ、サッシをあけて欲しい時などは前足を硝子にかけて後足立ちになり、カリカリッカリカリッと両足交互に引っ掻いた…。

 花火の季節には鼻黒にとって…もっとおっかないものがやって来た…。
ドゴォォーン…ガラガラ…ドッシャーンッ! 
大きな音がするだけではない…。
鼻黒の嫌いな閃光や雨を連れてくる…。
バキバキバメキメキ…ズズズズッ…ズガガーンッ!
周りに高い建物のない丘陵地の雷は音も光も効果抜群…。

 前の家も大きな道路を隔てた向こう側に鉄塔が建っていたから…かなりの轟音が響き渡ったが…町中だけに車などの騒音と混ざり合って少しは緩和されていた…。  

 台風なら家の中に入れて貰えるが、雷くらいでは迎えに来て貰えない…。
ことに昼間はみんな出かけてしまって居ないから、なおさら誰も来てくれない…。

 ならば…小屋の中で縮こまっているかというと…怖過ぎて…できるだけ家族の匂いのする家の方へと近寄り…結果…ずぶ濡れになっている…。
中に居れば嫌いな雨に降られないで済むものを…。

 その日もひどい雷だった…。
仕事から帰ってきたオカンがいつもどおりに居間に入ると…なんと…鼻黒が居る…。
 見ればサッシの硝子が二枚割れ…床に散らばっている…。
鼻黒はその中で心細げにキュ~キュ~言っていた…。

怖かったよ…怖かったよ…。

オカンは一瞬…考えた…。

えらいこっちゃ…いくら掛かるんだろう…。
サッシのガラス代…二枚分…。

オカンと一緒に帰ってきた末の弟が慌てて鼻黒に駆け寄った。

 「大丈夫か…○○ちゃん…? 怪我しとらんか…? 」

口の中を切ったらしく鼻黒は血を流していた…。
末の弟は心配そうに鼻黒を撫で撫でした…。

そうかそうか…怖かったんかね…。

修理代…払う方と払わん方のこの違い…。
まぁ…分からんでも…ないけど…。

 鼻黒は雷に怯えて分厚いサッシの硝子を二枚叩き割り、さらに噛み割って穴を広げ、何とか家の中に上がり込んだのだった…。
どれだけ必死だったかが察せられる…。

オカンたちが帰ってきたのでほっとしたのか…十分撫で撫でして貰ってから鼻黒は小屋へ戻った…。

 犬も長年一緒に居ると…やって良いことと悪いことを少しは区別する…。
硝子を割ったことは悪いことだと承知はしているようで…叱られるんじゃないかとちょっと上目遣いに様子を探っていた…。
けれども誰にも叱られず…みんなに大丈夫か?…怪我ないか?…と訊かれただけだった…。

 鼻黒の場合、それで図に乗るということはなく、その後は勝手に家の中に入ることもなく…一段下の踏み石のところにちょこんと座っているか…小屋に向かい合わせの乳母車の底に自分で穴を開けて潜り込みハンモック代わりにして寝ていた…。
言ってみれば…自作の別荘持ち…犬だけど…。

 修理に来たガラス屋さんが…ニタニタ笑っている…。
硝子が割れた原因は…親父とオカンの夫婦喧嘩だ…と思っているのだ…。

 喧嘩じゃなくて…雷が怖いもんで犬が割ったんだわ…とオカンが説明しても聞かない…。
ガラス屋は…こんなもん犬が割るわけないって…奥さん…なんかぶつけよったろう…と言う…。
こりゃぁ夫婦喧嘩だわ…。

○○ちゃんのお蔭でとんだ濡れ衣だわ…と…オカンは苦笑した…。
ガラス代金は○万円…。

 言われて見れば…分厚いサッシの硝子を割るなんてことは…怪我を覚悟で体当たり或いは足蹴りにするか物でも使わない限り…つまり割る気で割らないと人間でも…なかなか…。

 まして小さな鼻黒が…体当たりしたぐらいじゃ…簡単には割れない…。
恐怖に駆られて相当なバカ力を出したんだなぁ…。
可哀想に…痛かったな…。

 痛くても痛いって言えない鼻黒…。
撫で撫でされれば…それでもにこにこ…すりすり…。

少しでも近付こうとお尻を向ける…と親父やオカンは言うが…dove的には秘かにマウンティングの姿勢だと考えている…。

いや…マウンティングは結構…遠慮しとくよ…。
doveは犬じゃないんでね…。






続く…。