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米国がリードする新産業革命―武者陵司 氏の経済セミナー

先週、今年最後の経済セミナー・講師・武者陵司氏を聞きに出かけた。武者氏は現役のエコノミスト時代は渋い評論で有名だったが、独立して以降は、イケイケの評論スタイルとなっている。マイナス発言では、お声がかからなくなるので、スタンスを変えたのであろうか。それはどうでも、今回はどういう論調であろうか。標題は“米国がリードする新産業革命”とあるので、次期大統領トランプ氏の政策をどう予想し、その結果をどう見ているのであろうか、興味津々であった。

まず武者氏は米国経済の現状を列記して、それをトランプ氏の政策がどのように助長するかを示している。米国は“沈みゆく大国か?”、その経済は果たして衰退の状況にあるのかと、問いかける。そうではなく実情は次の通りだと言う。
①IT革命に支えられた最高の企業収益
②世界で最も進んだイノベーションによる競争力
③低金利下にもかかわらず高貯蓄により潤沢な投資余力
④健全化した国家財政
⑤改善している経常赤字
⑥インフレ化しない経済
①、②はそうだろうと思うが③はそうなのか。米国の家計の貯蓄率は近年5%前後に改善してきているということだ。その債務を控除した純財産も95年以来最高になっているとのこと。米国人は貯蓄せず、借金が多いのだという一般的日本人の認識は変える必要がありそうだ。ちなみにネットで日本の貯蓄率を調べてみると、ここ数年0%に近いかマイナスになった年もあるというお寒い状況のようだ。’90年代から驚くほどの速度で日本人が貧困化していることが分かる。かつて、日本の閣僚が、“米国では黒人などが、困ったら借金してその後ケロケロピーだ。”とバカにしていた記憶があるが、その立ち位置は全く逆転している。“ジャパン・アズ・ナンバーワン”は既に夢まぼろしなのだ。
④は、かつて米国は膨大な貿易赤字と共に財政赤字を抱えていたとされ、これを双子の赤字と称していたが、対GDPの財政赤字の比率は、2014年にはマイナス4%程度であり、今後はマイナス3%へさらに縮小して行くと予測されている数字を武者氏は示している。ここ数年の赤字幅は6千~7千億ドル(60~70兆円)となっているようだ。
日本の財政赤字は勿論自慢できる状態ではなく、対GDPの財政赤字の比率は米国より1ポイント程度さらに悪いようだ。しかし、永年積上げられた国債残高は800兆円前後あり、この対GDP比率は160%程度になっている。地方と合わせれば1千兆円という。これは恐らく世界最大の財政赤字国なのだろう。
⑤は2006年には8千億ドルだったものが、近年4千億ドルに縮小しているとの武者氏の説明だった。これは貿易収支ではなく、資本収支の改善によって急速に改善しているとの解説だ。これはスマホに代表される米国のIT技術による恩恵だと言う。このため長年の経常赤字は2020年頃には収支トントンになる予測とのことだった。
⑥は、世界が強い需要が生まれない社会になっているための一般的傾向だ。この現象を“日本化japanization”と言っていたが、最近はこういう表現は見られず一般化した印象だ。しかし、以前は好況になるとやがてインフレ化し、それに対応して金利を引き上げ、その結果不況になるという経路をたどったが、そういう懸念は薄いのが現状で、強い持続の好況を期待できると、武者氏は指摘していた。

武者氏は指摘しなかったが、ここに私は米国の経済ばかりではなく、政治でも重要な要素として⑦を追加したい。
⑦シェール・オイルを米国内で産出し、国際原油価格にも大きく影響するようになった。
ことである。私はシェール・オイルが成功しつつあるというニュースを聞いた時から、米国の将来は明るいと強く感じるようになった。エネルギーとIT技術革新が両輪となって米国経済を躍進させると単純に思ったのだった。
その後これによって米国政府は、中東の政治情勢に興味を持たなくなった。このためロシアの中東での影響力が強くなり、サウジアラビアも米国べったりではなくなって来ている。イスラエルは今後どんどん微妙な立場になるだろう。しかし、その点については米国のマスコミや金融界はユダヤ人によって握られているので、急激な変化はないものと見られる。
このように国際情勢は、かすかにではあるが変化してきているのは見逃せない傾向である。

こういう好条件下にあって、トランプ氏の政策は次のようなものであると武者氏は指摘する。兎に角、レーガン大統領の政策とよく似ているのだという。
①壮大な減税・・・法人税、所得税、キャピタル減税延長、相続税撤廃、海外収益還流減税
②インフラ投資・・・1兆ドルの投資と防衛支出Peace through stength
③規制緩和・・・金融規制
これは米国の景気をさらに押し上げるのは事実だろう。特に、②ではレーガン大統領の場合はソ連との対決(“悪の帝国”と決めつけスターウォーズ計画などの軍拡実施)で、ついに“悪の帝国”を崩壊させてしまった。これに対し、トランプ氏は対中国対決であるとの指摘だ。しかし、トランプ氏は今やロシアとは協調姿勢であるというのを、武者氏はどう解釈してくれるのであろうか。米露で中国と対峙するということか。
③は、現状は銀行規制が厳しいとの指摘はあったが、具体的にどうなのかの説明はなかった。しかし、世上でも多く言われていることではある。その銀行規制が厳しいとは、リーマン・ショック以後のことであろうか。ならば、それを緩めれば再びリーマン危機となる可能性が大きくなるのではないか。
武者氏の講演内容は多少誤解もあるかもしれないが以上の通りだった。

こした景気刺激策で金利高、ドル高となるが、これにより新興国はから資金流出が起きるだろう。特に、それは中国経済に結構ダメージとなるのではないかと思われる。中国当局は直近外貨規制を厳しくしているが、それでもキャピタル・フライトが激しくなっており外貨準備が急減しているという。そういう状況では、世界経済不安の要素になりかねないと思われる。その影響については、武者氏の指摘は無かった。
また、こうした政策でトランプ氏を支持したプアー・ホワイトが十分満足できる結果をもたらせるかどうか、一部富裕層への恩恵だけとなれば、反発を招きかねない。激しい反発を受ければ、銃社会の米国では暗殺という事態も考えられるのではないだろうか。

私個人としては この1年NISA投資について、迷いに迷って年末に至った。日本の企業家経営者が将来へ投資せず、従業員への報酬を増やす訳でもなく、内部留保に躍起になっているだらしない姿を見ていると、日本経済には良い見通しが全く持てない。従って、海外、特に米国への投資しか考えられない。一方政治家は人口減少対策に有効な政策を打ち出していない。教育に金がかかるという社会は亡びゆくしかないではないか。どうやら日本でも富裕層からの米国へのキャピタル・フライトは密かに進行しているようだ。さらに、武者氏のような見通しを語るエコノミストの存在が、米国への投資にある種の安心感を誘う。そこで損切りした株資金を年末ギリギリで米国投資に回すことにした。
現状、期待先行で相場は上昇し、ある種“根拠なき熱狂”のように見えるが、トランプ氏に対する警戒感が起きるならば、その時期は直近では大統領就任前後であり、それを無事越えれば、プアー・ホワイトを十分満足させられるかどうかが明白になる時期、半年から1年後であろうか。プアー・ホワイト達はラスト・ベルトを復活させてくれると思い込んでいるが、オールド・ファッションの重厚長大産業は米国では復活しない。なので、トランプ氏の政策がすんなり首尾よく行くものとは思えないのだ。
とは言え、米国への投資には一定の期待感を持つものの当面年明け中旬頃まで一旦手控え、様子見の必要があると思っている。

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