天候により式典の省略、だなんてことは
実行委員の頭にはなかったらしい。
だんだん激しくなる雨に降られながら
なんやらさんの挨拶を聞いたり
隣近所のひとと握手させられたり。
協賛のSUNTORYからは
ダカラちゃん三姉妹がやってきて
「がんばってくださーい」
なんて言われてやに下がるおっさんら。たのむ、巻いてくれ。
柳沢慎吾さんもなぜか現れて
あのテレビで見た悪夢のような
ながったらしい始球式を思い出す。
だがとくになにもなく、杞憂に終わる。よかった。
ようやく走りはじめる、の前に
30人くらいずつ集合写真。
カメラマンも機材を濡らさないよう
大変な様子。
最前列となったわたし、ムスメと腕くんでピース。
でも心のなかでは、悪天候が恨めしい。
大学の門を出て、北上川に沿って
右へと進む。
燃焼をはじめる前の体は、ただたんに雨風に晒されてひたすら冷え
歯がかちかち言って震える。
スタートしてしばらくは平坦が続き、
早く登りにさしかからないかなぁと
いつもなら絶対考えないことを願う。
ときどき眼鏡を指で拭かないと前がよく見えない。
ワイパーつけときゃよかったけどそんなのはかっこわるすぎる。
しかしそんな悪天候でも、沿道には
旗を振って応援してくださる人がいる。
ありがとうございます!と手を振り返す。
とりあえず最低限の目標は
最後まで声援には返礼。
あんまりぜーはーしちゃうと
声出せなくなるから
その分だけは温存。
ただ、やはり雨を避けるため
家のなかから、窓越しに
とか
納屋のなかから、ビール箱に座って
とかいう方々もいて
そうなると通過する瞬間にしか
気づかないので緊張する。
いそうだな、という建物の前は
速度を落とすことも忘れない。
レースじゃない、タイムは競わないし
そんなの競ったら勝てるわきゃない。
去年とおなじに、ここに来ること、
ここを走ること、ここを見ること、
ここにいるひとに会うこと、
それがわたしの目的。
待望の登りにさしかかる。
ギアを思いっきり下げて
ペダルをぐるぐる回す。
だんだん体が温まる。
雨に濡れた林は苔みたいな匂い。
しかし登れば下るのが
このコースのお約束。
水溜まりだらけのアスファルトを
幅2センチぽっちのタイヤで
滑るように降りていく。
ブレーキシューは聞いたことのない音で軋む。
木々の途切れた区間は
下の方に広がる港が見える。
去年にくらべるとだいぶ
重機の載ったむきだしの土が
減っている。
スタートから10キロ、女川駅。
去年建ったばかりの駅舎は
あいかわらず美しく
道路はさんで反対側には
新規に商業施設がならんでいる。
新鮮なさんまのつみれ入り
女川汁が体に沁みる。
おつかれさま!と声がして
振り向くとイシノマキくんがいた。
スタートの時、隣にいた男の子だ。
地元石巻に住んでいるからイシノマキくん。ごめんお名前失念しました。
地元枠でもなかなか手に入らない出走権、去年ボランティアやって今年はじめて走れるんだと言ってた。
震災、たいへんでしたよね、と言うと
家はちょっと…でも家族みんな無事でしたから、と笑顔だった。
彼にとって、ツールド東北はどんなものなんだろう。
彼に見える景色を、どんなにがんばっても、わたしは見ることができない。
想像するだけだ。
もっとちゃんと話をしたかったな。
来年また会えるだろうか。
白い駅舎の脇から見える山の斜面に
いちめん黒々とした墓石が並んでいた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます