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今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

子供観の違いとアニメ:世界に広がるマンガ・アニメ05

2013年01月15日 | 世界に広がるマンガ・アニメ
日本のマンガ・アニメの発信力の理由を5つの視点に注目して、これまでにアップした記事を集約、整理している。5視点は次を参照のこと。→アニメとアニミズム:世界に広がるマンガ・アニメ02

今回も引き続き、

②小さくかわいいもの、子どもらしい純粋無垢さに高い価値を置く「かわいい」文化の魅力。

に関係した記事を集約・整理する。これは、日本文化のユニークさ8項目でいえば、(2)「ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた」に深く関係し、この項目のもと、「母性社会日本」というタイトルでこれかでにアップした記事を集約したときにも、ある程度触れた。具体的には、以下の2回で母性社会と「かわいい」の関係に触れている。

カワイイと平和日本:母性社会日本04
「かわいい」人とは、成熟した美しさの持ち主ではなく、どちらかといえば子供っぽく、隙だらけで、たとえ頭の回転はよくなくとも、素直で無垢な存在なのだという。これはそのまま日本人が大切にしてきた価値観ではないか。まさにそうした日本人の価値観や感性が「かわいい」カルチャーを通して世界にひろまっているのではないか。

子ども観の違い:母性社会日本05
子どもを劣等な大人として、鞭打ち躾ける対象として見るのではなく、大切な授かりものとして、その子どもらしさを愛し続けたのが、日本の伝統だったのであり、そうした伝統が何らかの前提なって、現代のマンガやアニメに代表されるポップカルチャーが花開いたとしても不思議ではない。

子供観の違いとアニメ
マンガ・アニメが欧米に衝撃をあたえ、「カワイイ」文化が浸透する背景のひとつに、子供観の違いがあるのは確かだろう。欧米の文化の根幹には、キリスト教とギリシア以来の哲学からくる人間観がある。幼児は、heやsheではなくてitで指すというものそういう人間観から来るのだろう。理性をもってはじめて完全な人間であり、子どもはその意味で「人間になる途上の不完全な存在」だという子供観である。

さらにヨーロッパ・ユーラシア的な文明の根底には、家畜・穀物文化がある。日本は歴史的に、ヨーロッパ・ユーラシアに見られるような大掛かり家畜文化を知らない。大陸の文明は、家畜を支配化において人間の手でコントロールすることを不可欠としていた。子供も、理性と判断力をもった完全な大人になるまでは、大人に支配されコントロールされる対象と見なされる。

それに対して日本は魚介・穀物文化といわれる。魚介類は、あるものを捕るだけで、家畜のようにそれを制御して支配することはない。子供も、家畜のように支配したり、完全に制御するという発想では見ない。むしろ、大人と子供の、どちらが神と近いのかと問われれば、間違いなく西欧は前者と答え、日本は後者だと答えるだろう。そのせいか、日本人は大人になっても「子供のモノ」に抵抗が薄い。子供の感性を未成熟とは感じず、大人にない純粋さや無邪気さを神に近いものと感じる。

さらに、子供観の違いに関係するのだろうが、日本には、子どもの自立的な文化がある。西洋では、マンガは親が子どもに買い与えるものだけど、日本では、子どもがある程度自由に買い求めることができる。だから子どもの反応がストレートに作品に反映していく。子どもとマンガ家の相互作用のなかで、作品が形成されていく。そんな違いも作品に大きく反映され、日本独自のマンガ文化が形成されていったのだろう。

そしてもうひとつ興味深いのは「女の子向け」の存在だ。JPOPのキーワードとも言える「カワイイ」モノ(キティちゃんなど)が、なぜ日本以外にほとんど見られななかったのか。少女マンガや、セーラームーンなどの少女アニメは、日本で生まれたジャンルだ。「女の子向け」のいくつものジャンルが確立していること自体が、世界に新鮮な驚きを与えた。

ヨーロッパのキリスト教的、父性原理的な伝統の強い文化は、あきらかに文化のなかの女性的な要素を抑圧してきた。その無理やり抑圧したものが、歪んだ形で噴出すると、魔女狩りのようなものになるのだろう。

「子ども」や「女の子」を抑圧しない母性原理の国・日本だからこそ、「カワイイ」文化がこれだけ盛んとなり、しかもそれが世界にある種の衝撃をもって迎えられているのだ。
(もとの記事は、pkさんからのコメントへの応答という形をとっており、上のコメントを取り入れながらまとめたものである。pkさんに謝意を表したい。)

アトムと縄文(2)
『鉄腕アトム』は、幼い少年の顔で、低学年の小学生くらいのかわいいイメージである。少年漫画の主人公なのだからそれは当然と思うかもしれない。しかし、それは日本人の感覚なのである。

『鉄腕アトム』を原作とした米国版のコンピューターアニメーション映画『ATOM』(アトム、米題:Astro Boy、2009年)では、制作にあたってアトムの幼い顔が大いに問題になったという。

アメリカの製作者側がデザインした最初のアトムは、かなり大人びたイメージだったようだ。しかし、これには日本側が納得しなかった。何度かの厳しいやりとりとデザインの変更の末、原作のアトムよりは少しあどけなかさがとれたくらいの顔に落ち着いた。小学生高学年くらいか。おかげで、私もさほど違和感なく楽しむことができた。ハリウッド版のアトムのイメージは以下を参照されたい。

http://youtu.be/aJQ-bsGoG_8

日本人には、アトムの幼い姿形やかわいさが自然に受け入れられるが、アメリカ人には不自然に感じられる。その背景には、あどけなさやかわいさに対する日本人の独特の感覚がある。もちろん、現代の「カワイイ」文化の流行も、根は同じところにある。つまり、縄文時代以来の一貫した母性原理の文化が日本人独特の、かわいさへの感性を形づくっているのではないか。

日本人は未成熟で子供じみたものにひときわ愛着を示し、また自分の子供っぽいイメージを進んで周囲に示したがる傾向すらある。それは、幼稚であること、無害であることを通して隣人の警戒を解き、互いにその幼稚さを共有しあいながら統合された集団を組織していくからではないか。つまり、甘え合える親しさをよしとする母性原理の社会なのである。

日本は太古からほどんどずっと、子供っぽさ、幼稚さ、無害、素直さなどをどこかで互いに認め、共有しあって社会関係を結ぶことが許される平和な社会だったのである。逆に、成熟し独立した人格こそが、人間にもっとも大切な価値であるとする社会とは、個々が人が独立した主体として責任をもって判断しながら生きていかなければ、いつ殺されるかもしれない熾烈な社会なのではないか。「かわいい」ことが生き延びていくうえでプラスにもなる社会と、かわいかろうとなかろうと、殺されるときには殺されてしまう社会との違い。

この違いは、日本と西欧との子供観の違いとも重なっている。西欧では、子供は未完成な人間であって、教え導かれ知性と理性を磨くことで、初めて一人前の「人間」に成ると考える傾向がある。子どもはその意味で「人間になる途上の不完全な存在」という文化が支配的であった。一方日本では、「子供は人間らしさの原点」と考えられる。大人になるとは、その無邪気な人間らしさが何がしか失われていくことを意味する。

《関連記事》
『「かわいい」論』、かわいいと平和の関係(1)
『「かわいい」論』、かわいいと平和の関係(2)
「カワイイ」文化について
子どもの楽園(1)
子どもの楽園(2)
子供観の違いとアニメ
『「萌え」の起源』(1)

《関連図書》
★『世界カワイイ革命 (PHP新書)
★『「かわいい」の帝国
★『逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
★『「萌え」の起源 (PHP新書 628)

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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-01-16 06:07:09
アトムの幼い顔については、それがそのまま受け入れられて好まれたからこそ、アメリカでも「アストロボーイ」の名で「鉄腕アトム」は人気が出たのではないか?

少し大人びた顔になった映画版「アトム」は、結局、アメリカでも日本でも不調に終わった。

日本の幼い可愛いらしさは、「ハロー・キティー」人気に見るように、そのまま世界中でヒットしている。幼い可愛さは、日本独特と考えるところに筆者の思考の限界があるだろう。
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Unknown (Unknown)
2013-01-18 00:26:24
欧米の方が大人からの子供への抑圧は強いとは思いますが、カワイイに関しては少し強引な気がします。
ATOMは単純に制作側キャラクターデザインがそうであっただけの一制作会社の問題であって、欧米の例にはそぐわないかと。そもそも実制作は中国のスタジオですし。
カワイイは大人になったら卒業するものだが、日本では大人でもそうでもない、という驚きはあったかもしれません。
ただ、実際に欧米でも少女マンガや少女アニメなど「女の子向け」は数えきれないほどありますし、ジャンルも形成されています。
元々サンリオはそういった欧米の女の子向け玩具をヒントに発展させた会社です。
ホールマーク社とのグリーティングカードとの提携やファンシーグッズブームがどういったものかを調べてみてください。
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Unknown (Unknown)
2013-01-18 00:47:36
日本が幼さを愛でることは認識してますが、例えとしてのアトムは相応しくないように感じました。
ハリウッド版アトムのキャラにチェックが入ったのは大人びているからという以前に単にアトムに見えなかったからだと認識してます。確かに大人っぽい印象は受けましたが、逆に子供っぽいものを提示されたとしてもアトムに見えなければチェックが入ってたと思います。
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