模造刀

　お客のAさんが自宅マンション5階のベランダで模造品の日本刀を振っていたら、近所の人の通報で警察が来て連行されたと、私とお客のNさんに愚痴をこぼした。

　客A「何で自分の家のベランダで模造刀を振ったら警察が来るねん」
　客N「そら、警察は近所の人から通報があったら出動せんわけにはイカンやろ」
　私 「自宅は5階やろ、遠くから見たら本物の刀か、模造刀かどうか分からへんがな」
　客N「それに、その家の住人かどうか分からんから、何か事件に巻き込まれてると思うで」
　私 「模造刀を外で振り回すからアカンねん。家の中で眺めるだけやったら問題無いねん」
　客A「あ、そうか。しやけどパトカー4、5台と警察官が20数人も来てたわ」
　私 「へえ、Aさんのファン、多いんやね」
　客A「警察のファンなんかいらんわ。自宅で模造刀を振っただけで俺を連行したんやで」
　私 「令状は無いんか？」
　客A「令嬢はいてへん」
　私 「捜査令状の事やがな」
　客A「令状は無かったわ。それから連行される前に刀と一緒に写真撮られたわ」
　私 「前の日に散髪しといてよかったなあ。そのヘアやったら男前に写ってるで」
　客A「そんなん、散髪行く時は捕まるとは思てなかったわ」
　私 「写真を撮る時、Vサインしたか？」
　客A「証拠写真を撮るのに、なんでVサインやねん」
　私 「にほん刀やから、2本でVサイン」
　客N「それから、どないなったん？」
　客A「2人の警察官に両脇を抱えられて、パトカーに乗せられてん」
　私 「よかったやん、パトカーに乗りたかったんやろ？」
　客A「パトカーなんか乗りたない！何事かと集まったギャラリーが一杯で恰好悪かったわ」
　客N「ギャラリーが一杯て、石川遼かいな」
　私 「石川…五右衛門や」
　客N「どこの警察署に連れて行かれたん？」
　客A「堺署や」
　私 「堺署までなんぼ掛かったん」
　客A「そんなもんタダに決まってるやろ」
　私 「なんや、パトカーはメーター下ろしてなかったんかいな?」
　客A「タクシーと違う！」
　客N「警察に連れていかれてから、どないしたん？」
　客A「お酒を飲んでたので留置場に入れられてん。4畳も無いやろなあ、狭かったわ」
　私 「Aさんとこの家より広いやん」
　客A「俺とこ、どんだけ狭いねん。しやけど親切やったで。クーラーの設定温度聞いたわ」
　客N「それで、何℃て言うたん？」
　客A「24℃にしてて言うてん」
　私 「ええやん、家にクーラー無いからクーラーを味わえて」
　客A「クーラーぐらいあるわ！」
　客N「留置場の中はどんなん？」
　私 「汚い毛布2枚あって、それにまっ黒の便器があってん。便器汚いから掃除したわ」
　客N「どうして掃除したん？」
　客A「俺、きれい好きやから…」
　私 「本当は次に来た時に、気持ちよくトイレをしたいからやろ」
　客A「あんなとこ、二度と入りたないわ」
　私 「それとも植村花菜がトイレの神様で唄(ウト)てるみたいに、べっぴんになろ思てやろ」
　客A「俺、男やっちゅうねん！それにしても6時間もいれられたらエエ加減、嫌になるわ」
　私 「6時間分、家のクーラー代浮いたやん」
　客A「そんな問題違う！飯は出ーへんし、水くれ、言うたら汚いコップに生ぬるい水やで」
　私 「それはそうと、ポイントカードは作って貰えへんかったん？」
　客A「そんなもん、あるかいな。仮にポイントあったらどないなるねん？」
　私 「ポイントが溜まったらやなあ、北海道旅行や」
　客A「えっ、留置場のポイントが溜まったら北海道旅行てか？」
　私 「そうや、北海道の網走や」
　客A「それ、刑務所やん。行きたないわ。そやけど俺、何で入れられたかわからへんわ」
　私 「明日、警察に行って理由を聞きや」
　客A「ホンマやなあ。それで納得出来(ケ)へんかったら金取ったるわ」
　客N「ほんだら恐喝でホンマに捕まるで」
　私 「ポイントが溜まるからエエやん」
　客A「エエ事無い！趣味の刀取り上げられるわ、近所の人に白い目で見られるわで最悪や」
　私 「カタナ無くなるわ、カタミ狭なるわで、カタナしやなあ」

　一句：模造刀　眺めるだけで　よかったな(刀)
　謎かけ：模造刀とかけて、車のバンパーと解く。どちらも(観賞用・緩衝用)である