引き続き、吉田憲司氏の「仮面の森」のご紹介をさせていただきます。
リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。
サハラ以南アフリカ=最古の文明の遺産であると同時に、地球上あらゆるところに見られる「村」と「村人」の、死をめぐる習俗でもあるようにも思います。
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(引用ここから)
〔準備段階・2日目〕
≪村にて≫
前夜、舞踏の場で宣言されたとおり、早朝から女たちはトウモロコシをついて水にひたす作業を行う。
「葬送儀礼」と結びついた酒造りの場合、その工程を通じて主な工程の最初の作業は、「ニャウ」の手で行われるべきものとされている。
葬儀の酒は、生者と死者のための酒であり、死者と生者の共同作業によってかもされなければならないのである。
森から、数体の「ニャウ」が登場する。
この場合の「ニャウ」は、死者の霊を体現した「ニャウ」である。
いずれも鳥の羽で覆われた「覆面」をかぶり、樹皮の「腰みの」をまとっている。
「ニャウ」がやって来ると、すでに臼と杵を持って集まっていた女たちは歌を歌う。
♪お前たちが 母を殺した
それでいて 神のせいだと言ってのける
殺したのは そこにいる人たちだ♪
母の死は、人間の邪術によってもたらされたものだ、という歌である。
死者が男性でも、同じ内容となる。
歌に合わせて、ひとしきり踊ると、死者の霊「ニャウ」は杵を手にしてトウモロコシを挽き始める。
女たちは、歌を変えて歌い続ける。
≪森にて≫・「動物型ニャウ」の制作
男たちが秘密の場所で、「動物型ニャウ」の制作を始めると、新しい加入者もその作業を手伝う形で制作方法を学んでいく。
ここにおいてはじめて、ナムワリは「ニャウ・ヨレンバ」が動物ではなく、木と草から作られた〝かぶりもの″であることを知らされる。
また秘密の問答も教えられる。
「ニャウ・ヨレンバ」の制作に必要なトウモロコシの皮は、人々が中身を食べた後の、捨てられた皮をこっそりと集めたものである。
完成した「動物型ニャウ」=「ヨレンバ」は、変装の場所で準備を整え、近くの村の広場で踊った後、「ニャウ」のメンバーの手で燃やされる。
その「灰」は、「ナムワリ」が「薬」として服用する。
「わしらが食う」とは、そのことを意味している。
〔準備段階3日目〕
≪村にて≫ 仮面舞踏
「ニャウ」が酒作りの手伝いのために村に現れた日は、必ず夜に「仮面舞踏」が催される。
〔準備段階4日目〕
≪村にて≫
この日朝から、20人ほどの女たちが2体の「ニャウ」を伴って近隣の村々をまわり、必要なトウモロコシの寄付を集め始める。
家々の前に立っては、木の棒で地面を突きながら歌う。
♪この家の主は どこへ行った?
墓場へ呼ばれて行ったんだ♪
≪森にて≫
森では、「動物型ニャウ」=「ニャウ・ヨレンバ」の制作が進む。
〔準備段階5日目〕
≪村にて≫
この日は水に浸しておいたトウモロコシを水から揚げ、日に当てて乾燥させる作業が行われる。
森から「ニャウ」が登場し、作業を先導する。
≪森にて≫ 「ナムワリ」の送り出し
この日までに、「ナムワリ」(新しい加入者)の、秘密の用語や問答の習得はかなり進んでいる。
そこでひとまず、「ナムワリ」を父母の元へ送り届けることになる。
加入儀礼の期間中、「ナムワリ」は死者に擬せられ、脆弱な存在として扱われていることがわかる。
この日から、「ナムワリ」は独身者だけの家に寄宿し、その家から他の男たちと共に、毎日、森の中の作業所へ通うこととなる。
≪村にて≫ 夜、村に「死者の集団」=「ウェンベ」登場
夜、「ニャウ」の男たちは、手にもった斧と鍬を打ち合わせて、大きな音をたてながら、村に現れる。
衣装といっても、闇にまぎれることを計算して、ほおかむりをする以外は平服のままである。
男たちは、低いうなり声で歌を歌う。
♪ウェンベ、そんなことはもうやめろ
おれの心は、おまえのこともお見通しだ♪
この「ニャウ」は「ウェンベ」と呼ばれる。
「ウェンベ」は、それまでに死んだ死者たちの霊が、集団で現れたものだという。
家の軒柱に体当たりして、家を揺り動かすかと思えば、寝ている豚を蹴り飛ばして悲鳴を上げさせる。
村はたちまちのうちに、騒然とした雰囲気に包まれる。
この騒音を聞くと、女たちはとる物もとりあえず、家に入り、戸を閉めて息をこらす。
もし万が一、「ウェンベ」に姿を見られれば何をされるかわからないからである。
こうして女たちが家の中に隠れている間に、男たちは村のごみ捨て場や穀倉のまわりからトウモロコシの皮を集める。
「動物型ニャウ」=「ヨレンバ」の制作に使用するためである。
〔仕込み後1日目〕
酒造りの日程とニャウの舞踏の日程は、厳密に対応する。
≪村にて≫
煮立った湯に、トウモロコシの粉を加える。
これによって、トウモロコシの粥ができる。
火にかけていた壺を下ろし、粥を冷ます。
そしてこの間に、発芽したトウモロコシをつき、ふるいにかける。
こうして得られた粉は、チメアと呼ばれる。
粥が冷めたところを見計らって、チメアを加える。
これが仕込みに相当する。
この日も「ニャウ」が村に現れ、作業を手伝う。
≪森にて≫
「ニャウ・ヨレンバ」の制作が進む
≪村にて≫ 夜・「仮面舞踏」が行われる。
この日、完成したハイエナとカメの2体の「ニャウ・ヨレンバ」が登場する。
ハイエナは、前後へ伸び上がるような上下運動を繰り返す。
♪ハイエナ、おまえは見たか、
やつは見た、豚の肉を♪
カメは、小刻みにからだを左右にふる。
♪甲羅の大きなカメだ、母さん
甲羅の大きなカメだ、母さん
こっちへ来て、見てごらん♪
この夜登場した「動物型ニャウ」=「ニャウ・ヨレンバ」は、以下のとおりである。
「ニョロニョ」
鼻を紐で縛り、ニョーニョーという声を出すので、この名がある。
死者をまねるとも、鳥をまねるとも言い、何を模したものかは定かでない。
♪気をつけろ おまえ
気をつけろ おまえ
おまえは わたしの家族を連れて行って 墓場へ置いた
おまえは自分の家族を連れて行って 村へ置いた
自分のクラン(氏族)を大きくするために♪
「ニャータ」
頭を樹皮の布でおおい、ふんどしを付けている。
からだには、泥を塗り付ける。
死者を模したものとも、死者の肉を食べた呪師を模したものともいう。
2本の木片を打ち鳴らしながら、広場をまわる。
♪ニャータ ニャータ
ニャータを見たか?♪
「チャヤカ・モト」
「火のついたもの」の意味。
からだに火縄をくくりつけて、闇のなかを走り回る。
火で自分のからだを包む呪術師を再現したものだという。
古い畑の大きな薪、
火のついたもの、
その他のものも登場する。
〔仕込み後2日目〕
≪村にて≫
前日に準備した粥を火にかけ、発酵度の低い甘酒ができあがる。
甘酒が出来上がった頃をめがけて、「ニャウ」がその甘酒を取りに来る。
「ニャウ」の催促に応じて、女たちは甘酒を村はずれまで運んでやる。
森へ出てから「ニャウ」が受け取るのである。
このように、村と森の区別は極めて厳格に守られている。
「ニャウ」の手に渡った甘酒は、「動物型ニャウ」=「ヨレンバ」の制作を進めている男たちの間で分けられる。
≪森にて≫ ヨレンバの制作
昨夜踊ったハイエナの「ヨレンバ」は、この朝、さっそく燃やされる。
一方カメの「ヨレンバ」は、5日目に行われる徹夜の仮面舞踏のためにとっておかれる。
この日から、葬儀の主催村の結社のリーダーからの要請を受けて、近隣諸村落の各結社でも、ヨレンバの制作が開始された。
≪村にて≫ 夜・「仮面舞踏」
「インパラ」をかたどった「ニャウ・ヨレンバ」が登場し、酒造りの小屋の前で踊る。
(引用ここまで)
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Wikipedia「インパラ」より
インパラは、ウシ科に分類される偶蹄類。本種のみでインパラ属を構成する。
分布
ウガンダ、ケニア、ザンビア、ジンバブエ、タンザニア、ボツワナ、マラウイ、南アフリカ共和国、モザンビーク、ルワンダ
形態
体長120-160センチメートル。尾長30-45センチメートル。
尾の先端のみ体毛が房状に伸長する。
背面や上半身の体側面の毛衣は赤褐色、下半身の体側面や四肢背面の毛衣は黄褐色。
下顎や喉、胸部から腹部、大腿部の内側の毛衣は白い。
大腿部後部や尾背面に黒い縞模様が入り、後肢の蹄の上部後面に黒い房状の体毛がある。
耳介は先端が尖る。
オスにのみ竪琴形の角がある。角長91センチメートル。
生態
水辺のサバンナや落葉樹林などに生息する。
乾季になると30-50頭の群れを形成し(200頭以上の群れを形成することもある)、食物を求めて放浪する。
危険を感じると跳躍を交えながらながら走って逃げる。
走行速度は時速60キロメートルに達し、跳躍は高さ3メートル、幅10メートルに達する。
食性は植物食で、主に草を食べるが、木の枝、葉、花、果実なども食べる。
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(引用ここから)
この日までの「仮面舞踏」は、村で行うといっても、厳密に言えば、村はずれの広場で行うものであった。
酒作りの手伝い以外に、「ニャウ」が村の中に入って踊ることはなかった。
特に「動物型ニャウ」=「ニャウ・ヨレンバ」が村の中に入るのはこの夜が初めてである。
この踊りは典型的な円を描く「ニャウ・ヨレンバ」の踊りで、ひたすら旋回運動を繰り返すものである。
♪ンスワラの酒、ンスワラの酒
行ってみてみよう
行ってみてみよう♪
「インパラ」のニャウ=「ンスワラ」は死者たちの使いとして、酒の出来を視察する役割を担ってやって来ると言われる。
このため、「ンスワラ」が酒造りの小屋の前で踊ると、女たちは酒を差し出す。
この夜は、その日にできた甘酒が差し出された。
「ンスワラ」以外に、同夜に登場したニャウは以下のとおりであった。
ニョロニョ、カシンジャ、チャカヤモト、カンカヴィングウィ。
(引用ここまで)
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