まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

応援してたら、応援されてた。ツールド東北2016*アイちゃんと走管さん

2016-09-20 18:56:00 | 日記


そもそも、何だって石巻まで行って
チャリ乗ってるのかといえば
話は数年遡る。

ムスメ、中学時代。
「土日練習なし」「怖い先輩なし」という消去法で
所属を決めた卓球部だったが
一緒に入った友達とはいたく気が合ったようで
付き合いは大学生になっても続いており
長期休暇ともなると仲間全員で、もしくは、そのうちの数人で
頻繁に国内旅行を繰り返している。

その中に、アイビーがいる。
本名はヒナコちゃんというのだが
照れくさいのか何なのか、「私のことはアイビーと呼んで」と言う。
そうはいってもアイビーというのは彼女の家で飼う
真っ黒いラプラドールの名前なのである。
大きな体で甘えん坊、ムスメが遊びに行くと
飛びついて来て顔をペロペロする。
あ、こっちは犬のアイビーの話。
そしてムスメが「ねーねーアイちゃん」と友達を呼ぶと
決まって犬も「ん?なあに?」とこっちを向く。
大変に紛らわしい。あーごめんねアイビー。え?何が?そっちじゃないってば。

大学に通い始めるのとほぼ同時に
ムスメの父親が自転車を始めた。
父親の面白いところは、自分の趣味にムスメを勧誘するところ。
そしてムスメはクロスバイクを買ってもらい
大学までの4キロをそいつで走っていくようになる。
あんな細いタイヤで、ヘルメットもなしで
大丈夫なんだろうかと過剰に心配する母親の私に
ムスメは例えば校内で転倒してちょっと怪我したなどと
いう話を隠そうとしなければならないほどだった。

そうこうしてるうちに、アイビーのパパが
筋金入りのチャリダーで
アイビーも当然のように自転車に乗っているということがわかる。
しかもアイビーパパはものすごいスパルタで
車に乗せて10キロ以上先の馴染みの自転車屋に
娘を連れて行くと、仕上がってる彼女用の自転車を
ほらっとあてがい、ざっくりビンディングの扱いを教え、
そのまま自分だけ車で帰宅。
アイビーは初めてのビンディングで
車の多い市街の道を必死で10キロ漕いで帰った。
「何があっても車道側には倒れない!」と
それだけを念じて走ったという。

アイビーママもアスリートだが
専門はテニスで自転車はお付き合い程度。
ママのご実家は宮城 女川。
お家はかの災害時に海へと流されてしまった。
仮設住宅に暮らすお母様を訪ねるついでに
家族で参加してるのが「ツールド東北」なのだ。

3年前、アイビー一家に誘われて
ムスメがこのイベントに参加すると決まった時
心配性の私は「果たしてあんな自転車で60キロも走れるのか」
とあれこれ考えた。
そして自分用ということでロードバイクを買い
それにムスメが乗って走ればいい、と思いついた。
自分の持ち物としてのロード。でも全くピンとこない。
何を基準に選べばいいかな。
散々迷って、結果、「ジャケ買い」にした。
ロゴが一番美しいと思う、DE ROSA。
オークションで探し始めると、条件にぴったりの1台が見つかった。
そしてムスメは無事に60キロを完走したのだった。
ムスメに少し遅れ、アイビーも無事完走。
途中体調崩したらしく、かなり辛そうなゴールだった。

応援に行った私が見たムスメは
私の知ってるムスメとは少し違った。
沿道で手を振る人やボランティアの人に
大きな声で挨拶と感謝の表示をする。
ライダーの人たちとはにこやかに話をしている。
アイビーのおばあちゃまのお家の様子に
心を痛め、振舞ってくれたずんだ餅の美味しさに感動する。
どちからといえば他人と関わるのが煩雑、と
いうムスメをこんな風に変えてくれる何かが
ここにはあるのだ。

翌年からは家族で参戦している私たち。
距離は一番短い60キロ。
アイビーパパは去年は最長の215キロ、
今年は走行管理ライダーという、ボランティア参加。
(人気のイベントなのでなかなか抽選に通らないため
来年の出場が保証されるボランティアと1年交代という人が多い。)
そしてアイビーはたった一人で100キロのコース。
アイビーママと妹ちゃんはお留守番。

イベント翌日、美味しい寿司屋に連れてってもらいながら
アイビー父娘と昨日の話で盛り上がる。

アイビーはスタートラインに並んだ時から
すでに心がポッキリ折れてたんだそう。
一人だし。雨だし。寒いし。
なので途中の岐路でちゃっかり60キロコースの
ショートカットをするつもりだった。
ところがそんなアイビーにぴったり張り付いたのが
走行管理(走管)のボランティアスタッフ。
登り坂ではすぐ後ろから
「はい、ここはギアを軽くしてゆっくり行きましょう!
フロントはインナーに!はい、ここからは一番軽いのにしますよ!
いっち、にー、いっち、にー、そうそうその調子!」
と、とにかくずーーーーーっと喋ってる。
エイドにたどり着くと、食欲なんてまるでなく
げんなりしてるアイビーに
「ちょっとだけでも食べましょう、カレーのご飯だけでも
全部食べてください、でないと回復しませんよ!」
仕方なく無理やり食べ、また走り始めると
ちゃんと力が戻ってくる。
調子を取り戻して走っていくと
走管さんは次のターゲットに移っていった。
遠くの方で「いっち、にー、」が聞こえて
アイビーはちょっと解放された気持ちになったそう。

でも、あの人がいなかったら
絶対ゴールできなかったよ、私。
ニコニコしてるアイビーを見てたら
きっとこの笑顔を見たら感動して泣いちゃうんじゃないかな、
走管さん、と思った。
そして別のコースの走管さんだったアイビーパパは
ええっ、そんなことまで言うのか、俺なんにも言わなかったなー
と驚いている。

熱血走管さん、来年はライダーとして
思い切り楽しんで走ってくれたらいいな。
そして再来年はまた心折れた誰かを
引きずってゴールまで連れて行ってくれるんだろうな。

目の前に辛そうな人がいたら、手を貸す。
それは実際にはそんなにたやすいことではなくて
貸せるだけの余力がなきゃいけないし
相手に必要なものを見極める目も大事だ。
ただ、この子を俺はゴールまで連れて行くぞ
っていう強固な意志が
もういいや、って思ってたアイビーの気持ちを
やっぱり頑張ってみよう、という方向に
向けさせたのだと思う。
彼だけじゃない、とてもたくさんの人の
強い意志の力をここでは感じる。
だからこんなに私も心惹かれるんだろう。

来年は来られるかなあ、とアイビーとムスメ。
4回生、就活もどうなっていることやら。
こっちの方は張り付いて激励してくれる
走管さんの存在は期待できない。
その代わり自分でしっかり漕がなきゃ。
でも大丈夫、あんな大変なコースを
走り切ったのだ。
今度も行けるよ。