現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

古田足日「ロボット・カミイ」

2021-10-01 17:03:48 | 作品論

 1970年に出版された幼年文学の古典です。
 カミイは、仲良しの幼稚園児(ももぐみさんです)のたけしとようこが、ダンボールで作ったロボット(紙で作ったのでカミイという名前も、ベタな子どもらしいネーミングです)です。
 鋼鉄製(本人はそう思っている)のロボットのカミイは、力持ちで世界一強いはずなのですが、実は紙でできているので水に弱い(泣き虫なので自分の涙にも弱い)のです。
 カミイはわがままでいばりんぼなので、二人と一緒に行った幼稚園でも問題ばかりおこします。
 幼稚園児にとっての、自分よりもわがままで困った存在、そう、カミイはみんなの弟のようなものなのです。
 カミイとの行動を通して、お話の中の子どもたち(男の子と女の子のダブル主役なので、男の子読者も女の子読者も自分を主役にできます)も、そして読者の子どもたちも、自分の成長(おにいさんやおねえさんになったような気持ちになれます)を確認できることが、この作品の一番の魅力でしょう。
 それに、園内の小さな世界にとどまらず、みんなを助けるためにダンプカーにひかれて死んだカミイが、たけしとようこが破れたりしたところを補修するだけであっさりと復活して、最後はみんながダンボールで作ったチビゾウに乗ってロボットの国へ帰るというダイナミックなストーリーも備えています。
 作者は、実際に幼稚園に取材をしたり、教育実践を参考にしたりして、作品の幼稚園生活(書かれてから約五十年がたち、さすがに現在の幼稚園の実態にそぐわない個所もありますし、作品のジェンダー観(男の子と女の子の役割の固定化など)も古くなっていますが)にリアリティを持たせ、実際の園児たちの反応を確かめながら作品を膨らませています。
 作者の評論(特に初期のもの)は抽象的で難解なことが多く、高学年向きの作品には理が勝っている作品(「宿題引受け株式会社」(その記事を参照してください)など)もあるのですが、むしろ幼年文学(「おしいれのぼうけん」(その記事を参照してください)など)の方に生き生きとした優れた作品が多いように感じます。

ロボット・カミイ (福音館創作童話シリーズ)
クリエーター情報なし
福音館書店
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする