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「生きがい」は長寿の秘訣?—世界を魅了した日本語「IKIGAI」

2024年09月05日 | 日本の長所
★この記事の内容のフルバージョンは、次の動画で見ることができます。⇒ 「生きがい」は長寿の秘訣?—世界を魅了した日本語「IKIGAI」

以前、インド人の友人とオンラインで話していたときのことです。ドバイへの出張から戻ったばかりの彼はドバイの空港内の小さな書店で買った数冊の本を見せてくれました。その中に「IKIGAI」というタイトルの本がありました。それは日本語の「生きがい」について英文で書かれた本でした。西アジアの空港内の小さな書店になぜ「IKIGAI」という日本語のタイトルの本が売られたいたのだろうと驚き、さっそくAmazonで調べてみました。するとその本は500万部を超えるベストセラーで、Amazonのメディテイション(瞑想)部門の1位を保持しています。もともとスペイン語で書かれ、英語を含む何か国語かの翻訳もあるようでした。

ちなみに何人かの外国の友人、併せて10人ほどにオンラインで聞いてみると、6~7人がIKIGAIという日本語を知っており、そのうち3~4人がこの本をすでに読んでいたのです。彼らは日本に関心が深い人々なので、その点は差し引いても、やはり驚くほど高い割合です。それで私もさっそく電子ブックの英語版を買って読んでみたのです。

「生きがい」という日本語にあたる外国語はないらしいということは知っていました。しかし、この言葉が「IKIGAI」としてことさらに注目されるのは、それが日本人の長寿と結びつけて紹介されたことに一因があるようでした。

実際にこの本「IKIGAI」(Francesc Miralles 、 Héctor García共著)を読んで見ると、沖縄の長寿村として有名な大宜味村の長寿の秘訣を現地に滞在して調査し、その秘訣のひとつが「生きがい」にあるとしているのです。この本がどのような視点から「生きがい」について語っているのか、いくつかピックアップしていみます。

1.「生きがい」こそ長寿の秘訣
著者のふたりは、100歳以上の高齢者の割合が世界最高である沖縄県・大宜味村でその長寿の秘訣を調査し、その結果がこの本の中心になっています。沖縄やこの村の長寿の秘訣は、健康的な食事、家庭菜園などでの戸外活動を中心としたシンプルな生活、緑茶(特にさんぴん茶)やシークワーサーをよく飲むこと、亜熱帯の気候などが考えられます。しかし「生きがい」こそが長寿の最も大切な秘訣だと著者たちは考えているようです。

2.「生きがい」の意味
では「生きがい」という日本語はこの本ではどのように理解されているのでしょうか。
日本語の「生きがい」に近い語にはフランス語の「raison d’être(レゾン デートル)で「存在意義」「存在理由」という意味ですが、この語とて二語で出来ており、しかも元は哲学用語で、日本語の「生きがい」のように昔から気軽に日常の中で使っていた言葉ではないのです。たった一語で「生きがい」に匹敵する意味を表す外国語はないようです。

この本によれば「IKIGAI」とは、「私が生きる意味とは何かWhat is the meaning of my life?」や「長く幸せな人生の秘訣とは何かWhat is the secret to a long and happy life?」という問いへの答えだと理解されています。すでに「生きがい」を見つけた人ともいれば、探し中の人もいるけれど、ともあれ日本人は、それを持つことは非常に大切だと考えると、この本は紹介しています。

3.大宜味村の人々の生きがい
では大宜味村の長寿の人々は何に生きがいを見出しているのでしょうか。この村では、住民同士のつながりを大切にしています。住民たちが互いに支え合う小グループとして「結(ゆい)」と呼ばれる伝統的な互助会があり、重要な役割を果たしています。結の働きは、農繁期などに協力して互いの農作業を手伝ったり、冠婚葬祭で協力し合ったり、定期的に集まって歌や踊りを楽しんだり、互いの健康を見守ったりして、仲間との社会的なつながりコミュニケーションを維持し、孤立を防ぐなどです。大切なことは、この「結」での助け合いや支え合いが、住民が生きがいを感じる一因となり、結果として大宜味村の高い長寿率に寄与していると見られています。

この本の内容は大宜味村の紹介だけでなく、健康法一般に関して様々な話題が取り上げられています。たとえばマインドフルネスを中心とした瞑想法、太極拳、気功、ヨーガ、ラジオ体操、指圧、ロゴセラピー、内観法まで多岐に渡っています。しかし、その主題を一言でいうならば生きがいと長寿の関係です。両者を結びつけて語ったからこそ、この本はベストセラーになったのだと思います。

しかし、IKIGAIという言葉が世界を魅了するのは、日本人の長寿の秘密との関りからだけではないでしょう。たとえば脳科学者の茂木健一郎は2017年に「The Little Book of Ikigai」という本を英文で出版し、31か国、28言語で出版が決まり、100万部を超えるベストセラーになりました。この本は、日本人自身があまり自覚していない日本人の生き方の特徴を、生きがいという言葉と結びつけて語っています。つまり、長寿との関係だけではなく、日本人の生き方や日本文化の本質とかかわる言葉として生きがいが語られ、世界で関心を持たれているのです。

★この記事の内容のフルバージョンは、次の動画で見ることができます。⇒ 「生きがい」は長寿の秘訣?—世界を魅了した日本語「IKIGAI」

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日本人の英語下手は日本の救いか?

2024年09月01日 | 日本の長所
★この記事の内容は、次のYouTube動画でも見ることが出来ます。⇒ 『日本人の英語下手は日本の救いか?』

日本人が英語に弱いのは、誰もが認めるでしょう。日本人の英語力を国際比較する指標の一つEF英語能力指数(EF EPI:English Proficiency Index)によれば、日本は2021年で 112か国中78位、2022年で 111か国中80位、2023年で113か国中87位と、年々低下しているのです。日本は実践的な英語教育に以前より力を入れているのに、この指標では順位が毎年下がっています。ただしこれは、他国の英語力が上がっているために、日本の順位が相対的に下がっているだけかもしれません。

2023年度のTOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)の日本の平均スコアは612点で、2021 年は、611点、2022年は608点ですから、ほぼ横ばいでしょう。2023年の日本の平均点は、世界の45か国中31位ということです。確実に言えるのは、世界的に見ても日本人の英語力がきわめて低いというこです。そしてとくに英会話力が弱いです。。

私は、日本人が英語力が弱いことは日本にとって救いかもしれないと考えています。その理由はあとで述べるとして、まずは、なぜ日本人は英語力、とくに会話力が低いのか、その理由を考えてみます。要因はいくつか考えられますが、その中には、諸外国に比べ日本が信じられないほど幸運な環境にあることも含まれます。

1. 英語教育の問題
何と言っても日本の英語教育が受験のための英語を重視し、会話力を軽視してきたのが最大の問題です。中学・高校から大学まで含めれば10年も英語を学びながら、ほとんど話せない。それは明らかに文法や読解などのインプットに比べアウトプットの機会が圧倒的に少ないことによります。

ここには伝統的な問題が横たわっているかもしれません。明治維新後の日本では、多くの知識人にとって欧米の文献を通してその進んだ知識や技術を吸収することが最重要で、会話力は二の次でした。それはさらにかつて中国文化を文字を通して学んできた伝統にもつながっています。その長い伝統が知らず知らずのうちに現代の英語教育にまで影響を及ぼしているのです。

2.教育全体が日本語で行われる
日本では小学校から大学・大学院の教育まで特別な場合を除いてほぼ日本語で行います。フィリピンでは、幼稚園・小学校から自国の歴史などを除いてほぼ英語で行われます。インドでも多くの学校や大学で英語が使用されています。特に都市部の私立学校や高等教育機関では、英語が主な授業言語です。東南アジアでも大学となると日本に比べ英語で行われる講義がはるかに多いようです。たとえばマレーシアでは、多くの大学で英語が授業の主な言語として使われているとのことです。タイでは、多くの大学では主にタイ語が使われているとのことですが、工学やビジネスなどでは英語での授業も多いようです。

ところが日本の場合は、授業や講義を通して英語を身に着けていく機会が他国に比べ極端に少ないのです。これは、明治時代に欧米の理系・文系の用語を苦労して日本語に翻訳した先人のお陰もあるでしょう。日本ではどのような専門分野でもその用語が日本語で表現できるので、基本的に日本語で学べるのです。翻訳書も豊富にあるので、原書を読まずに済む場合がはるかに多いのです。

3.英語や他言語に接する機会が少ない
ほぼ全ての日本人は日本語が母国語であり、日本のどこに行っても日本語でコミュニケーションができます。そして日本全体で日本語によるほぼ均質な義務教育が行われています。これは、日本人にとっては当然かも知れませんが、世界的にはかなり幸運な環境です。一言語だけで国民の誰とでも意思疎通ができるのは日本やヨーロッパの小国などごく少数の国々だけです。たとえばインドネシアでは、約700の言語が話されおり、インドでは、約450の言語が使用されています。フィリピンでは、約170の言語が話されています。こうした国々では公用語としての母国語はあるでしょうが、英語を共通のコミュニケーション用語として使う場合も多いのです。つまり必要に迫られて英語を使用する場合が多いのです。日本は、必要に迫られて英語を使用する機会が、他国に比べ非常に少なく、これが日本人が英語が苦手な理由の一つです。一方、日本人の誰とでも日本語ひとつで理解し合えるのは私達にとって幸運なことです。

4. モチベーションの問題
これは3と密接に関係します。大部分の日本人は、英語を話すことが必要になる機会がかなり少ないので、学習の必要性を実感しにくく、学習のモチベーションを得にくいのです。職業上で英語が必要だったり、必須だったりする場合もそれほど多くありません。英語が出来ないことが就職において絶対的に不利になることは、特殊な場合を除いてほとんどないのです。

5. 欧米語との言語的な違い
日本語と英語とでは文法構造が大きく違うことは誰もが知っています。欧米語相互ではかなり文法が似ていたり語彙に共通性がある場合も多いので、学ぶことが比較的かんたんですが、日本人が欧米語を学ぶ場合は、そういう利点がありません。

日本人の英語下手の理由には以上のように複数の事情が重なっています。とは言っても、日本人の英語下手が国家としてのマイナスになる面があるのは明らかで、このままでよいわけはありません。特に国のリーダーとなる政治家は、国際語たる英語を自由に使いこなせるべきです。また多くの企業にとっても英語で情報を得たり売り込んだり交渉したりが自由にできないと、国際競争に生き残れません。増大する海外旅行客を扱う観光産業や関連企業にとっても英語は益々重要になります。

一方、一般の国民は英語が話せなくとも日常生活にほとんど不便を感じません。国内なら日本語で用は足りるし、教育も日本語で受けられるのです。海外旅行に行ったときに多少不便を感じる程度でしょうか。一般の日本人が英語下手でも、ほとんど何もマイナスはないのです。英語下手でも不便を感じない日本人は、ある意味でとても幸運な環境の中で生活しているのです。そして国際的な情報を得るにしても、今後ますますAIによる自動翻訳が正確で迅速になっていくでしょうから、ほとんど心配はいらないのかもしれません。

逆に日本国内ではどこでも日本語が使用されるため、日本人同士のコミュニケーションは非常にスムーズに効率的に行われ、言語的な障壁による誤解や軋轢が生じにくいです。共通の言語を使う日本人という連帯感や文化的アイデンティティも強くなります。日本語を大切にすることによって、日本語によって伝えられてきた独自の文化や伝統を守る姿勢が強くなります。

いろいろな意味で日本にも今後ますます国際化の波が押し寄せてくるでしょう。英語がますます国際語として幅を利かせていくでしょう。しかし国際化が行き過ぎることの問題もあります。国際語としての英語が普及することで、文化の均質化が進み、多様な文化が英語圏の文化に吸収され、独自の文化が失われる危険があるのです。実際、英語が普及しすぎることで自国語や自国の伝統が失われる危険に晒されている国もあります。幸い日本にはそういう危険性はありません。日本人は英語下手ですが、日本語にこだわる限り、日本人としてのアイデンティティや文化や伝統を末長く維持し続けるでしょう。

★この記事の内容は、次のYouTube動画でも見ることが出来ます。⇒ 『日本人の英語下手は日本の救いか?』




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