まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

応援してたら、応援されてた。ツールド東北2016*雄勝~河北エイド、そしてゴール

2016-09-19 22:43:47 | 日記



女川エイドを出発するや否や
震える間もないほど速攻で
登り坂が始まる。
トンネルを2本、巨大なトラックと並走する泥だらけの細っこい自転車。
多分彼女はかんかんに怒ってるにちがいない。
前のオーナーは室内でしか乗ってなかったわけだし
なんだって狭い箱に押し込められて
こんな遠い地に送られたあげく
泥水のなかを走らされてるんだろう。
トラックに煽られながら。

ごめんね、でも、
わたしだってこれが
他のイベントごとならば
さっさとキャンセルして
少しついた水滴を拭き取って
チェーンをクリーニングして
オイル差してガレージにいれとくけど
今回はがまんしてほしい。
終わったらちゃんとするから。

三年前、この日をムスメが無事に
完走できるように、と
探して見つかって来てくれたのが
他でもないあなたで
そのおかげで去年も今年も
わたしたちはここにいるのだし。

いつのまにか前も後ろも
だれもいなくなる林の中。
道は一本なので迷いようもないが
ほんの少しの不安と
なぜか解放感に浸りながら
鼻唄うたって最弱ペダルで
くるくる登っていく。

港の景色は相変わらず
木々の間に途切れ途切れに現れる。
漁をする船、養殖の棚。
まだコンクリの色の新しい倉庫。

二番目のエイドは雄勝
ほたての網焼きがふるまわれる。
肉厚の甘い貝柱。
火のそばにおいで、あったまっていきな。
ボランティアさんに言われるまま
貝にジャージが触れそうなくらい
近づいて暖をとる。
そんなわたしたちに女性タレントの
顔パネルを突きだしながら
「この人知りませんか?!」
と、かさかさした声で話しかける
柳沢慎吾さん。なんの収録だ?
えっ、知りませんけど、と言うと
さらっとスルーして去っていく。

いまの、あれだよね、ほら。
と、年配のボランティアさんが
笑ってる。
あの人も自転車で来たの?
いやいや、もしそんなことしたら
あの白地のシャツは今ごろ
真っ黒になってることだろう。

ボランティアさんはついさっき
ダウンヒルでスリップしたライダーを
二人ばかり車で拾って
会場まで送ったという。
雨だからうんと気を付けて、
あのトンネルの先は特に
長い下り坂だよ、と教えてくれる。
それでも去年の好天時より
今日のほうが事故が少ないのだとか。
意識の違いなのだろう。

雄勝を出るとほどなく
このコース中の最も難所に
差し掛かる。
なかなか終わらない登り坂。
そして今度は長くて曲がりくねった
下り坂。
何がこわいって、無言で右側を
すりぬけてぶっとんでゆく
他のライダーたち。

アップダウンがひと段落すると
田園と北上川沿いの平坦コース。
民家がぽつぼつ現れる。
ひさしぶりに、がんばって!の声を聞く。
不思議なもので、それを聞くとほんとうに力が沸いてくる。
手を振る。
カメラ構えてるひとにはピース。
そうこうしてる間に最後のエイド、
河北へ。


去年そのおいしさに心から感動した
平椀。くるみどうふのあんかけ。
そしてふだんはさんざん文句いってるバナナにも手を出す。とにかく体が冷えてて燃料が要る。
なんだよ、おいしいじゃん、バナナのくせに。ってなぜ上からなんだ。
ありがとう、いままでごめん、
来年もここでよろしくね。

あとはゴールまで13キロ、
ひた走る。
全体のペースが恐ろしくあがる。
大学が見えてくる。
急に、さびしくなった。
もうすぐ終わっちゃうのか。

ムスメと並んで、手をあげてゴール。
拍手と旗と傘の波の中を進む。

おつかれさま!ありがとう!

このひとたちは、いったい
何時間ここに並んでてくれてるんだろう。

こちらこそほんとにありがとう。

ゴールは15時少し前、
恐らくスタートから5時間ちょっと。
去年のタイムよりずっと早い。

こんな運動だめだめなわたしでも
ちょっぴり進化できるのだから
と思うと

この町が、壊されてしまった
以前よりもっと進化する
そのことに期待を持っても
いいんだ、と確信できる。

なによりもそれが嬉しい。

応援してたら、応援されてた。ツールド東北2016*スタート~女川エイド

2016-09-19 18:15:27 | 日記


天候により式典の省略、だなんてことは
実行委員の頭にはなかったらしい。
だんだん激しくなる雨に降られながら
なんやらさんの挨拶を聞いたり
隣近所のひとと握手させられたり。
協賛のSUNTORYからは
ダカラちゃん三姉妹がやってきて
「がんばってくださーい」
なんて言われてやに下がるおっさんら。たのむ、巻いてくれ。
柳沢慎吾さんもなぜか現れて
あのテレビで見た悪夢のような
ながったらしい始球式を思い出す。
だがとくになにもなく、杞憂に終わる。よかった。



ようやく走りはじめる、の前に
30人くらいずつ集合写真。
カメラマンも機材を濡らさないよう
大変な様子。
最前列となったわたし、ムスメと腕くんでピース。
でも心のなかでは、悪天候が恨めしい。



大学の門を出て、北上川に沿って
右へと進む。
燃焼をはじめる前の体は、ただたんに雨風に晒されてひたすら冷え
歯がかちかち言って震える。
スタートしてしばらくは平坦が続き、
早く登りにさしかからないかなぁと
いつもなら絶対考えないことを願う。
ときどき眼鏡を指で拭かないと前がよく見えない。
ワイパーつけときゃよかったけどそんなのはかっこわるすぎる。

しかしそんな悪天候でも、沿道には
旗を振って応援してくださる人がいる。
ありがとうございます!と手を振り返す。
とりあえず最低限の目標は
最後まで声援には返礼。
あんまりぜーはーしちゃうと
声出せなくなるから
その分だけは温存。
ただ、やはり雨を避けるため
家のなかから、窓越しに
とか
納屋のなかから、ビール箱に座って
とかいう方々もいて
そうなると通過する瞬間にしか
気づかないので緊張する。
いそうだな、という建物の前は
速度を落とすことも忘れない。


レースじゃない、タイムは競わないし
そんなの競ったら勝てるわきゃない。
去年とおなじに、ここに来ること、
ここを走ること、ここを見ること、
ここにいるひとに会うこと、
それがわたしの目的。


待望の登りにさしかかる。
ギアを思いっきり下げて
ペダルをぐるぐる回す。
だんだん体が温まる。
雨に濡れた林は苔みたいな匂い。


しかし登れば下るのが
このコースのお約束。
水溜まりだらけのアスファルトを
幅2センチぽっちのタイヤで
滑るように降りていく。
ブレーキシューは聞いたことのない音で軋む。

木々の途切れた区間は
下の方に広がる港が見える。
去年にくらべるとだいぶ
重機の載ったむきだしの土が
減っている。


スタートから10キロ、女川駅。
去年建ったばかりの駅舎は
あいかわらず美しく
道路はさんで反対側には
新規に商業施設がならんでいる。

新鮮なさんまのつみれ入り
女川汁が体に沁みる。
おつかれさま!と声がして
振り向くとイシノマキくんがいた。
スタートの時、隣にいた男の子だ。
地元石巻に住んでいるからイシノマキくん。ごめんお名前失念しました。
地元枠でもなかなか手に入らない出走権、去年ボランティアやって今年はじめて走れるんだと言ってた。
震災、たいへんでしたよね、と言うと
家はちょっと…でも家族みんな無事でしたから、と笑顔だった。

彼にとって、ツールド東北はどんなものなんだろう。
彼に見える景色を、どんなにがんばっても、わたしは見ることができない。
想像するだけだ。
もっとちゃんと話をしたかったな。
来年また会えるだろうか。

白い駅舎の脇から見える山の斜面に
いちめん黒々とした墓石が並んでいた。