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今年の株主総会に出席して

6月下旬は 日本の大半の会社の株主総会が開催される時期だった。私も マネジメントに興味ある者として、株式会社の最高決定機関としての株主総会の意味を知るために参加するべきだと思い、開催通知が 手元に来た所に出掛けることにした。関西在住の私が出席したのは、関西で総会を開催したガス会社と重工会社、銀行の3社だった。

この3社の株はバブル崩壊の前の1980年代に購入したものだった。当時は、どんなボロ株も値上がりし、それで 誰しもがささやかな臨時収入を楽しんだものだった。その帰結が90年代のバブル崩壊へとつながり、逃げ遅れで持っていた株は“塩漬け”とせざるを得なかった。幸い、その後の金融崩壊の嵐の中でも“塩漬け”にした株はいずれも“紙屑”になることなく今日に至った。これまで、いつもこの季節になると株主総会の開催通知が来ていたのだが 昨年まで日常に取り紛れて出席したことはなかった。ついでながら、幸か不幸か、電力株は 10年ほど前に手放していた。当時既に燃料電池の技術革新と普及に期待して同じエネルギー関連のガス会社に鞍替えしていたのだ。この鞍替えが時代に即していたのかどうか・・・・今後の評価となる。

出席した3社の内、自社内講堂で開催したのが2社、外部の大きな会館を借りてやったのが1社。参加者としては外部の大きな会館で数時間をゆったりした気分で参加できる方が快適であるが、株主として経費軽減を心配するなら そうも言ってはいられないのだろうか。
いずれの会社も“定款”に従い、社長が総会の議事進行を行なっていた。いわゆる議題としての“目的事項”にかなう議論がなされるようにスムーズな進行がなされるように どなたも強いリーダーシップを発揮されていたように思う。その結果、10時開催で11時半前後には無事終了していた。3社の総会は外形的にはそんなところだった。

さて、その内容だが いささか問題が多いように感じる。つまり、経営陣と一般株主の間に適切なコミュニーケーションが成立していないのだ。適切なコミュニケーションが成立するには 経営陣と一般株主 双方のコミュニケーション・スキルが成熟していなければならないが、いずれの総会もそんな状態にない。特に 会社運営に当たっての知識というか ビジネスの最新情報を含めての情報の非対称性がはなはだしい。つまり、一般株主がほとんど有効な情報を入手せず、学習しないまま 株主総会が開催され、こうした株主からの質問には、経営陣からは あんな回答しか得られないだろうな、と思われる状態に終始しているのだ。誤解されると困るのだが、経営陣が不誠実な回答をしていてそうなっているとは思っていないのだが、短時間に適切な回答となると あのような仕儀になる総会のあり方が問題ではないか、と考えているのだ。

だが、初歩的な会計処理の“お勉強”の場になるのは論外としても、市場での株価の低いのをなじられた社長が ご丁寧にもPBRの意味まで説明しつつも、一生懸命に経営努力していても“株価は市場の評価であり、我々は如何ともし難い問題”としてあっさり片付けていた姿勢には、問題がある。参加した3社の内2社がこうだった。株価は“将来にわたって配当される金額の合計の現在価値”とすれば、配当を引き上げる政策が経営者には残されているからである。
東電は今後将来にわたって、被害者補償のため配当することができなくなった、いや補償のため配当する余裕があってはならない会社となってしまったので、その株価は理論上0円と評価されるのが正しい姿なのである。私も場の雰囲気に飲まれて、とっさにはこのことは思いつかず、“お勉強”の成果を示せなかったのは残念であった。

とにかく、いずれの3社とも 当面さしたる反社会的行為が表面化していないので、幸いにも こうした情報の非対称性が大問題とはならなかったが、こうした状態のままでは 一旦 何か問題があると誤解が誤解を呼び、問題がこじれることも往々にしてあるのではないかと思われる。多分 これまでの企業の反社会行為が問題になった場合、そのようなことに起因する無用の混乱も多かったのではないかと考えられる。リスク・コミュニケーションは問題が生じるまえから適切に実施されていなければ信頼は醸成されない。
それから、時として見受ける光景は、総会での議題としての“目的事項”にそぐわない個別の問題を一般株主がここぞとばかり、取り上げて質問することがある。関係のない株主にとっては 迷惑な限りなのだが、そうした問題を通常のコミュニケーション・チャンネルを持たず、解消していない企業側の姿勢にも問題があると見るべきなのだろう。特に 一般消費者を相手にしている企業では こうしたトラブルも多いように感じる。まぁ、そういう程度の会社の株を持っているのだと、総会に出席して始めて分かる事実ではある。そういう未熟な会社の株は いずれ機会を見て売り払うべきなのかも知れない。

株主には メジャーな機関投資家や、個人の大株主と言ったプロまたはプロに近い人々や、最小の単位株数しか持っていないような個人の一般株主まで 様々な人々がいる。そして、不思議なことにプロ株主はこういった総会に顔を出さないし、露骨に声を挙げることもない。この場で声を挙げるのは大抵議決権の小さい一般株主ばかりである。
本当は、プロの投資家が総会に出席して、一般株主の前で経営陣と堂々と丁々発止 議論を展開することがあっても良いのではないだろうか。だが、総会でのそうした展開を経営陣が嫌っているのかも知れない。そして経営陣は 日頃からプロ株主には個別のIR活動として それなりに情報を提供し、裏で議論しているのかも知れない。その上で、総会での議案もプロが賛成し易い内容にして、事前に議決権行使書の賛否で 賛成を記入してもらっているのだろう。後は 総会で一般株主の“ガス抜き”をして 無事終了といった“手はず”なのだろうか。
株式会社の最高決定機関たる株主総会が このように形骸化しているのは、いずれ社会システムとして問題化することがあるような気がするのだ。しかし、議論を午前中の数時間内で終わらせるためには 事実上現状のように形骸化させておかなければ、ならないのかも知れない。丸一日かけて実施するとなると、会議開催環境は現状では不十分である。会場は それほど広くなく机も無い。丸一日となると下手すると二食分の弁当も必要かも知れない。
だが、考えても見て欲しい。年に1度の恒例の重要な社内会議が2~3時間程度で終了するような会社があろうか。恐らく、それこそ丸一日かけて実施しているのではないか。下手すると全社規模の月次会議を丸一日かけてやっている会社も多いのではないか。ならば株主総会も少なくとも丸一日かけて真剣に議論がなされてもおかしくはない。

それを思うと、現在の株主総会のあり方は形骸化していると言って良い。これで、日本の資本主義が健全に育って行くとは思えない。
今年、こうした形骸化が顕著に出たのは、報道によれば 電力会社の株主総会であると思われる。その場での一般株主の意向は、事前に郵送されているプロ株主含めての賛成票により かき消されてしまうような仕組みになっていたのだ。これでは 一般株主の“ガス抜き”機能すら 果たしていないことになってしまっている。

重要なのは 非公式というか、ほぼ密室で行われているだろうプロ株主と経営陣のコミュニケーションが公開されていないことだと思う。それから、会社法が改正されてから、監査人の権限が強化されたと言うが、総会通知に付随して株主に送付されて来る監査人による“監査報告書”や 総会で行われるその報告が形式的表面的で 何が具体的に議論され、それがどのように解決したのか、あるいは懸案となっているのか、一向に明らかにされていないことだ。形式的に“適法に処理されている”との言葉が並んでいるだけである。これで監査人が適正に任務を果たしていると思えるだろうか。このように、日本の株式市場には 依然不透明な部分が多く残っており、“インサイダーの種は尽きまじ”の印象を持ってしまう。

余計なことだが、出席したガス会社でも重工会社でも、この度の福島原発事故で新たな商機が生まれたのではないかとの株主質問があったが、いずれも経営者は、外聞をはばかって遠慮した姿勢を示していたのだが、ガス会社には燃料電池があり、重工会社にはガスタービンがある。このガス会社と重工会社が提携して高効率の局地的電力供給基地を建設することは容易だ。現在の電力会社の業態は、電力の大量生産・大量消費には適していたのかも知れないが、送電ロスの少ない電力の地産地消を考慮するならば、原発に頼らない方向でリスク分散を図ることは正しい方向である。このように今の電力会社は社会的な有意性を喪失し始めており、ドラッカー流に言えば技術革新を伴う自由競争社会では、淘汰されるべきなのかも知れない。

閑話休題、一般株主も 株を所有するからには、少なくとも企業側が提供した情報くらいは“お勉強”しておくべきだし、企業側も もっと“不都合な真実”を公開する勇気を持つべきではないだろうか。そして、プロ株主が総会をリードして熟議を図るようなあり方を、制度上工夫するべきではないかと思う。このように、監査報告のあり方も含めて、一層の法整備が必要なのではないかと 思うのだがいかがだろうか。
世間的にCSRに重点指向していると評価されている会社が この件についてどのように処理しているのか興味の持てる部分ではある。

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