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感想:『神戸在住』

2012年05月15日 02時47分25秒 | アニメ・コミック・ゲーム
以前から読みたいと思っていたコミック。全10巻を読み終えたので少し感想を。

神戸での大学生活の日々を綴った作品。明確なストーリーは存在せず、エッセイ風、或いは、日常系と称されるジャンルに類するだろう。

作品の雰囲気でまず思い浮かんだのが、北村薫の「円紫さん」シリーズ。小説であり、「日常の謎」と呼ばれるミステリでもあるので、ジャンルは大きく異なるが、女子大生が主人公で、淡々とした空気感に似たものを感じた。それは一見何気なく描かれているものが、非常に計算されて築かれた虚構性をベースにしている感じだろうか。

大学2回生から4回生までの3年間を中心に、過去を織り交ぜながら描かれている。登場人物が非常に多く、覚え切れないほどだが、作品内で人間関係の大きな変化は訪れない(一人例外はいるが、心理面での距離が変わるという形ではない)。主人公の恋愛要素が全くない点を含めて、物語性を極力避けているように感じられる。

Wikiによると、1998年から2006年まで月刊アフタヌーンに連載された。神戸が舞台ということから、当然、阪神大震災に触れるエピソードも存在する。主人公自身の体験ではなく、友人の体験を聞くという形で描写されている点も興味深い。

阪神大震災を現地で体験したわけではないが、大阪でも今までに体験したことがない揺れに遭遇し、神戸という身近な場所の被災に強い衝撃を受けた。それに比べると、東日本大震災はどうしてもTVの中の出来事に感じてしまう。皆がそうだとは言わないが、やはり経験しないと伝わらない部分は存在する。当時の神戸と大阪の関係は、今回の東北と東京の関係に近いかもしれない。だから、実際の被災者の苦しみまで共感し得ているというわけではないが、それでも大きなインパクトを心に残すものだった。

90年代中期に明確に意識にのぼった「大きな物語」の終焉は、その後のフィクションの制作に当然大きな影響を与えた。空気系の元祖と呼べる『あずまんが大王』や、『新世紀エヴァンゲリオン』への回答とも見做し得る『高機動幻想ガンパレード・マーチ』が90年代末からゼロ年代初めにかけて生み出されている。

『神戸在住』もそうした流れの中にある作品と位置付けられる。特に「大きな物語」後の最も重要な方向性としてコミュニケーション、人との繋がりが考えられた。ガンパレではそれが世界を変える希望として描かれたが、コミックでは日常の再発見と、緩やかな繋がりで形成された「場」を大切にする方向性が示された。リアルにおいても、携帯電話やWebの普及による「繋がり」が重視され、ゼロ年代を代表するテーマとなった。ただフィクションのようなプラス面ばかりではなく、マイナス面も様々に人々に影響を与えることとなってしまったが。




大阪から神戸は近いけれど、行く機会がない。京都だと唯一無二の存在だったりするので、観光などでたまに訪れたりすることもあるが。それでも、作品を読んでいるうちに数少ない訪問の記憶が甦ったりする。また、そのうち神戸に行ってみたいな。


2012.05.14 つぶやきし言の葉

2012年05月15日 02時18分33秒 | Twitter