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ロシアのウクライナ侵攻で分かったこと

露軍のウクライナ侵攻は転機を迎えているようだ。迅速な侵攻が出来ず、春になりキエフ北方からの侵攻がぬかるんで補給も困難になり、しかもウクライナ側の抵抗も強く、露軍の兵員損傷も甚だしいようだ。7千~1万人強死亡との推測もある。そこで露軍は、“ウクライナでの軍事作戦の第1段階がほぼ完了し、今後は同国東部に照準を移す方針を明らかにした”という。
そして露軍はその東方の戦線で、“先週、(マリウポリ市)住民数千人を強制的にロシア領に連行した”という。住民多数の強制移動は、いよいよ化学兵器の使用を前提としているからではないかとの疑念を抱かせる。プーチン・ロシア側は、ウクライナ政府をネオナチと呼んだが、これら露軍の振舞は非人道のナチそのものを想起させる。“人は自分がしている悪事を覆い隠すために、相手がその悪事を働いている”と主張するものだと、改めて確認した。
その上、露軍の軍事的能力が結構見掛け倒しだったという事実を国際社会に露呈したのだ。

ウクライナ戦争に米軍が直接介入しなかったのを見て先週スペイン内戦に言及したが、当時はナチズムの勝利で終わった。しかし、この度のウクライナ戦争ではどうやら専制主義の敗北となるようだ。これで、米英首脳による戦後の世界の枠組みを決めた、1941年の大西洋憲章がますます光芒を放って来ているように、私には見える。チャーチルとルーズベルトは、その当時から100年後を見据えていたことになる。そこには確固たる価値観をベースにした先見性があり、確固たる価値観や思想・哲学のない日本人にその構想力は遥かに及ばないのではないか。


24日には、北大西洋条約機構(NATO)、先進7カ国(G7)、欧州連合(EU)はブリュッセルで緊急の首脳会議を開き、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに対して米欧日が結束して対抗する意志を強調した。
こんなに多彩な国際的枠組みが緊急動員され、各国が足並みをそろえたのは珍しいことだが、各国の間で確認され取り決められたことの詳細は伝わって来ていない。だが、実際には極めて重要な対露決定がなされたようだ。そうでなければ、各国が足並みをそろえる訳がないのだ。まるで、前世界大戦のヤルタ会談を想起させる。何が取り決められたのか。
恐らく一つにはEUの有志連合による平和維持軍のウクライナ直接救援の実行とその米国の黙認だという話がある。地理的にかつての領土だったところを占めさせられたウクライナに、同じく国土を移動させられたポーランドが強く共感し、危機感を持っているという。だから会議後の重要なパフォーマンスとして、バイデン大統領がポーランドに立ち寄ることになったようだ。
その背景には、軍事支援に消極的だったドイツがウクライナ救援にたった1日で前向きになったこともあるようだ。露軍の化学兵器使用が現実化し判明した場合や、ベラルーシ参戦があれば、それが確実に実施されるのではないか。欧州はプーチン・ロシアの横暴に大いに危機感を持っているという。
これが事実ならば、見逃してはならない重要な変化だ。日本の諜報は何が決定されたか把握できているのだろうか。


これ以外に23日は、ゼレンスキー大統領の国会への演説があった。内容は概略次の通りで、予想されたよりもマイルドな内容で、ネット上にはまるで無意味だったかのような反応があるのも見られたほどだ。
①日本への感謝:日本はアジアで最初にロシアに圧力をかけた
②日本への要望:停戦後の復興協力
③日本への称賛:日本の発展の歴史と環境や伝統文化尊重へのリスペクト

だが、重要なのは国連改革への言及である次の部分だ。
“国際機関は機能してくれませんでした。国連の安保理も機能しませんでした。改革が必要です。機能するためには、「誠実の注射」が必要です。ただ話し合うだけでなく、影響を与えるためです。
 ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界が不安定になっています。これからも多くの危機が待っています。世界市場も不安定で、資材の輸入などにも障害が出ています。環境面や食料面の調整も前例のないものです。
 また、これからも戦争をしたいという侵略者に対して、非常に強い注意が必要です。「平和を壊してはいけない」という強いメッセージが必要です。責任のある国家が一緒になって、平和を守るために努力しなければならないです。”

これは安保常任理事国の横暴を阻止できない現在の仕組の大問題なのだ。
これに対し、日本でよく聞かれる議論は“常任理事国の拒否権の廃止”だが、それは日本からは言えない主張なのだ。この制度は日本の戦前の国際パフォーマンスが契機になっているからだ。満州事変から国際的非難を浴びた常任理事国の日本は進退窮まって国連を脱退し、それが太平洋戦争=第二次世界大戦へとつながった。つまり、国際的に過度に非難し孤立させると、結果として大きな戦争への惨禍を招くという教訓から、“拒否権”という猶予を与え、話し合いの契機を残した、という経緯があるのだ。
日本人はあまりにも歴史を知らなさすぎる。それは国際的に非常に恥ずかしいことなのだ。
この改革案について私は、常任理事国の任期を10~15年程度に制限するべきだと考える。そうすれば、国際的に指導力を落とした国の居座りを防げるのではないかと思うのだ。
だが、現状ではこうしたいかなる改革も安保常任理事国の権限が強過ぎて改革不能と思われるので、G7の強化など、外部からの改革、つまり第二国連の創設が必要なのかもしれない。

これまで日本の安全保障について実は私は思考停止だったが、日本の憲法上の問題などはともかくとして、これから日本の目指すべき方向はNATOに加盟することではないかと気付いた。
かつて日本が国際社会や国際的諸関係を無視して、単独で自国の国益だけを第一として中国に軍事介入したためにこれをとがめられ、無謀にも世界に挑んだが敗戦となり、その敗戦の反省から日本の平和憲法は制定された。だから、“平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。”と前文に記し、このように平和主義及び国際協調主義の立場に立つことを宣明しているのだ。
だから、多国間同盟のNATOに加盟することは“平和主義及び国際協調主義の立場”を毀損することにはならない。一時一部には、国際協調主義の立場から国連に安全保障を期待する向きもあったが、国連には軍事的実力は装備されていない。そこで現実的な日本の安全保障を、世界のスーパー・パワーであった米国一国に頼ることとなったのだ。

だが昨今、米国のパワーは相対的に低下してきている。否、正確に言えば周辺国のパワーが強くなって来ているのが現実なのだが、そのため日本の安全を保障することは米国にとっても負担となってきていて、米軍の駐留すら消極的傾向にあり、日本自身に相応の負担を求め始めている。これは2国間同盟の限界を示すものなのであろう。
一方、2国間同盟より多国間同盟の方がより普遍的な同盟であり、同盟国相互の狭い国益に左右されることは少なくなる。現状の日米同盟では米国の国益が直接反映される危険性があるのは返って危険ではないのか。
現に、このところの北朝鮮のミサイル実験によって日本の安全保障が大きく危うくなっているという現実がある。それは、北のミサイルが米国本土に到達する可能性が出て来ていることが判明したことだ。それにより、日本が北から攻撃されても、米国はそれに直接反撃する強い意志を持てなくなることを意味しているのだ。北からの核反撃を米国も受ける可能性が出て来たからだ。それで日本の安全保障が確実である、と言えるのであろうか。2国間同盟にはこういう弱点があるのだ。
それに現状のままでは、不平等な日米地位協定が存在する。2国間同盟を解消すれば、これも解消できるのではないか。

さらにNATO軍の規模は332万人であり、その維持費用は127兆円だという。これは中国の約5倍、ロシアの約18倍の規模。これほど強力な軍事同盟はない。それが民主的に運営される同盟ならば、それに加盟することは、憲法の“平和主義及び国際協調主義の立場”を毀損することにはならないのではないか。
しかも現下欧州各国は、日本の安全保障にかつてなく強く関心を寄せてくれている。特に、英国は日本をファイブ・アイズに加盟するべきだとまで言っていた。フランスは艦隊を日本に派遣して来たし、ドイツまではるばる軍艦を派遣して来た。今や日本がNATOに加盟する好機ではないのか。できればオーストラリア、ニュージーランドと共に参加、加盟するのが望ましい。
きな臭い思考で恐縮だが、世界は急速に変転してきている。日本も迅速に変化しなければ、その安全は担保できないのだ。
日本はNATOに加盟してその中で非核を宣明すれば、その国際的地位は返って向上するのではないかという、淡い期待も込められるような気がする。


改めて日本人の構想力、あからさまに言えば戦略性と国際情勢を見極めるに敏なることに欠けることを懸念するが、このまま冷戦構造の状態に思考停止していては、その安全保障は危機に直面することを警戒したい。
同じ敗戦国であるドイツが、その国際戦略を1日で改めたことに驚嘆するのだ。何が大切な価値なのか、確実な思想・哲学を持って論理的に情勢を見極め迅速に政策を転換する、そういう精確な緊迫感が求められるのだが、これが日本人に最も欠ける部分ではないか。

ともかくもウクライナ戦争後、世界情勢が大きく変化することは間違いない。スーパー・パワーと思われたロシアが既にその軍事力の劣化を世界に見せつけており、世界の包囲的経済封鎖によりなお一層没落することは間違いないと考えられるからだ。
この没落するロシアに対し、北方領土の問題やサハリン・シベリア開発は日本が主導して解決できる絶好のチャンスであるのは間違いない。だが、その好機すら逃し、世界の動きに乗れないこととなれば、今度は日本の安全は危うくなり、経済的にも遅れをとり、ロシアの次に没落するのではないか。暢気にはしていられないハズなのだ。今、その瀬戸際にいる認識と自覚と覚悟が要るのだが・・・。

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