プロ野球解説者の嘘 (新潮新書) 価格:¥ 714(税込) 発売日:2011-03 |
「プロ野球解説者の嘘」を取り上げるというよりは、データを用いて定説が正しいかどうかを裏付けようとする意図を感じる一冊だった。
王貞治の三振数の少なさなど意外な感じのするデータもあったが、目新しい知見と呼べるものはなかった。1、2番バッターの出塁の重要性、投手力が勝敗に大きく影響する点などは当然といった感じ。
4割を狙うために打数を減らすことはもちろんだが、打数別の打率で4打数の試合、5打数の試合等での打率が重要という指摘は目新しいものの現実的とは言い難い。
JFKという強力な中継ぎ・抑えの継投の有効性の指摘は納得するが、選手寿命との兼ね合いをデータからチェックして欲しいと思った。登板過多は短期的には効果的でも果たして長期的視野では効率的なのかどうか。良い投手を数年でつぶしてしまう今の球界のあり方を問うて欲しかった。
そして、記事タイトルの「『プロ野球解説者の嘘』の嘘」。
最終章で取り上げたのが犠打の有効性。『マネー・ボール』で犠打や盗塁が得点力の向上に役立たないという指摘を受けて、犠打をデータの面から取り上げている。
ノーアウトでランナーが出塁した場合に犠打を使ったケースと使わなかったケースを比較して、得点の入ったケースは犠打を使った方が5%ほど高かったと述べている。これは2008年セ・リーグの場合だが、他の年度などでも大差はない。チームによってのばらつきはあるが、犠打を使った方が得点の入る確率が上がることは確かだろう。
しかし、問題は、だから犠打を使った方が良いとは言えないことだ。
野球は得点が入るか入らないかだけが意味を持つスポーツではない。メジャー・リーグで犠打を多用しないのはビッグ・イニングを狙った方が効果的だという考えがあるからだ。ビッグ・イニングとは大量点を取ること。つまり、1点取るかどうかが重要なのではなく、大量得点に結び付くかどうかも同じように重要なのだ。
得点の入る確率がたとえ5%上昇しようとも、2点以上入る確率が大きく落ちるならば本当に犠打が有効と言えるだろうか。
言うまでもなく犠打は相手にアウトカウントを与える戦術である。時としてそれは相手チームや相手投手を楽にする。
試合終盤で1点を争う展開であれば犠打の有効性が高いことは間違いない。だが、試合序盤での犠打は大量得点のチャンスをみすみす棒に振る可能性もある。
確かに、6回終了時にリードしていれば本書によると8割5分以上の確率で勝利するとある。1点ずつ積み重ねていくことが勝利をつかむことに繋がるのかもしれない。
メジャーでも示される高い有効性と称して、犠打が試合の明暗を分けたケースを紹介しているが、繰り返すように試合終盤で接戦であれば当然犠打は有効な戦術なのは間違いない。
しかし、日本では試合終盤のみならず犠打が多用されている。それまでひっくるめて犠打が有効と言うには明らかにデータ不足だ。
著者が意図してかどうかは分からないが、データを用いたごまかしが感じられた。今シーズンは統一球の影響もあってか各チームの得点力が低下し、ワンナウト1塁で野手に送りバントをさせる場面を目にしたこともある。手堅いというよりも消極的すぎる印象を受けた。バント偏重は野球をつまらなくすると思うのだが、バントの価値を明らかにするためにはもう少し丁寧なデータの扱いが必要だろう。