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今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

アニメとアニミズム:世界に広がるマンガ・アニメ02

2013年01月12日 | 世界に広がるマンガ・アニメ
前回、マンガ・アニメの発信力の理由を4項目で取り上げたが、かつて変更して5項目としていたことに気づいたので、以下のように修正しておく。

①生命と無生命、人間と他の生き物を明確に区別しない文化、アニミズム的、多神教的な文化が現代になお息づき、それが作品に反映する。

②小さくかわいいもの、子どもらしい純粋無垢さに高い価値を置く「かわいい」文化の魅力。

③子ども文化と大人文化の明確な区別がなく、連続的ないし融合している。

④宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想・表現と相対主義的な価値観。

⑤民族や言語、階級などによって分断されない巨大で知的な庶民を基盤とし、その価値観を反映する。

その上で今回は、①についての記事を集約・整理するが、これは、日本文化のユニークさ8項目でいえば、言うまでもなく(1)「漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている」に深く関係する。

マンガ・アニメの発信力の理由01

呉善花は。『日本の曖昧力 (PHP新書)』で、日本のポップカルチャーが世界で受け入れられる理由を、縄文文化という歴史の根っこにさかのぼることで見事に解き明かしている。

著者は、日本を体系的に理解するには三つの指標が必要だという。欧米化された日本、中国や韓国と似た農耕アジア的な日本、そして前農耕アジア的(縄文的、自然採集的)日本だ。日本文化と特色は、アジア的農耕社会である弥生時代以前の歴史層に根をもち、それが現在にも生きていることにあるのではないかと著者はいう。

日本の神道は、強烈なものを排除する傾向が強い。強烈な匂いや音、色、血などを嫌い、静かで清浄な雰囲気を好む。その内容はアニミズムであるが、強烈な刺激や生贄の血や騒然たる踊りや音響を好まないという点では、世界のアニミズムとは正反対である。著者はこうした日本のアニミズムの特色を「ソフトアニミズム」と呼ぶ。他のアジア地域では、アニミズムそのものが消えていったが、日本ではソフトな形に変化しながら、信仰とも非信仰ともいいがたい形をとりつつ、近世から現代へ、一般人の間から文化の中央部にいたるまで残っていったのでる。

著者は、かつての「たまごっち」というサイバー・ペットの世界的な流行を、日本的なソフトアニミズムが世界に受け入れられる普遍性をもっていることの現われだととらえる。劇画やアニメはさらにはっきりと、こどもたちの柔らかなアニミスティックな世界から立ちおこった芸術表現だという。

町田宗鳳は、『人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)』で言う。近代化とは、西欧文明の背景にある一神教コスモロジーを受け入れ、男性原理システムの構築することで成立する。ところが日本文明だけは、近代化にいち早く成功しながら、完全には西欧化せず、その社会・文化システムの中に日本独特の古い層を濃厚に残しているかに見える。それは一神教的なコスモロジーに染まらない何かを強烈に残しているということであろう。他のアジア地域では、アニミズムそのものが消えていったが、日本ではソフトな形に変化しながら、それが残っていったのでる。

アニミズム的な多神教的コスモロジーは、一神教よりもはるかに他者や自然との共存が容易なコスモロジーである。もし、アニミズムや多神教的コスモロジーという言葉を使うことに抵抗があるなら、「宗教の縛りが少なく、多様化をよしとする価値観と文化」(伊藤洋一『日本力 アジアを引っぱる経済・欧米が憧れる文化! (講談社プラスアルファ文庫)』)と言い換えてもよい。

世界がマンガ・アニメに引かれる背景には、現代文明の最先端を突き進みながら一神教的コスモロジーとは違う何かが息づいていることを感じるからではないか。日本のソフト製品に共通する「かわいい」、「子どもらしさ」、「天真爛漫さ」、「新鮮さ」などは、自然や自然な人間らしさにより近いアニミズム的な感覚とどこかでつながっているのではないか。そして、そのような感覚は今後ますます大切な意味をもつようになるのではないか。

◆『宮崎アニメの暗号 (新潮新書)』(青井 汎)

宮崎アニメと、他のアニメその他のエンターテイメントの違いはなにか。それは宮崎作品の面白さのなかに隠されたとくべつの「仕掛け」にあると、著者はいう。それは作品のなかに自然に違和感なく溶け込んでいるため、ちょっと見には「暗号」のようだが、作品の血となり肉となって、宮崎作品のかぎりない魅力と豊かさとなっている。その豊かな背景とメッセージ性を明らかにしようというのが本書の意図だ。読んでなるほどと納得したり、そこまで深い背景が、と驚いたり、そのメッセージに共感したりすることが多かった。

まず冒頭で、『となりのトトロ』の背景に1972年のスペイン映画『ミツバチのささやき [DVD]』があったという事実が語られる。エリセのこの作品には、キリスト教に抑圧される以前の自然崇拝の古い世界観がもり込まれている。『となりのトトロ』は、この映画から影響を受け、似たようなシーンが見られるし、同様の世界観を表現している。ヨーロッパならローマ帝国以前のケルト人の森の文化、日本なら縄文時代やそれ以前の文化への敬愛が二つの映画の底流をなしている。

『となりのトトロ』にかぎらず、キリスト教や産業文明以前の、自然と人間が一体となった世界への共感は、宮崎アニメのいたるところに見られる。森や森の生き物に共感し、生き物と交流できたり、森から異界への入り込む森の人。キリスト教は、そのような能力をもった人々を魔女として迫害した。宮崎アニメには、そういう魔女的な一面をもった登場人物へのあたたかいまなざしがある。ナウシカにも魔女を思わせる不思議な力があった。狼少女サンにも同じような一面がある。サツキやメイはお化けを見たし、千尋は異界への通路をひらいた等。『魔女の宅急便』は挙げるまでもないだろう。

この本の中心にあるのは、『もののけ姫』の背後にある五行思想の「暗号」を解くことである。その詳細は省くが、興味深いのはシシ神が、木気(大地)の象徴であるだけでなく、神話から洞穴絵画にいたるまで人類の何重もの歴史的なイメージを合わせ持つ存在として造形されていることだ。それを説明するくだりも、興味尽きない。旧石器時代以来、欧州では「有角神」が信仰されていたが、キリスト教の興隆後は悪魔とされた。ケルトの有角神は、ケルヌンメスといわれ、動物の王でありながら、他の生物とともにあった。ここにシシ神の原型があるかもしれない。シシ神は、破壊と再生を一身に体現するという意味でモヘンジョダロのパシュパティのいう有角神にも連なる。さらに『ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)』、最後には、旧石器時代の洞穴絵画のひとつ「トロワ・フレールの呪術師」という図像にこそ、始原のシシ神が見いだされる。

通読して、宮崎アニメがその上質のエンターテイメントのなかに、これほど遠くまで遡る歴史的視野と、文明の根源までを見据える深い批判精神を隠していたということに驚き、再度宮崎アニメを通して見直したいという思いに駆られた。宮崎アニメは、充分に意図的に、縄文・ケルト的な森の思想を表現しているのだ。

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※1と※2は、カテゴリー「マンガ・アニメの発信力の理由」ではく、「coolJapan関連本のレビュー」の中に入れたものを前後の関係の必要上ここに入れたものである。

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