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南米の「白い人」伝説(1)・・ビラコチャは帰ってくる

2012-09-10 | インカ・ナスカ・古代アンデス


「天空の帝国インカ・その謎に挑む」という山本紀夫氏の本を読んでみました。

インカ帝国はなぜ、あっけなくスペイン兵の攻撃の前に陥落したのかについて考察しています。

リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。


          *****

         (引用ここから)


「白い人間」

インカ帝国の謎の一つが、わずかなスペイン人たちの侵略によってもろくも崩壊してしまったことだろう。

それはなぜだったのだろうか?

その原因についてはさまざまな研究があるが、「ピサロを征服の成功に導いた直接の要因は銃器、鉄製の武器、そして騎馬などに基づく軍事技術、ユーラシアの風土病、伝染病に対する疫病など、要するに「銃、病原菌、鉄」であったとする主張がある。

しかし果たしてそれだけだったのか?

わたしは異形を崇拝する「ワカ信仰」も大きな要因になったと考えている。


ワイナ・カパックが病没した後、第12代インカ王にはクスコに住むワスカルが即位する。

一方エクアドルには、父王ワイナ・カパックと暮らしていたワスカルの異母兄弟アタワルパがいた。

そして両者の間に戦争が勃発した。


はじめのうちはクスコを治めるワスカルが攻勢であった。

しかし彼は4万人の大軍をエクアドルに送り込むが、アタワルパ軍の攻めに大敗する。

ここからアタワルパ軍は反攻に転じ、ワスカルを捕虜にした。

戦勝の報告を聞いて、クスコに迫りつつあったアタワルパは、その途中で不吉な報せを耳にする。

それは、“海岸にとてつもなく大きな獣に乗った「白い人間」が出現した”というものであった。

このためアタワルパはクスコへの道を取って返し、ペルー北部高地の町で2万人の兵と共に「白い人間」たちを待ち構えた。

この「白い人間」達こそは、フランシス・ピサロに率いられたスペインの征服者たち18人で、“途方もなく大きな獣”とは馬のことであった。

彼らは数千人の海岸の住人を荷物担ぎとして連れて来ていたので、町の広場をとりまく家々に宿泊した。

そしてピサロの使者がアタワルパを訪れ、面会したいと伝えた。

アタワルパは承諾した。

1532年11月15日のことだ。


その翌日の夕刻、アタワルパは多数の部下を引き連れて町にやってきた。

従軍聖職者が武将と通訳をともなって近づいた。

神父はアタワルパに唯一の信仰、キリスト教について説いた。

通訳はそれを訳して伝えた。

神父は祈祷書を持って、それを読んで説き聞かせた。

アタワルパは本を手に取ってはみたものの、開け方が分からないので地面に放り投げた。

このアタワルパの行為をスペイン人は神への冒涜と考え、総攻撃を開始した。

たちまちあたりは血の海と化し、数千人のインカ兵が殺された。

アタワルパもピサロの手で捕らえられ、監禁されてしまった。

こうしてインカ帝国は滅亡を余儀なくされたのであった。



なぜわずか168人のスペイン兵が一人の犠牲者も出さずに何千人ものインカ兵を殺し、自分たちの500倍もの数のインディオを壊滅状態に追い込むことに成功したのか?

なぜインカ王は、やすやすとスペイン人たちの要請に従って彼らと会ったのか?

それが大きな疑問に思える。


ここに一つのヒントとなるものがある。

それはスペイン人たちがアンデスの人々によって「白い人」と呼ばれていたことだ。

先にインカの起源に関してはいくつも創造神話があることを述べたが、共通していることはどの創造神話にも「ビラコチャ」という創造神が現れることだ。

そしてその「ビラコチャ」こそは「白い人」だったのである。

クスコ近くに、「ビラコチャの神殿」と俗称されるインカ時代の建物がある。

下部だけがクスコ様式の切石で造られ、その上部には高く積んだ大きな壁が並び、その両脇には円柱が配置されている。

創造神ビラコチャに捧げられたという説もある。

とにかくインカの建築としては、極めて特異な構造をした建物である。


さて、なぜインカの創造神が「白人」であったのだろうか?

アンデスの住民は、日本人などと同じようにモンゴロイドであり、黄色人種である。

その中で白い肌を持つ人間はまさしく通常から逸脱した人間であり、「異形」であったのではないか。

だとすれば、ビラコチャ神はワカ信仰とも大きな関係を持つだろう。

前述したようにワカは崇拝の対象であるとともに、畏怖の対象でもあった。

そのようなワカと関係の深い創造神のビラコチャは、「いつの日か自分の使いをよこす」という伝説があった。

実際にスペイン人の記録者によれば、インカ人が「彼(ビラコチャ)は海の上を去る時、いつか自分の使者をよこすだろうと告げた」と語ったと記録されている。

このような伝説があれば、スペイン人の到来はビラコチャの再来と信じられたとしても不思議ではない。

これに得体の知れない伝染病の流行が拍車をかけたのかもしれない。


この少し前にはワイナ・カパック王は死の床にあり、さらに不吉な予兆がいくつも現れていた。

「大きな彗星が現れた、地震がおこった、太陽が多彩な環で縁取られた」などなど、人々の不安を掻き立てる自然現象もおこっていたのである。


突然姿を現した「白い人間」たちは、古くから異形的なものを崇拝し畏怖してきたインカの民に極めて大きな衝撃を与えたに違いない。

何度裏切られてもスペイン人たちに従うインカ人の姿勢は、彼らを“ビラコチャの再来”と信じて疑わなかったからではないか。

馬や鉄製の武具などの表面的なものだけではなく、アンデス住民の精神的なものも、インカの滅亡の要因として大きく影響したであろう。


        (引用ここまで)


          *****


またしても「白い人・白い兄は帰ってくる」という伝説に行き当たります。

なぜアメリカ大陸には、「白い兄がやって来た」「白い兄は帰ってくる」という伝説が広く深く浸透しているのでしょうか?

そしてその意味するところは何なのでしょうか?


春に行った「インカ帝国展」でも、歴史的事実として、インカ帝国の終焉の成り行きが、豊富な資料と共に説明してありました。

それらの展示と説明を読んでも、私には、なにが、なぜ起きたのか、はっきりと理解することはできませんでした。



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などあります。(重複しています)
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2 コメント

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インカの滅亡の謎 (根保孝栄・石塚邦男)
2012-12-15 04:43:48
゜「白い人信仰」か・・なるほど。そのような信仰があったのだとしたら、さもありなん、でありますね。
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運命のめぐり合わせ (veera)
2012-12-15 21:23:02

根保孝栄・石塚邦男様

コメント、ありがとうございました。

アメリカ大陸に広がっている「白い神」信仰については、何度も取り上げてきましたが、なかなか、腑に落ちる答えがみつかりません。

マヤ文明も、この信仰のために、白人に抵抗できず、陥落してしまいました。

でも、これらはなにかの勘違いに違いないと思うのです。

彼ら先住民族は、はるか遠い過去の地球の記憶を持っている人々なのだ、というのが、わたしの仮説です。

はるか遠い昔、白人とは似ても似つかぬ「何か白いもの」が、彼らと関わりをもったのではないかと思っています。

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