The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
セミナー“環境ビジネスとしてのBOPビジネスの可能性”に参加して
またまたセミナー紹介となって恐縮だが報告したい。先週、“BOPビジネスの可能性”という言葉に魅かれて、そういう標題のセミナーに参加した。というのは、別のセミナーでもらったチラシに“BOP(Base of Economic Pyramid)ビジネスとは、途上国の低所得層を対象(消費者、生産者、販売者のいずれか、又はその組合せ)とした持続可能な、現地における様々な社会的課題(水、生活必需品・サービスの提供、貧困削減等)の解決に資することが期待される新たなビジネスモデルです。”とあり、途上国の 貧困層に浸透するビジネス形態というかその態様がどのようなものか、又 ビジネスの持続可能性を言うならば、必ず収益性が問題となるが、それを貧困層を相手にどのようにするのかを知りたかった。何故そんなビジネスに興味があるかと言うと、そうした貧困層を健康で文化的な生活のできる階層へ引き上げることは、定員過剰となっている地球人口抑制のための根本的政策になると思っているからだ。そういう視点で、こうした問題を考えた場合に“環境”と結びついてくるという意識があったからだ。そのチラシには、さらに“今回のセミナーでは、環境ビジネスをBOPビジネスとして、その可能性をさぐる”とあったのだった。
さて、そのセミナー“環境ビジネスとしてのBOPビジネスの可能性”のプログラムは以下の通りで、会場は“おおさかATCエコプラザ・ビオトーププラザ”であった。
[講演1] BOPビジネスと企業戦略:戦略意図の重要性
講師:慶応大学ビジネススクール 准教授 岡田正大 氏
[見学会] サラヤ㈱と㈱コモチ のエコプラザ内展示ブースの見学と概要説明
[講演2] 国際協力機構(JICA)によるBOPビジネスの支援策
講師:JICA 民間連携室 連携推進課 調査役主任 川谷暢宏 氏
[講演3] ウガンダでの衛生事業開発
講師:サラヤ㈱ ウガンダ・プロジェクトチーム PJリーダー 北條健生 氏
講師の岡田氏の説明の中で、最初に印象的だったのは、“欧米ではBOPという言葉は用いず 通常はInclusive Business包括的ビジネスと言っている”とのことだった。どうやらBOPビジネスという言葉には差別的な臭いがするので、低所得層も含めたビジネスというのが先進的表現のようだが、日本ではBOPという言い方が官民双方の分野で一般的になっていて、そのまま定着してしまっている、ということであった。そう言えば、日本では“低開発国”という言葉が長い間使われ、最近ようやく“発展途上国”という言い方の方が一般的になったが、差別的表現に対し日本ではデリカシーが乏しい側面がしばしば見られる。それは、日本の指導的階層に差別的意識が潜在的に存在するためではなかろうか。日本がそれだけ文化的に成熟していないことを示すものではないだろうか。これが真相なら非常に残念なことだと感じた。
さらに、岡田氏は本来は企業戦略を専門としていたが、その戦略は一般的には先進国でどのように成功するかというモデルの提示であり、MBA課程となっている。しかし、それはそのまま途上国でも成立し得るのかを検証して来ており、7カ国6次にわたる途上国の現地調査に従事して来たとのこと。
さて、ここで“BOPとは、世界人口63億人(2002年現在)で構成される収入ピラミッドの基底部分(年間個人収入$3000以下)45億人を指す。”とある。この部分の総額は5.65兆ドル(購買力平価換算で565兆円)であるが、“先進国市場が成熟し、成長率が鈍化する中、BOPの市場成長率は他市場を上回る。”つまり、国内市場に留まることは論外だが、海外進出すると言えば先進国市場への進出ではなく、まして今の新興市場にて待つのでもなく、“BOP層はネクスト・ボリュームゾーン”と見て積極参入するべきものではないか、という主張である。
例えば、自動車産業でリーマンショック以降特に2010年以降急速に業績を伸ばしているのは、インドのタタモーターであり、韓国の起亜、現代であり 彼等こそそのボリュームゾーンに注力して成長を遂げている。要するに“地球上全域に潜在市場を想定”して“戦略意図strategic intent”を持っているか否かが今後の企業戦略の鍵となると言うことである。いわば先進国理論の“ポーターの一般戦略では勝てない”として、“自社の経営資源の現時点の賦存状況にこだわらず、自社が目指す将来の姿を「意図・野心・執念・覚悟obsession」を持って持続的に抱き、その将来にアプローチするために資源や能力を獲得する(経営理念やミッションと戦略計画の間に位置する)”しなければならない。つまり、“外部環境と内部環境の適合strategic fitを重視する戦略計画strategic planningの範疇を超える” “戦略意図strategic intent”を持たなければ、今後の企業成長は見込めず、Prahalad & Hamelの主張(1989)によれば、“降伏した企業に共通して見出したのは、”こうした戦略意図を持って“これにコミットする勇気が欠落した経営幹部の存在である”と言う。
だが、そういうポジショニングが成功要因になるどうかは、必ずしも決定的要素ではなく、その企業の考え方次第であると言う。つまり、そういうポジショニングすなわち“外部環境としての業界効果”要因は ほぼ15%であり、コア・コンピタンスすなわち“内部環境としての個別事業効果”は、45%である。残りの要因は想定できない不確実性によるということであるのは ほぼ普遍的なことだとの指摘であった。
だが、ここで議論されているのは、コモディテイ化している製品を扱うB to C型産業に属する企業に限定される課題であろう。B to B型産業であったり、B to C型産業であっても特別な趣向を持つ人々を顧客に持つような企業には当てはまらないと思われる。ただし、そうであっても あくまでも企業のコア・コンピタンスは何か、それを磨き上げることが企業戦略の基本であるのは間違いない。
その上で、経営者の意志が重要なのは 従来の経営論でも指摘されているテーマである。それが、“戦略意図”と言われれば、当然のことであり、そのための“外部環境と内部環境の適合を重視する戦略計画”が 必要だと言うのは、従来感覚と何ら変わるところがないのではないか。それを殊更に新しい考え方であるかのように装うのはどういう了見であろうか。
しかし、岡田氏の言う次の指摘は納得的である。
戦略的であるためには、企業革新を通じて風化した創業理念を地球規模に普遍化再編し、経済性と社会性の同時成立した“共有価値shared value”を確立し、それを“何を為すべきか”という志とし、“戦略的意図”としてビジネスへ展開することである。“地球規模の皮膚感覚”とは言うものの日本を含む先進国中心主義の意識は 今後の世界では意味を成さず、真の“地球規模感覚”としてニーズや それに必要な能力が何処に存在するのか探査する意識が重要である。その上で 必ずしも収益中心でない“共有価値”を持ったビジネス展開のために ニーズのある現地での基礎的教育を含めた人材育成が必要となって来る、と言う。
そうすることで、新興国での圧倒的シェアつまり低所得層だけでなく、中間層、富裕層も同時に取り、スーパーマジョリティである“70%超を達成”することが見えて来るのだと言うことである。そういう志と意気込みを持って、“「心地よい領域」から踏み出す”覚悟が必要である、というのだ。恐らく、岡田氏は “心地よいままに ゆで蛙”になるな、と言っているのであろう。その覚悟を示すには、委員会や会議室からは何も生まれず、“きわめて問題意識の高い「個人」”を起用して即座に行動することが鍵になるとも指摘している。まさに“やるなら今でしょう!”なのだ。
そうは言っても、スーパーマジョリティを取りたいというのは、ある種の強欲、傲慢ではないのか。そういう精神的背景に腐敗が宿ることはないのだろうか。何事をも為さずに 言うべき言葉ではないのかも知れないが…。
次に、登壇した川谷氏は、政府系機関としての国際協力機構JICAの役割について説明した。いわゆるJICA法を根拠とし、“ビジネスという手段を使ってBOP層の持つ「開発課題」を解決”し、“世界人口の72%を占める貧困層を中間層へ脱出させる”手助けをする役割を担うとのこと。特に、今年は政府の外交戦略に沿ってアフリカを中心に活動して行くとのことであった。
サラヤ㈱の北條氏は、主力製品であるアルコール消毒剤のウガンダでの普及活動について報告した。乳幼児の死亡率低減のため、ユニセフの活動支援として感染症対策の決め手である手指衛生の確立と意識改善に取り組んでいるとのことで、それはサラヤの社会的使命の一環であるとの説明。勿論、ウガンダ政府機関との交渉ではJICAも協力しており、ウガンダ近隣諸国との“東アフリカ感染症会議”を開催したりして、活動をPRしているということであった。
さて、そのセミナー“環境ビジネスとしてのBOPビジネスの可能性”のプログラムは以下の通りで、会場は“おおさかATCエコプラザ・ビオトーププラザ”であった。
[講演1] BOPビジネスと企業戦略:戦略意図の重要性
講師:慶応大学ビジネススクール 准教授 岡田正大 氏
[見学会] サラヤ㈱と㈱コモチ のエコプラザ内展示ブースの見学と概要説明
[講演2] 国際協力機構(JICA)によるBOPビジネスの支援策
講師:JICA 民間連携室 連携推進課 調査役主任 川谷暢宏 氏
[講演3] ウガンダでの衛生事業開発
講師:サラヤ㈱ ウガンダ・プロジェクトチーム PJリーダー 北條健生 氏
講師の岡田氏の説明の中で、最初に印象的だったのは、“欧米ではBOPという言葉は用いず 通常はInclusive Business包括的ビジネスと言っている”とのことだった。どうやらBOPビジネスという言葉には差別的な臭いがするので、低所得層も含めたビジネスというのが先進的表現のようだが、日本ではBOPという言い方が官民双方の分野で一般的になっていて、そのまま定着してしまっている、ということであった。そう言えば、日本では“低開発国”という言葉が長い間使われ、最近ようやく“発展途上国”という言い方の方が一般的になったが、差別的表現に対し日本ではデリカシーが乏しい側面がしばしば見られる。それは、日本の指導的階層に差別的意識が潜在的に存在するためではなかろうか。日本がそれだけ文化的に成熟していないことを示すものではないだろうか。これが真相なら非常に残念なことだと感じた。
さらに、岡田氏は本来は企業戦略を専門としていたが、その戦略は一般的には先進国でどのように成功するかというモデルの提示であり、MBA課程となっている。しかし、それはそのまま途上国でも成立し得るのかを検証して来ており、7カ国6次にわたる途上国の現地調査に従事して来たとのこと。
さて、ここで“BOPとは、世界人口63億人(2002年現在)で構成される収入ピラミッドの基底部分(年間個人収入$3000以下)45億人を指す。”とある。この部分の総額は5.65兆ドル(購買力平価換算で565兆円)であるが、“先進国市場が成熟し、成長率が鈍化する中、BOPの市場成長率は他市場を上回る。”つまり、国内市場に留まることは論外だが、海外進出すると言えば先進国市場への進出ではなく、まして今の新興市場にて待つのでもなく、“BOP層はネクスト・ボリュームゾーン”と見て積極参入するべきものではないか、という主張である。
例えば、自動車産業でリーマンショック以降特に2010年以降急速に業績を伸ばしているのは、インドのタタモーターであり、韓国の起亜、現代であり 彼等こそそのボリュームゾーンに注力して成長を遂げている。要するに“地球上全域に潜在市場を想定”して“戦略意図strategic intent”を持っているか否かが今後の企業戦略の鍵となると言うことである。いわば先進国理論の“ポーターの一般戦略では勝てない”として、“自社の経営資源の現時点の賦存状況にこだわらず、自社が目指す将来の姿を「意図・野心・執念・覚悟obsession」を持って持続的に抱き、その将来にアプローチするために資源や能力を獲得する(経営理念やミッションと戦略計画の間に位置する)”しなければならない。つまり、“外部環境と内部環境の適合strategic fitを重視する戦略計画strategic planningの範疇を超える” “戦略意図strategic intent”を持たなければ、今後の企業成長は見込めず、Prahalad & Hamelの主張(1989)によれば、“降伏した企業に共通して見出したのは、”こうした戦略意図を持って“これにコミットする勇気が欠落した経営幹部の存在である”と言う。
だが、そういうポジショニングが成功要因になるどうかは、必ずしも決定的要素ではなく、その企業の考え方次第であると言う。つまり、そういうポジショニングすなわち“外部環境としての業界効果”要因は ほぼ15%であり、コア・コンピタンスすなわち“内部環境としての個別事業効果”は、45%である。残りの要因は想定できない不確実性によるということであるのは ほぼ普遍的なことだとの指摘であった。
だが、ここで議論されているのは、コモディテイ化している製品を扱うB to C型産業に属する企業に限定される課題であろう。B to B型産業であったり、B to C型産業であっても特別な趣向を持つ人々を顧客に持つような企業には当てはまらないと思われる。ただし、そうであっても あくまでも企業のコア・コンピタンスは何か、それを磨き上げることが企業戦略の基本であるのは間違いない。
その上で、経営者の意志が重要なのは 従来の経営論でも指摘されているテーマである。それが、“戦略意図”と言われれば、当然のことであり、そのための“外部環境と内部環境の適合を重視する戦略計画”が 必要だと言うのは、従来感覚と何ら変わるところがないのではないか。それを殊更に新しい考え方であるかのように装うのはどういう了見であろうか。
しかし、岡田氏の言う次の指摘は納得的である。
戦略的であるためには、企業革新を通じて風化した創業理念を地球規模に普遍化再編し、経済性と社会性の同時成立した“共有価値shared value”を確立し、それを“何を為すべきか”という志とし、“戦略的意図”としてビジネスへ展開することである。“地球規模の皮膚感覚”とは言うものの日本を含む先進国中心主義の意識は 今後の世界では意味を成さず、真の“地球規模感覚”としてニーズや それに必要な能力が何処に存在するのか探査する意識が重要である。その上で 必ずしも収益中心でない“共有価値”を持ったビジネス展開のために ニーズのある現地での基礎的教育を含めた人材育成が必要となって来る、と言う。
そうすることで、新興国での圧倒的シェアつまり低所得層だけでなく、中間層、富裕層も同時に取り、スーパーマジョリティである“70%超を達成”することが見えて来るのだと言うことである。そういう志と意気込みを持って、“「心地よい領域」から踏み出す”覚悟が必要である、というのだ。恐らく、岡田氏は “心地よいままに ゆで蛙”になるな、と言っているのであろう。その覚悟を示すには、委員会や会議室からは何も生まれず、“きわめて問題意識の高い「個人」”を起用して即座に行動することが鍵になるとも指摘している。まさに“やるなら今でしょう!”なのだ。
そうは言っても、スーパーマジョリティを取りたいというのは、ある種の強欲、傲慢ではないのか。そういう精神的背景に腐敗が宿ることはないのだろうか。何事をも為さずに 言うべき言葉ではないのかも知れないが…。
次に、登壇した川谷氏は、政府系機関としての国際協力機構JICAの役割について説明した。いわゆるJICA法を根拠とし、“ビジネスという手段を使ってBOP層の持つ「開発課題」を解決”し、“世界人口の72%を占める貧困層を中間層へ脱出させる”手助けをする役割を担うとのこと。特に、今年は政府の外交戦略に沿ってアフリカを中心に活動して行くとのことであった。
サラヤ㈱の北條氏は、主力製品であるアルコール消毒剤のウガンダでの普及活動について報告した。乳幼児の死亡率低減のため、ユニセフの活動支援として感染症対策の決め手である手指衛生の確立と意識改善に取り組んでいるとのことで、それはサラヤの社会的使命の一環であるとの説明。勿論、ウガンダ政府機関との交渉ではJICAも協力しており、ウガンダ近隣諸国との“東アフリカ感染症会議”を開催したりして、活動をPRしているということであった。
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