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『天地明察』まとめの2

2010年04月27日 17時38分41秒 | 天地明察
角星+亢星=9.5寸(10寸)

心星+尾星+箕星=21寸(27寸5分)

虚星+危星+室星+壁星+奎星=52.5寸(40寸)

※カッコ内は『天地明察』の問題

以上のように問題を作ると解は4.5寸となる。ただし、各星の周の長さは0.5寸刻みとなるが(苦笑。
他にも、10寸、28.5寸、82.5寸でも成り立つが、この時は1寸刻み。10寸、31.6寸、116寸ならば全ての条件を満たす感じになる。

また、9.5寸、1751/70寸、58寸で30/7寸の解となる。10寸、2493/70寸、121.5寸でも同様の解となる。

別のアプローチとして3次の式として捉え、

a(n) = pn^3 + qn^2 + rn + s

として、a(1) = 4.5 を前提に置くと、

1 4.5
2 5.5
3 6.511877944
4 7.495392177
5 8.410301044
6 9.216362892
7 9.873336064
8 10.34097891
9 10.57904976
10 10.54730698
11 10.20550891
12 9.513413885
13 8.430780258
14 6.917366373
15 4.932930575

となる。大小関係は前提として崩壊しているわけだが。5星の和を65寸以上に設定すれば大小関係も問題なくなる。もちろん、解が分かっていることが前提となる解き方なので、3次ならと無術となるが。
和の数を変えずに、足す星の数を増やしたりでは4.5寸などの明快な解は得られそうにない。

作品の楽しさを損なうものではないとはいえ、理系的な粗が随所に見えているようだ。今後重版などで修正されるかもしれないが、「カレンダーの余白」さんでは緯度と経度が間違っている記述があるそうだし、「digital西行庵blog」さんでは無術となった算額の問題や駕籠代に対する不明瞭さも指摘されている。
繰り返すが、作品本来の面白さは素晴らしく、本屋大賞受賞になんら異論はない。ただ折角算術などを取り上げた作品だけに、その部分に難があるのは惜しまれる。


『天地明察』まとめ

2010年04月24日 21時55分50秒 | 天地明察
天地明察天地明察
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2009-12-01


2010年本屋大賞を受賞した『天地明察』。公式サイトも盛り上がっている。

http://www.kadokawa.co.jp/sp/200911-06/

そこにも掲載されているように渋谷の「金王八幡宮」では算額の特別公開も実施中。

また、国立天文台所蔵貴重書常設展示として第42回展示「渋川春海と『天地明察』」も行われているそうで、「へいほう!」さんで詳しく紹介されている。

『天地明察』が第七回本屋大賞/算術問題の解法は?
『天地明察』の世界をめぐる展示/十五宿星の問題の解法ほか

現在、当ブログにおいて取り上げている招差術の問題については、「digital西行庵blog」さんで綺麗にまとめられている。

天地明察 招差術問題
天地明察 招差術問題 #2

当ブログ内での招差術の問題の記事は、

『天地明察』の問題は誤植か否か?
『天地明察』招差術の問題について

また、

感想:『天地明察』『天地明察』算術の問題

では、勾股弦の問題を取り上げている。

招差術の問題で私がいま考えているのは、解を 30/7 あるいは 4.5 とするためにはどうすればいいかということ。

5p + 3q + 2r = x   ①
110p + 18q + 3r = y   ②
855p + 65q + 5r = z   ③

とし、

p + q + r = a   ④

と置く。④を2倍、3倍、5倍して①②③から引き r を消し、同じ要領で p と q も消すと、

6330x - 670y + 62z = 10960a

となる。(時間がなくて検算していないので不確か)

また、

  x / 2 < y / 3 < z / 5

を満たすのも前提である(『天地明察』の問題はこれを満たしていない)。

a が 30/7 或いは 4.5 の場合に、整数(または有理数)となる x, y, z があるのか怪しい感じだが。


『天地明察』招差術の問題について

2010年04月21日 07時37分27秒 | 天地明察
昨日書いた「『天地明察』の問題は誤植か否か?」の記事に早くもコメントを寄せてもらい大きく進展したので改めて記事に。本当にありがたいことです<(_ _)>

本屋大賞を受賞した『天地明察』236ページ掲載の招差術の問題は以下の通り。

Tenchi_00

今、図の如く、大小の十五宿の星の名を持つ円が並んでいる。角星と亢星の周の長さを足すと十寸である。また心星と尾星と箕星の周の長さを足すと二十七寸五分である。さらに虚星、危星、室星、壁星、奎星の五つの星の周の長さを足すと四十寸である。角星の周の長さは何寸であるか問う


もっもさんに、この問題が渋谷の金王八幡神社所蔵の算額を元にしているのではと指摘していただき、更にcobozeさんにその問題の内容及び解法の情報を提示していただいた。

鳴門教育大学情報教育ジャーナル
情報教育の視点から見た和算に関する考察(菊地章氏,井出健治氏)
http://www.naruto-u.ac.jp/journal/info-edu/j05006.pdf

そこに掲載されている算額の問題は、

今有如圓宿名一十五球
只云角亢二球周寸相併
一十六寸又云心尾箕三
球周寸相併三十寸重云
虚危室壁奎五球周寸相
併六十三寸問角球周寸
幾何


であり、『天地明察』の問題とは数字のみ異なっている。

角星+亢星=16寸(10寸)

心星+尾星+箕星=30寸(27寸5分)

虚星+危星+室星+壁星+奎星=63寸(40寸)

※カッコ内は『天地明察』の問題

算額では、それぞれの数値を宿星の数で割ると、8寸、10寸、12.6寸と増大している。宿星が大きくなるのだから当然。一方、『天地明察』の問題では、5寸、9.17寸、8寸となっており、明らかに誤謬が存在している。

算額の解法は以下の通り。

Sangaku01
Sangaku02

『天地明察』の問題をこれに当てはめてcobozeさんが解いてくれたのが、4.3512773722627737226277372262774...だそうです。ごめんなさい、行列方程式は習ってません(多分)。頑張って、後で筆算したいと思ってますが^^;

cocoさんの御指摘から始まった招差術問題も皆様の御力によりかなり進展しています。『天地明察』掲載の問題は誤謬の可能性が非常に高く感じられますが、他の可能性などございましたら、是非御指摘くださいますようお願いします。

※「算額の解法」はリンク先のPDFから引用したものですが、誤植等があります。詳しくはコメント欄をお読みください。

※文庫版およびコミック版では問題が修正されているようで、その解についてはコメント欄に記載。


『天地明察』の問題は誤植か否か?

2010年04月20日 18時33分19秒 | 天地明察
『天地明察』算術の問題」の記事のコメントで指摘していただいたのが、236ページに掲載された問題が誤植なのかどうかという疑問でした。
主人公が関孝和に対してリベンジとして作成した問題であり、ストーリー上ひとつの山場である。

Tenchi_00_3

今、図の如く、大小の十五宿の星の名を持つ円が並んでいる。角星と亢星の周の長さを足すと十寸である。また心星と尾星と箕星の周の長さを足すと二十七寸五分である。さらに虚星、危星、室星、壁星、奎星の五つの星の周の長さを足すと四十寸である。角星の周の長さは何寸であるか問う


角星+亢星=10寸

心星+尾星+箕星=27寸5分

虚星+危星+室星+壁星+奎星=40寸

※いずれも周の長さ

ここで、「図の如く」より、角星<亢星<氐星<房星<心星<尾星<箕星<斗星<牛星<女星<虚星<危星<室星<壁星<奎星と考えられる。

しかし、「心星+尾星+箕星=27寸5分」より、箕星は(27寸5分)÷3から9寸よりも大きくなるが、「虚星+危星+室星+壁星+奎星=40寸」より、虚星は(40寸)÷5から8寸より小さいと矛盾する。

「図の如く」の前提がなければ、これだけの条件から「角星の周の長さ」を求めることは無理のように見える。前提があっても、これだけの条件で答えが得られるのか疑問に思えるが。

作品内では問題が提示されて数ページ後に解答が描かれている。物語の展開の面白さもあって問題を深く考えるよりもストーリー展開を追う方に目が行きがちだ。もちろん、この問題自体に問題があったとしても作品自体の評価を落とすものではないと思うが。それでも作品の重要な要素である和算の問題が誤植あるいは問題が成立しないといった事態であれば落胆する気持ちが生じてしまうだろう。
ググった範囲内では、この問題を取り上げたブログ等は見つけられなかった。どなたかこの問題へのアプローチの方法をご教授してください。


『天地明察』算術の問題

2010年03月11日 21時43分38秒 | 天地明察
感想:『天地明察』」の記事で取り上げた算術の問題が解決したので改めて記事を書く。解決はcobozeさん、Fakirさんの多大なご協力があってが故のことである(というか、私自身は確認するだけだった orz)。改めて両氏に感謝の意を記しておきたい。

冲方丁の小説『天地明察』の20ページ前後に記された問題は以下の通り。

『今、図のごとく釣(高さ)が9寸、股(底辺)が12寸の勾股弦(直角三角形)があり、内部に直径が等しい円を二つ入れる。円の直径はいくらか。』

Ten01_2

答えは30/7寸と書かれていた。また、その答えを導いた計算方法も書かれてはいたが、問題を見たときに考えた解き方とその式とはかけ離れていた。

図をまず以下のものとする。青字は線分の長さを示す。

Ten02

計算方法は、{ 2ab / ( a + b + c ) } ・ { c / ( a + b ) }というものだった。

■面積を分割して解く方法

cobozeさんがOKWave質問の中から見つけてくれた方法。質問は直角三角形ではないが、解法は変わらない。

Ten03

△ABCの面積は ab / 2 = 54

△ABC = △AOC + △COO' + △BCO' + □ABOO' ・・・①

△AOC = br / 2 = 6r
△BCO' = ar / 2 = 9/2・r
□ABOO' = ( 2r + c ) * r / 2 = r^2 + 15/2・r

△COO'はOO'を底辺とすると、△ABCで底辺をABとした場合の高さから r を引いたものが高さとなる。△ABCで底辺をABとした場合の高さを h とすると、ch / 2 が△ABCの面積となる。15/2・h = 54 なので、h =36 / 5 。よって、△COO'の高さは、36 / 5 - r となる。

△COO' = 2r( 36/5 - r ) / 2 =36/5・r - r^2

①に代入すると、

54 = 6r + 9/2・r + r^2 + 15/2・r + 36/5・r - r^2
126/5・r = 54
r = 270/126 = 15/7

求めたのは直径なので、これを2倍した 30/7 で明察となる。

しかし、解法の式とは合致しない。

■相似から解く方法

Fakirさんが示してくれた△ABCと△OO'Zの比から解く方法。

Ten04

OとO'からACとBCに垂線を下ろす。OからBCへの垂線とO'からACへの垂線の交点をZとする。△OO'Zは△ABCと相似である。OZを x 、O'Zを y とする。また、OからACへの垂線とACとの交点をPとし、線分APの長さを p 、O'からBCへの垂線とBCとの交点をQとし、線分BQの長さを q とする。

辺AC = p + x + r = 12
辺BC = q + y + r = 9
辺AB = p + 2r + q = 15 ・・・①

p = 12 - x - r 、q = 9 - y - r として①に代入すると、

( 12 - x - r ) + 2r + ( 9 - y - r ) = 15
x + y =6

相似から、x :y = 9 :12 なので、y = 12/9・x となる。代入すると、

x + 12/9・x = 6
21/9・x = 6
x = 54/21 = 18/7

これより、y =24/7 となる。

三平方の定理より、

x^2 + y^2 = (2r)^2

(18/7)^2 + (24/7)^2 = 4r^2
r^2 = ( 324 + 576 ) / 49 / 4 = 225 / 49 = ( 15 / 7 )^2
r は正なので、r = 15/7 となる。直径は2倍なので30/7で明察。

■辺の長さから解く方法

これは相似から解く方法をシンプルにしたもので、Fakirさんが提示してくれたもの。

Ten04_2

図も相似のものと同じ。x と y を相似から r と a 、b を使って表す。

x :2r = b :c
x = 2r・b/c

y :2r = a :c
y = 2r・a/c

これにより、
辺AC = p + 2r・b/c + r = 12
辺BC = q + 2r・a/c + r = 9

p = 12 - 13/5・r
q = 9 - 11/5・r

辺AB = p + 2r + q = 15 に代入して、

12 - 13/5・r + 2r + 9 - 11/5・r = 15
14/5・r = 6
r =30/14 = 15/7

■三角形の内接円の公式から迫る

Ten05

図のように内接する円が1つの場合、

△ABC = △ABO + △BCO + △ACO

ab / 2 = cr / 2 + ar / 2 + br / 2
ab = ( a+ b + c ) r
r = ab / ( a+ b + c )

これは、解法の式 { 2ab / ( a + b + c ) } ・ { c / ( a + b ) } と全く同じである(直径なので2倍されている)。

ここでcobozeさんの鋭い洞察があった。

Ten06

この黄色い部分を合わすと、

Ten07

片方の円だけを内接する三角形と同じものとなる。

△ABCに一つだけ内接する円を想定し、その半径を R とする。

R :r =c :c - 2r
r = ( c - 2r ) / c ・R
cr = cR - 2rR
( c + 2R ) r = cR
r = cR / ( c + 2R )

Ten08_2

上図より、

c = a - R + b - R = a + b - 2R

これを代入して、

r = cR / ( a + b - 2R + 2R )
r = R ・ c / ( a + b )

R = ab / ( a+ b + c ) より、

r = { ab / ( a+ b + c ) }・{ c / ( a + b) }
2r = { 2ab / ( a+ b + c ) }・{ c / ( a + b) }

となり、式の謎が解けた。

答えは一つでも、その解き方は多種多様。それが数学の面白さでもある。今回の問題では考えるのは人任せになってしまったがそれでも楽しめた(笑)。数学的ひらめきと論理の積み重ねで答えに迫っていく喜びは悩んでこそ得られるものだろう。
小説の本筋ではなかったせいか、中学レベルの問題(?)だったせいか、小説内で詳しい説明がなかったことが結果として楽しみの種となった。そこまで著者の仕掛けだとは考えにくいが、いい問題だったのは確かだ。




コメント用に図を追加

Sanjutsu00

Sanjutsu01

図9
Ten09_3


感想:『天地明察』

2010年03月07日 21時51分11秒 | 天地明察
天地明察天地明察
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2009-12-01


読み始めてすぐ、20ページ辺りで読む手が止まった。図付きで算術の問題が書かれていた。『今、図のごとく釣(高さ)が9寸、股(底辺)が12寸の勾股弦(直角三角形)があり、内部に直径が等しい円を二つ入れる。円の直径はいくらか。』

1時間は猶に考えたが、答えが出ず。読み進めると答えは書かれていた。その後に、解法も書かれてはいた。しかし、解法に至る道筋、なぜそうなるのかが書かれていない。
高さをa、底辺をb、斜辺をcとする(それぞれ9寸、12寸、15寸)と、{2ab/(a+b+c)} ・ {c/(a+b)}で答えが得られると書かれているがその式がどうやって出てきたのか書かれていない。読み終わった今もときおり考えているがさっぱり道程が見出せない。ネット上でも「へいほう!」さんの「『天地明察』算術の問題」という記事を目にしたくらいで、解き方を書いたサイトは見つけられなかった。

この棘が引っ掛かって楽しめなかった……のならばそこまでの小説だが、非常に面白く読むことができた。時は四代家綱の時代。戦国の気分が時代の空気から消え去ろうという時代だ。士道に新たな価値を付与しようとした保科正之による文治の精神が、暦、囲碁、算術などをメインにした本書のテーマ性と合致し上手く表現されている。
主人公渋川春海の人物像もよく描かれている。周囲のキャラクター、特に年上の人物たちの造形が印象に残った。ただ、時代小説の陥穽である、歴史上の動きを描く部分で中盤以降はそれに傾きがちになり、主人公の視点による描写が減ってしまったことは残念。個人的にはもう少し科学的な説明も欲しかったが、これはバランスの問題なので仕方ないだろう。

武家階級のみとはいえ、江戸の雰囲気をしっかりと表現できていた点も評価したい。江戸時代は、時代劇というファンタジー的なものから、史料に基づいたリアルなものまで様々な像がある。それは、ともすれば「常識」という虚像に流されてしまいがちになるところを、踏み止まっていると言える。時として、勉強した分を書き過ぎたきらいもあるが。

冲方丁を読むのは初めてで、作品の傾向からして本書で評価するのは難しいが、他の作品も読みたいと思わせるものがあった。早速、代表作である『マルドゥック・スクランブル』の1巻目を予約。楽しみにしたい。(☆☆☆☆☆☆)

■分割して面積から計算
Tenchi00

■相似から計算
Tenchi

■辺から計算
Tenchi01

■この比が謎
Tenchi02