女川エイドを出発するや否や
震える間もないほど速攻で
登り坂が始まる。
トンネルを2本、巨大なトラックと並走する泥だらけの細っこい自転車。
多分彼女はかんかんに怒ってるにちがいない。
前のオーナーは室内でしか乗ってなかったわけだし
なんだって狭い箱に押し込められて
こんな遠い地に送られたあげく
泥水のなかを走らされてるんだろう。
トラックに煽られながら。
ごめんね、でも、
わたしだってこれが
他のイベントごとならば
さっさとキャンセルして
少しついた水滴を拭き取って
チェーンをクリーニングして
オイル差してガレージにいれとくけど
今回はがまんしてほしい。
終わったらちゃんとするから。
三年前、この日をムスメが無事に
完走できるように、と
探して見つかって来てくれたのが
他でもないあなたで
そのおかげで去年も今年も
わたしたちはここにいるのだし。
いつのまにか前も後ろも
だれもいなくなる林の中。
道は一本なので迷いようもないが
ほんの少しの不安と
なぜか解放感に浸りながら
鼻唄うたって最弱ペダルで
くるくる登っていく。
港の景色は相変わらず
木々の間に途切れ途切れに現れる。
漁をする船、養殖の棚。
まだコンクリの色の新しい倉庫。
二番目のエイドは雄勝
ほたての網焼きがふるまわれる。
肉厚の甘い貝柱。
火のそばにおいで、あったまっていきな。
ボランティアさんに言われるまま
貝にジャージが触れそうなくらい
近づいて暖をとる。
そんなわたしたちに女性タレントの
顔パネルを突きだしながら
「この人知りませんか?!」
と、かさかさした声で話しかける
柳沢慎吾さん。なんの収録だ?
えっ、知りませんけど、と言うと
さらっとスルーして去っていく。
いまの、あれだよね、ほら。
と、年配のボランティアさんが
笑ってる。
あの人も自転車で来たの?
いやいや、もしそんなことしたら
あの白地のシャツは今ごろ
真っ黒になってることだろう。
ボランティアさんはついさっき
ダウンヒルでスリップしたライダーを
二人ばかり車で拾って
会場まで送ったという。
雨だからうんと気を付けて、
あのトンネルの先は特に
長い下り坂だよ、と教えてくれる。
それでも去年の好天時より
今日のほうが事故が少ないのだとか。
意識の違いなのだろう。
雄勝を出るとほどなく
このコース中の最も難所に
差し掛かる。
なかなか終わらない登り坂。
そして今度は長くて曲がりくねった
下り坂。
何がこわいって、無言で右側を
すりぬけてぶっとんでゆく
他のライダーたち。
アップダウンがひと段落すると
田園と北上川沿いの平坦コース。
民家がぽつぼつ現れる。
ひさしぶりに、がんばって!の声を聞く。
不思議なもので、それを聞くとほんとうに力が沸いてくる。
手を振る。
カメラ構えてるひとにはピース。
そうこうしてる間に最後のエイド、
河北へ。
去年そのおいしさに心から感動した
平椀。くるみどうふのあんかけ。
そしてふだんはさんざん文句いってるバナナにも手を出す。とにかく体が冷えてて燃料が要る。
なんだよ、おいしいじゃん、バナナのくせに。ってなぜ上からなんだ。
ありがとう、いままでごめん、
来年もここでよろしくね。
あとはゴールまで13キロ、
ひた走る。
全体のペースが恐ろしくあがる。
大学が見えてくる。
急に、さびしくなった。
もうすぐ終わっちゃうのか。
ムスメと並んで、手をあげてゴール。
拍手と旗と傘の波の中を進む。
おつかれさま!ありがとう!
このひとたちは、いったい
何時間ここに並んでてくれてるんだろう。
こちらこそほんとにありがとう。
ゴールは15時少し前、
恐らくスタートから5時間ちょっと。
去年のタイムよりずっと早い。
こんな運動だめだめなわたしでも
ちょっぴり進化できるのだから
と思うと
この町が、壊されてしまった
以前よりもっと進化する
そのことに期待を持っても
いいんだ、と確信できる。
なによりもそれが嬉しい。
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