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アフリカのお盆・・「仮面の森」吉田憲司氏・アフリカ・チェワ族の仮面結社の世界(4)

2017-08-23 | アフリカ・オセアニア


吉田憲司氏の「仮面の森」より、アフリカ・チュワ族の葬送儀礼のご紹介を続けさせていただきます。

タイトルにつけたように、アフリカのお盆だなあ、と思いました。

最近の日本は、簡単なお葬式が流行していて、お坊さんもお通夜もなしでよし、という風潮がありますが、あらためて、人を人たらしめているものは何なのか?と考えてしまいました。

リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。

            *****

          (引用ここから)

〔仕込み後3日目〕

≪村にて≫

この日は、1日中甘酒を寝かせておく。

夕刻近くなると、発酵が進み、泡が立ち始める。

3時をまわった頃、「カンカヴィングウィ」とよばれる「ニャウ」が村に現れる。

女子供は慌てて家の中に隠れ、豚や鳥が逃げ惑う。


村はたちまち騒然となる。

この「ニャウ」は、カシンジャと同じく、羽製の覆面をかぶり、樹皮の腰みのをまとっている。

やはり死者の霊を体現したものとされるが、高い声で話すのが特徴である。

喪主が十分な食料を「ニャウ」のメンバーに提供しないと、彼は村にいる家畜を手あたり次第に略奪し、食料として持ち帰ることを許されている。

それで彼は〝恐ろしい「ニャウ」″の筆頭に挙げられる。

喪主はこの「ニャウ」の暴挙を恐れて、十分な量の肉や酒を贈るのが常である。


〔仕込み後4日目〕

≪村にて≫

この日はもう一度、甘酒の発酵を強める作業が行われる。

例によって「ニャウ」が登場し、作業を先導する。


≪森にて≫ ヨレンバの制作

≪村にて≫ 夜・「仮面舞踏」


この夜は「インパラ」が再び酒造りの小屋の前で踊り、酒をもらう。

「インパラ」はまた、死者の家の前でもしばらく踊る。


〔仕込み後5日目〕

≪村にて≫

トウモロコシの粉を湯に入れて、もう一度粥をつくる。

発酵の進んだ酒に加えて、酒を薄めるのである。


≪村にて≫ 徹夜の「仮面舞踏」

チャレ(発酵の進んだ酒)ができあがる日の夜、「葬送の儀=「ボナ」は最高潮に達する。

この夜には、徹夜で「仮面舞踏」が行われる。


≪森にて≫

森の中での「動物型ニャウ」=「ニャウ・ヨレンバ」の制作は、最終的には、この夜をめがけて進められてきた。

したがって、この日の夕刻までには、すべてのヨレンバが完成される。


すでに焼却されたものをのぞいて、この日勢ぞろいしたヨレンバは、インパラ、ライオン、カメ、ジザイチョウ、ウシなど計10体であった。

日暮れ近くになると、これらすべての「ニャウ」が列を組み、村へ向かう。


村に近づくと、男たちは「ニャウ」を繁みの中に隠す。

夕食を済ませてから、徹夜の「仮面舞踏」の開始である。


この日の舞踏は、村の中で行われる。

夜8時過ぎ、最初の「ニャウ」が現れる。

夜がふけるにしたがって、人垣が小さくなり、「ニャウ」と女たちが一緒に踊るようになる。


「ボナ」において最も重要な存在とされるのが、「死者を送り届けるもの」という名の「ニャウ・ヨレンバ」である。

この日の前日、つまりチエラの夜に、死者の家の中に引き入れられ、一昼夜その中に安置される。

そして徹夜の舞踏も終盤にさしかかった夜明け頃、死者の家から出て、人々の前で踊った後に、森へ帰る。

森に入ると、ただちに火がかけられる。

一方、死者の家も速やかに破壊される。


チェワの人々の観念によれば、死者の霊は、死後もまだ地上に残り、村の近辺をさまよい歩いていると考えられている。

人々が「亡霊の姿を見かける」と言うのは、このためである。

またこの時期に、「動物に変わった死者の姿を見た」という噂が流れることもある。


それに対して、「祖先の霊」は風のように、姿を見せず、自由に飛び回っているとされている。

「死者を送り届けるもの」という「ニャウ」を死者の家に安置するのは、地上に残っていた死者の霊を取り込むためである。

「死者を送り届けるもの」という「ニャウ」が燃やされ、立ち昇る煙が風の中に消える時、死者の霊もまた、風にまじって、祖霊として生き始めるのだという。

「ボナ」の中心的テーマは、これら一連のプロセスの中に宿されているのである。


〔仕込み後6日目〕

≪村にて≫

酒が出来上がる。

朝まで踊り歌っていた人々は、そのまま一日中酒を飲み続ける。

昼過ぎ、再び「仮面舞踏」が始まる。

昼間に組織的な仮面舞踏が行われるのは、「葬送の儀礼=ボナ」の全期間を通じてこれが最初で最後である。

この日の踊りは、新たな死者が自分達の仲間入りをしたことを喜んで、死んだ祖霊たちが地上に現れる機会であるとされている。


この日は、23体の「動物型ニャウ」=「ニャウ・ヨレンバ」が登場した。

この日に初めて登場した「ニャウ」は、特に注目される。

「割れた壺」という名の「ニャウ」である。

死者が副葬された土器の破片を持って、墓から出てきたところを模している。

踊り手の体には、一面に墓地特有の赤土が塗られる。

割れた土器を右手で支え、頭の上に乗せる。

その姿勢を維持したまま、左右の足を小刻みに前後させる。

動きそのものは、きわめて単純な踊りである。


♪自分の家が墓場なんて、とんでもない。♪


〔仕込み後8日目〕

≪村にて≫

最終日は、「灰捨ての日」である。

酒作りでできた灰を、「ニャウ」が村の外のゴミ捨て場に捨てる。

灰や土を意味するとともに、〝穢れ一般″も指している。

したがって、「灰捨て」の作業は同時に、死者にまつわるあらゆる穢れを森に捨て去る作業でもあるという。

女たちは、その作業を見守りながら、歌を歌い続ける。


♪灰を捨てましょう

村長の家から 灰を捨てましょう♪


「ニャウ」は、歌を歌う女たちを引き連れて、死者の親族の家を一軒一軒回って歩く。


♪葬儀は互いに泣くもの

一緒に泣こう

葬儀の踊り♪


「ニャウ」を迎えた親族は、小銭を差し出す。

女性の親族は泣く。

死者の霊が、親族に別れを告げに来ているというのである。

すべての親族の家を回り終わると、「ニャウ」は森の中に姿を消す。

村の女たちは、死者の霊を身に帯びた「動物型ニャウ」=「ニャウ・ヨレンバ」が燃やされることを知らされていない。

彼女らにとって、死者の霊を体現した「ニャウ」の姿が見えなくなる時こそ、死者が地上を離れる時なのである。

こうして2週間にわたった「葬送儀礼」=「ボナ」はその幕を閉じる。


         (引用ここまで)


           *****

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