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霊がいるので憑霊される・・「仮面の森」吉田憲司氏・アフリカ・チェワ族の仮面結社の世界(5)

2017-08-26 | アフリカ・オセアニア



吉田憲司氏のアフリカ・チュワ族の研究書「仮面の森」のご紹介を続けさせていただきます。

リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。

           *****

          (引用ここから)


チュワの人々は、彼らの住む世界に、様々な霊的存在を認めている。


まず生きている人間の脳には、「チワンダ」が宿っているという。

この場合の「チワンダ」は、「魂」とでもいうべき存在である。


人間が死ぬと「チワンダ」が体を離れ、村の内外をうろつきまわる。

死者の霊は、「ニャウ」が営む「葬送儀礼」を経ることで、祖霊となる。


そしてその祖霊が、将来新たに生まれてくる子供の魂の「チワンダ」=「魂」になる。


チェワの人々は、また数多くの「動物霊」の存在を信じている。

動物が死ぬと、その脳に宿った「チワンダ」が体を離れて、森をうろつきまわるとされる。

四脚の哺乳類、鳥類、蛇類、トカゲ類、ワニ、カメ、カエルは霊を持つ。

魚や虫は持たないとされる。


これらの霊は、いずれも生者に憑りつくことがあると考えられている。

多くの霊の場合、憑りつかれた者の魂、ないし意思は、そのまま維持される。

それらの霊は、生者の体につき、その人物に病をもたらすという。

ただ、中には、憑依することで生者の魂と入れ替わり、その人物に「トランス」=「意識のない状態」を引き起こすものがある。

「ニシキヘビ」の霊、「ライオン」の霊がそれである。


チェワの人々は、これらの霊に憑りつかれると、姿は人間のままで脳がニシキヘビやライオンの脳になると言う。

そしてそのような人物は、「霊媒」となる。



「ニシキヘビ」

ニシキヘビの霊に憑依されるのは、バンダ氏族の女性に限られる。

彼女らは、まずからだ全体が重く感じるようになり、痛みも手伝って食欲を失ってしまう。

こうした前駆症状の後に、突然意識を失って倒れこむ。

このためこの種の霊に憑りつかれた人物は、「倒れる者」と呼ばれる。


彼女たちは、しばらくして起き上がると、特異な声でしゃべりだす。

歌を歌いだすこともある。

多くの場合、その発話や歌の内容から、「ニシキヘビ」の霊がついたことが確認される。

回復した後、本人はこの間の出来事を記憶していない。


憑依はその後、周期的に発生する。

憑霊によっておこる発作は、一種の病気とみなされており、供物を捧げ、「ニシキヘビ」の霊を慰撫することによって、そのつど癒すことができる。

その霊の意に任せて踊ることも、治療の一部と考えられている。

ただし、一度付いた霊は、その人物が死ぬまで取り去ることができない。

また、毎年新しく作物が採れる度に、その作物を「ニシキヘビ」の霊に捧げてからでないと、自分の口に入れてはならないとされている。



○重度の巫病に陥った女性の治療儀礼

儀礼は2日に渡って行われた。

1日目の夜、村の中にある霊媒の家の前で、夫が中心になって、ドラムを叩き始める。

用いられるドラムは、「ニャウ」の舞踏の際に使用されるものと同じである。

しばらくすると、霊媒の女性の息遣いが激しくなり、彼女自身が、「霊が来た」と叫ぶ。

それ以後のことは、彼女自身は全く覚えていない。


霊媒の体にまもなく痙攣が走り、彼女は歌を歌いだす。

それに合わせて、集まった近所の女たちが歌を歌う。


♪おまえ、おまえは客人をよぶ

おまえ、このドラムは、いつも叩くものではない♪


おまえとは、ドラムの叩き手を指している。

このドラムの叩き方は、「ニシキヘビ」を呼ぶためのものだ。

それ以外の時は叩かないでおくれ、という歌である。


霊媒は、この歌に合わせて、ドラムの叩き手と一人ずつ握手をしていく。

「ニシキヘビ」の霊が、人々に挨拶をしているのだという。

握手がすむと、霊媒は踊り始める。

足を小刻みに動かし、前へ行ったと思うと、すばやく後ろに下がり、時折くるくると旋回する。

この運動は、蛇の動きに対応したものとされる。

また別の歌を歌い始める。


♪湖に行けば かかっている

湖に行けば かかっている

この地上には、わたしの弓(=虹=「ニシキヘビ」)がある

わたしが死んだら、その弓をわたしから引き継いでおくれ♪


「弓」とは「虹」を指し、さらには「ニシキヘビ」のことを意味している。

チュワ語では、虹は、「雷の大きな弓」という意味である。

雷が鳴るような時に、「虹」が、弓型にかかるところからきている。

またその「虹」の下には、必ず「ニシキヘビ」がいるといわれる。

「虹」は「ニシキヘビ」の呼気であると考えられているのである。


この歌は、自分が死んだら、自分に憑りついている「ニシキヘビ」の霊を誰か引き継いでくれ、という歌である。

一般に、「ニシキヘビ」の霊は、一人の霊媒から霊媒へ、母系を辿って継承されていくとされている。

歌が変わっても、踊りそのものは一定である。

それぞれの歌は、かならず霊媒が歌い始め、それを女たちが引き受けるという形をとる。


こうして歌と踊りが数時間続けられた後、頃合いを見計らってドラムを叩くのをやめると、憑霊も終わる。

その夜、霊媒の枕元には、新しい作物が置かれる。

夫はその夜、よそで過ごす。

同夜、「ニシキヘビ」が家を訪れ、霊媒と一夜を共にするとされるからである。

「ニシキヘビ」の霊に憑りつかれた瞬間から、霊媒は子供を生む能力を失うという。


翌朝、前夜枕元に置かれていた作物が、霊媒の近親の子供の手で、村の外の霊木の根元に供えられる。

次のような言葉が唱えられる。


♪村へ来ていただいても結構です

あなたが残していった人が、ここにいるのですから

でも、おいでになる時は おとなしくおいでください

礼儀正しくおいでください

それなら私たちも、あなたを、ドラムを叩いて迎えましょう

どうか、この食べ物を食し、彼女の病を取り除いてください♪


この霊木は、「ニシキヘビ」の霊や死者の霊、祖霊を含めて、あらゆる霊を「引き出し」てくれる木とされている。

この儀礼を行うだけで、病はたちどころに快癒すると言われる。


           (引用ここまで)


           *****

なぜかくも、シャーマニズムは汎世界的に行われているのでしょうか?

人と自然、人と動物、人と人、人と集落、、鏡が無い世界で、人が生きる時、人は自分が人であるということを、どのようにして認識するのだろう、、とわたしは最近考えています。

どうしたら、「わたしは蛇でない」と言い切ることができるのだろう、、それって、不思議なことだと思いませんか?


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