「線刻画に秘められた謎」のご紹介の続きです。
カブレラ博士宅を辞した著者たちが、ホテルで思いにふけっているところです。
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(引用ここから)
現在、先史時代の人類について分かっていることは少ない。
ほんとうに原始時代の人類は原始的な道具を作ったり洞窟から洞窟へと移り住みながら洞窟画を描いたりするだけの知能しかもっていなかったのだろうか?
ひょっとして、人類誕生の歴史は書き換えを迫られているのではないだろうか?
人類最初の技術的進歩である「旧石器時代」のはじまりは、考古学によって年代が特定されている。
しかし「旧石器時代」も、謎に満ちた特異な時代であることは変わりない。
この時代の出来事の多くはまだ謎のままである。
たとえばホモサピエンス=現在人類がネアンデルタール人に取って代わったのはいつなのか?
そしてその交代はどのように起こったのか?
ネアンデルタール人はどこに行ったのか?
ネアンデルタール人は言語をもっていたのだろうか?
ネアンデルタール人は全く芸術作品を残さなかったのか?
最近判明したところによれば、ネアンデルタール人からホモサピエンスへの交代は地球全地域で同時に起こったという。
それはなぜだろう?
そしてまた、人類は常に進化し続けてきたのだろうか?
退化の過程を辿ったことはないのだろうか?
発掘された遺物のなかには、長い長い退化の果ての時代、没落の時代に属するものもあるのではないだろうか?
考古学はあまりにも単純な方法で謎を解こうとする。
たとえば先史時代のさまざまな石器を解釈する際の方法がそれである。
道具の製造と知能の発達は相関関係にあるという理論は一般的に広く受け入れられているが、まちがいなくホモサピエンスに属するオーストラリア原住民アボリジニの存在は、必ずしもそうは言えないことを証明している。
アボリジニは高い知能を有しているにも関わらず、旧石器時代と変わらない道具を使い続けているからである。
インドのビルホル族も、同様の例である。
彼らは他民族の影響一切を拒み、石器時代そのままの遊牧生活を続けている。
彼らは現代世界の衣服、食物、酒、医薬品、金属、意思疎通の手段である言語の受け入れをかたくなに拒んでおり、しかし彼らもまぎれもなくホモサピエンスであり、発達した知能の持ち主なのである。
ひょっとすると人間の知能は外界の影響と無関係に発達したのかもしれない。
そして優れた知能は、考えられてきたよりずっと早くから人間に備わっていたのかもしれない。
既成の考古学は、こうした問題に対してほとんど答えることができない。
ムイラン人の存在のような画期的な発見によって、考古学の知識が将来さらに増すことを祈るのみである。
ムイラン人は、アルジェリアとモロッコの海岸地方で、ネアンデルタール人の遺物を探していた考古学者のグループによって発見された、肉体的にも文化的にも特異な人類である。
ムイラン人の生存年代は、放射性炭素年代測定法によって、1万2000年前と推定された。
複数の場所から100体ほどの埋葬された墓が発見され、調査がおこなわれた。
以来、人類学者の間でムイラン人についての議論が続いている。
突如として現れた彼らはいったいどこから来たのか?
同時期の地球上のどこにもなかった全く新しい複雑で進化した道具類の加工法を、彼らはどのように習得したのか?
その上、同じ地層からアフリカ大陸原産ではない動物の骨が発見されている。
さらに信じがたいことに、このムイラン人の脳の容積は現代人のそれより大きいのである。
ムイラン人の容積は2300立方センチ、一方現代人のそれは2700立方センチである。
巨大な脳溶液だけでも不可解だが、それよりさらに不可思議なのはムイラン人の頭と顔の比率である。
ムイラン人の頭蓋骨は現代人のそれより丸く、彼らの頭蓋骨は大人になっても子供の時の形を保っていたということである。
大人になっても頭蓋骨の大きさが変化しないため、彼らは成長するにつれて垂直方向に拡大していった。
彼らの顔立ちはコーカサス人種と比較してもほっそりしてモダンである。
黒人種の頑丈そうな頭蓋骨に似たところはない。
ムイラン人の頭骸骨が、子供と同じような構造を保ちながら成長していく現象を専門用語で「幼形成熟」という。
これは現代人の重要な特徴のひとつで、子供時代が長いということは、脳の発達にとって有利なのである。
彼らが何者だったにせよ、彼らは北アフリカのこの海岸地方にだけ分布し、出現した時と同様突然姿を消してしまった。
ムイラン人は、未来からやってきた漂流者だったのだろうか?
彼らはむしろ未来人と言うのにふさわしい。
間違って100万年か200万年早く地上に出現してしまったのではないかと思わせるものがある。
考古学者にとって、ムイラン人はやっかいな存在なのである。
新しい発見があるたびに、人類誕生の推定年代は少しづつ遡り、人類誕生は200万年以上前と聞かされても最近では誰も驚かないほどである。
イカの石に描かれているように、恐竜と人類が共存していたとなると、イカの石を無視することはできない。
人類の起源について納得のいく説明は未だに存在していないという事実を消し去ることはできないのである。
(引用ここまで)
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