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ハーレム系作品の主人公像

2010年06月21日 23時00分22秒 | アニメ・コミック・ゲーム
男性主人公の周囲に複数の美少女が配置され、彼女たちが主人公に好意を抱く構図、それがハーレム系作品の基本である。この構図は『源氏物語』など一部古典にも存在するが、身近なスタイルとして確立したのはそう古いことではない。

「ラブコメ」が誕生し、やがて少年誌に導入される。1978年『翔んだカップル』『うる星やつら』がスタートするが、『翔んだカップル』はラブコメから青春ドラマへと変貌した。『うる星やつら』はSFギャグからスタートしTVアニメのヒットによってハーレム系の概念を広く知らしめることとなる。
80年代のラブコメは『きまぐれオレンジ☆ロード』『タッチ』『みゆき』など数多くの人気作を輩出するが、ハーレム系の構図ではなく、主人公とメインヒロインとの恋愛が軸に構成されている。基本はあまくで三角関係となっている。

1988年にスタートした『ああっ女神さまっ』は構図的にはハーレム系だが、主人公と周囲のヒロインたちとの関係はあくまでもそれまでのラブコメ路線を継承している。1992年のTVアニメの『うる星やつら』に影響を受けた『天地無用!』の登場がハーレム系作品の画期と言えるだろう。
『天地無用!』では主人公は恋愛に対して関心の薄い中立的な存在となっている。周囲のヒロインたちの個性の強さによって物語世界を支えることに成功した。この主人公の存在価値の低さが脱主人公化して空気系へと繋がったとはこれまで述べてきたことだ。

1994年に『ときめきメモリアル』が発売された。恋愛がゲームと融合するというインパクトある作品だが、その後の恋愛アドベンチャーゲームへと引き継がれる、複数のヒロインを攻略するという発想が誕生した。これが他のジャンルにも波及し、ハーレム系作品群の大量生産を生み出すことになる。

ハーレム系作品の男性主人公像には大きく分けて4つのパターンがある。

第一に、一途型。『ああっ女神さまっ』が代表で、主人公はあくまでも一人のヒロインを想い続けるタイプだ。少女マンガのラブコメではこれが基本であり、少年誌に舞台を移しても多くの作品に引き継がれている。ただし、少年誌の場合恋愛要素が薄れがちで物語の展開には他の要素(冒険やSF、アクション、バイクなど)が必要とされる。今ではこうした要素メインの作品を華々しくするために多くのヒロインを主人公の周囲に配置するという逆転の発想が普通になっている。

第二に、天然型。基本的に恋愛に無頓着なタイプ。『天地無用!』が代表作。主人公の存在感が希薄になりがちで、ヒロインたち同士の掛け合いが中心となる。アニメなど客観描写主体のメディア向きだが、ラノベでも『ロウきゅーぶ!』『ベン・トー』などのように他の要素(スポ根、バトルなど)と組み合わせることで成立させている作品もある。

第三に、優柔不断型。ラブコメの三角関係でも描かれていたタイプではあるが、ゼロ年代に多くの作品で使われるようになった。『Fate/stay night』、"文学少女"シリーズなどが代表作。ゼロ年代男子主人公は、決断力がなく、優柔不断で、誰にでも優しく(誰も傷つけられない=誰にも嫌われたくない)、自己犠牲を厭わない(自分の行為によって周りが悲しんだりするという想像力を持たない)。周りのヒロインは無条件で主人公を許す「母」性が強調されている。

第四に、鬼畜型。文字通りのハーレムの王としての存在。美少女ゲームの流れでは鬼畜系ジャンルが元から存在したが、むしろラブコメとしてのハーレム系へのアンチテーゼ色が強いものがある。『School Days』が代表作。"生徒会の一存"シリーズのようにメタ的に使われることもある。

作品によっては複合型のような場合もある。『涼宮ハルヒの憂鬱』は天然型メインだが、優柔不断型の特色も併せ持つ。
優柔不断型は元は単純な性格としての優柔不断だったが、ゼロ年代に大きく進化した。ハーレム世界を支えるためにより構造化しているが、類型化してしまっている側面も感じる。
ハーレムはヒロインの類型化も推し進めていったが、それについてはまた別の機会に書こう。