1954年3月に早大童話会OBの同人誌である「小さい仲間」第5号に発表され、1959年に他の論文と一緒に出版された児童文学論です。
その前年に早大童話会が発表し「現代児童文学」の出発点のひとつとなった「少年文学の旗の下に」(一般的には「少年文学宣言」として知られています)は、当時としては過激な宣言文ないしはアジテーションでした(それ以前に発表されていた「児童文学」のほとんどすべてである「メルヘン」、「生活童話」、「無国籍童話」、「少年少女読物」をバッサリとすべて切り捨てて、新しい「少年文学」を目指すべきであるとしています)ので、児童文学界では大論争が巻き起こりました。
「少年文学の旗の下に」は短い宣言文なので、観念的で舌足らずなものでしたから、その発表メンバーであった著者や鳥越信が中心になって、より詳しい内容を示す論陣を張りました。
この「近代童話の崩壊」もその一環として発表されたもので、「メルヘン」の代表として小川未明の「赤いろうそくと人魚」を、「生活童話」の代表として岡本良雄の「あすもおかしいか」を取り上げて、それらの価値を認めつつも手法の限界について述べています。
非常に観念的(この時点で、著者たちは彼らの立場に沿った具体的な作品を持っていませんでした。彼らの同志である山中恒の「赤毛のポチ」の連載がスタートするのは1954年7月で、完結して日本児童文学者協会新人賞を受賞するのは1956年、本になったのはさらに遅く1960年です)ですが、ようは現実の子どもを描き、社会の動きと連動して、社会変革の意志を持った作品でなければならないということのようです。
彼らの主張(「散文性の獲得」「子どもへの関心」「変革への意志」)は、もう一つの近代童話批判の流れである石井桃子たち「子どもと文学」の主張である「おもしろく、はっきりとわかりやすく」とともに、「現代児童文学」の成立に大きく寄与していきます。
このブログで繰り返し述べているように、「現代児童文学」はすでに終焉しています(一般には2010年と言われていますが、私見では1990年代半ばだと思っています)が、その遺志を継ぐ「ポスト現代児童文学」は、子どもたちや若い世代を取り巻く様々な問題に対する「変革への意志」を持った、おそらく一般文学の形態のものになると思われます。
この論文の著者の古田足日先生は、2014年にお亡くなりになりました。謹んで先生のご冥福をお祈りいたします。
現代児童文学論―近代童話批判 (1959年) | |
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