べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

記憶の小片

2006年12月31日 20時05分53秒 | 慕情

あのころの日々を
ガラスの小壜にいれて
やわらかな沈黙の海にそっと浮かべてみると
冬の透明な陽だまりに
ふらふらと漂う季節はずれの蝶々のように
おぼろげにふうわりと
あなたの言葉の切れ端や
あなたの好きな花の名や
あの日あなたが着ていたワンピースの色や
あなたのあまい髪の香りや
しなやか眉の形や
ちょっとしたなにげない仕草や
あれやこれやが
なんの脈略もとりとめもなく
美しい音楽で綴られたモザイクのように
つぎからつぎへと
浮かんでは消えていったのです
だからぼくは
いまもかわらぬあなたへの愛を
深く静かなため息にのせて
たおやかな風にとき放ってみたのです


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くじらの唄とアネモネの花

2006年12月30日 21時06分07秒 | メルヘン

そっとまぶたをとじてごらん
ほら聴こえてくるでしょう?

〝なぁに?〟

寄せてはかえす波音が・・・・

空にはまんまるお月様
いつもはおしゃべりな星たちも
今宵は百万光年の瞬きをやめて
まるで凍りついたかのように
真っ暗夜空に貼りついているよ

〝まぁ、ほんと?〟

静かに耳を澄ましてごらん
こんな夜は ほら
聴こえるでしょう あの声が
哀愁をおびたセロの響きにも似て
とおく たかく ひくく
まるで 
銀河の果てから聴こえてくるようだね

〝なんの声?〟

あれは くじらたちの夜想曲・・・・

おおらかで
それでいて やるせないほど美しい
あれは くじらたちの唄声なんだよ
とおく たかく ひくく
ほら 聴こえてくるでしょう?
波音にまじって

〝なんのお唄?〟

すべての命は海から生れ
海から生まれたものは地に育まれ
地に育まれたものは
いずれ空へと帰っていくんだよって唄ってる

〝それから?〟

そうしていつの日かまた
ひと粒の涙の雫となって
静かに海へともどっていくんだって

“へぇ・・・”

やがてひと粒の涙は花になるんだ
はるか大海原の果ての果て
水平線と空とがとけあうあたり
そこは世界でもっとも深い海
その海の 底の底の底深く
ひと知れず
花が一輪咲いてるんだよ

〝どんなお花?〟

愛らしい真っ白な アネモネの花さ

まったく光のとどかない
深海の真っ暗闇に咲く花を
だれも見たものはないけれど
たしかに咲いているんだよ
暗闇の中で
とってもきれいな純白の花が

〝純白の?〟

くじらたちは知っているんだね
目にしたことはないけれど
世界一深い海の 底の底の底深く
白いアネモネの花が咲いているのを

〝どうして?〟

さて、どうしてなんだろうね
とにかく くじらたちは唄うんだ
とおく たかく ひくく
やさしく 哀しく 美しく
海の底の深いところに
幻の花が咲いていることを

“ふぅ~ん・・・”

こんどまた
きみの頬をひと粒のしょっぱい海がつたうとき
そっと胸に手をあてて  
じっと耳を澄ましてごらん
きっと  
くじらたちの唄が聴こえてくるから
とおく たかく ひくく
清く せつなく おだやかに

“それで?”

そうして
くじらたちのコーラスが聴こえたら
思いを沈めてごらんなさい
胸の底の底の底深く
思いを沈めてみるんだよ
するとね
真っ暗な闇の中に咲く
白い花を感じることができるから
純白の とてもきれいなアネモネの花を
ねぇ、
アネモネの花言葉を知っているかい?

“いいえ、知らないわ”

アネモネの花言葉はね
たとえば“儚い恋”だったり
あるいは“恋の苦しみ”だったり
もしくは“薄れゆく希望”だったり
そしてね
白いアネモネの花言葉はね
“真実”・・・・なんだって

こんどまた
ひと粒のしょっぱい海が
きみの頬を流れ落ちることがあったなら
心の底の底の底深く
思いを沈めてみてごらん
真っ暗な闇の中に
きっと真実の白い花が
見えてくるから



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だから もうおやすみなさい

2006年12月29日 21時16分52秒 | 慰め種

水平線にお陽さまが沈んで
藍色の森陰から
黄色いお月さまが顔をだしました
星々が静かに地上のできごとを語りあい
銀河にガラスの舟が浮かぶとき
きょうの日記を書き終えて
きみは小さなあくびをひとつする

今宵は不知夜月(いざよいづき)の夜想曲
エキゾチックな幻は
砂に埋もれたドロップの空き缶
静寂の闇は
モリアオガエルのため息に揺れる

ねぇ、ごらんなさい
水平線のまるみが
少しずつふくらんでいくのがわかるでしょ
そしてほら 渚に打ち寄せる波の泡から
ちぃちぃちぃとつぎからつぎへ
愛らしい浜千鳥が生まれ出てくる

だからもう おやすみなさい
夜更かししないで
だからもう お眠りなさい
やさしい夢に身をゆだねて

無数の光の粒の連なりが
天空をめぐる美しい音楽となって
人魚がささやかな恋のゆくえを祈るとき
旅のほうき星が百万年の呪縛からとき放たれる
月見草は一夜かぎりの命を咲かせ
月下美人の微笑が香る

だからもう おやすみなさい
白鳥(しらとり)の羽のゆりかごの中で
だからもう お眠りなさい
夜のしじまにそっと抱かれて

涙をこらえてふるえるきみは
まるで幼い少女のよう
あのね、そんなにがんばらなくていいんだよ
あまり がまんしなくていいんだよ
つややかな黒髪が月の雫に濡れているじゃない
ながいまつ毛に星のささやきが宿っているよ

だからもう おやすみなさい
蜜の声をもつカナリヤの子守唄に耳をすませて
だからもう お眠りなさい
さくら貝のむかし語りに心をほどいて

ひとりぽっちは孤独だけれど
孤独な心がふたつ集えば
わかちあえることもあるんだよ きっと
ほら、そっとまぶたをとじてごらん
金の木馬が満天の星空を駆けめぐり
迷子の流れ星が夢の扉をひらいているよ
だからもう おやすみなさい
だからもう お眠りなさい

ともあれ きょうという日が幕をおろして
新しい明日がやってきたんだ
きのうはすでに過ぎ去って
きょうが明けていこうとしているんだよ
もうすぐ東の空に光が射して
そうして静かに夜が明けてゆく
だからもう おやすみなさい
だからもう お眠りなさい
やさしい夢の中で やすらかに




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ただ それだけのことなのに

2006年12月28日 20時53分54秒 | 慕情

あのひ あなたは
すこし はにかむようにして
その あさつゆにぬれた 
つぼみのような くちびるを
ほんのかすかに ほころばせ
ぼくのかたわらを
しなやかに すりぬけていきました
ただ それだけ
ただ それだけのことが
ただ それだけのことなのに


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ありふれたもの

2006年12月27日 23時25分15秒 | 慰め種
それは何もとくべつなものではありません
それはほら
いつも目の前にあるのです

たとえばそれは
雑木林の小鳥のさえずりの中に
たとえばそれは
野原を舞う蝶の羽の影に
たとえばそれは
そよ風にゆらめく花びらのはかなさに
たとえばそれは
木洩れ陽の微笑みとともに

それは何もとくべつなものではありません
それはほら
いつも手のとどくところにあるのです

たとえばそれは
せせらぎの中できらめく石ころのなめらかさに
たとえばそれは
風に舞い散る枯葉のうらに
たとえばそれは
美しい音楽の旋律の清らかさに
たとえばそれは
古い日記の白い余白に

それは何もとくべつなものではありません
それはほら
いつもすぐそこにあるのです

たとえばそれは
街角の小さな花屋の店さきに
たとえばそれは
温かいミルクの湯気のむこうに
たとえばそれは
色あせたアルバムのページのすき間に
たとえばそれは
なつかしい手紙の行間に

それは何もとくべつなものではないのです
なにげない顔してふだんどおりのそぶりで
それはいつもただそこにあるのです
ほら  あなたの気がかりなあのひとの瞳の奥にも
それはひっそりと眠っているのです

それは何もとくべつなものではありません
それはほら
いつも見なれたものなのです

たとえばそれは
ひなたぼっこをしているノラ猫のシッポの先に
たとえばそれは
窓辺の朝顔の蔓の螺旋に
たとえばそれは
黄色いオムレツのふんわりしたやさしさに
たとえばそれは
遠い異国から届いた絵葉書の片すみに

それはほら  それはほら  それはほら

あなたの目の前 すぐそこに
ちょっと手を伸ばせば
とどくところにあるのです




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ゆびきり

2006年12月26日 22時13分33秒 | 慕情

あれはいつのことだったでしょう

たしか西の空が
真っ赤に熟した柿の実色に染まった
秋の夕暮れどきのことでしたね

そよ吹く風が運んで来たほのかな香りに
季節が移りゆくのをふと感じたような気がします

かたわらにたたずむあなたの横顔をそっと盗み見ると
愁いをおびたその長い睫毛が
かすかに濡れていたのをおぼえています

ぼくたちはなにも語らず
ただじっとたたずんでいましたね
ながいながいあいだ

どのくらいそうしていたでしょう
うす闇が静かにあたりを満たし
しだいにものの輪郭がほどけていくようでした

と、目のまえに
そっとさしだされたあなたの小指
そのしなやかでかぼそい指先に
ぼくはためらいがちにふれたのです

ものごとは思いのほか単純にできているようですね
なのに言葉にしようとすると
とたんにむずかしくなってしまうのです

ふたりが小指をからめあわせたちょうどその時
暮れゆく夕空の片隅に
小さな一番星が瞬いたのをおぼえていますか


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月夜のメリーゴーラウンド

2006年12月25日 21時41分15秒 | 夢想

黄金の月の光が
まるで蜜かなにかのように
広場をとろりとみたしています

あたりはしんと静まりかえり
人影ひとつない広場の真ん中には
年代ものの古びた回転木馬が
ぽつんと取り残されておりました

と、どこから聴こえてくるのやら
懐かしいジンタの音色があたりに漂いはじめ
夜の闇にしっとり染みてゆくのと同時に
木馬がゆうるり廻りはじめます

ゆうるりと ゆうるりと

こみあげるやるせなさを
胸につのるせつなさを
両手でそっと
すくいとろうとこころみますが

たとえようもない愛しさが
はぁらり はらりと
こぼれ落ちてゆくのです
わずかな指のすき間から

月影にめくるめく回転木馬に揺られながら
あるがままをうけいれましょう
なすがままにまかせましょう
金色(こんじき)のとろけるような月あかりに抱かれて



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ささやかだけれど叶いそうもないこと

2006年12月24日 13時00分03秒 | 慰め種

小さな部屋
やわらかな灯り

座り心地のよい椅子
読書するかたわらには
老いた犬が寝そべっている

窓辺の一輪挿し
ひかえめに揺れる
名も知らぬ野の花

つつましい食事と
あたたかい飲みもの

ゆるやかに流れゆく時
静かでおだやかな美しい生活

なにもないのに満ちたりた日々


                            
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猫がいなくなったと きみはいうけど

2006年12月23日 11時40分52秒 | 哀愁

猫がいなくなったと きみはいうけど

はやく食べないと
せっかく剥いたりんごが色あせちゃうね

猫がいなくなったと きみはなげくけど

季節が日々のいとなみとは無関係に
すぎ去ってゆくよ

猫がいなくなったと きみは泣くけど

あの坂をのぼりきると
青い海が見えるということを知っているかい

猫がいなくなったその夜は

星のまたたくかすかな音が
きみの耳にもとどいたの


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silent night , holiy night

2006年12月22日 22時22分30秒 | 慰め種

秘められたあなたの苦しみを
わけてください
ともに堪え忍びたいのです


枯れ果てたあなたの悲しみを
わたしにそそいでください
ともに涙を流したいのです


夜の闇の底から舞い散る綿雪のはかなさの
なんと美しいことでしょう
静寂をついて鳴りわたる鐘の音の
なんとおだやかなことでしょう
たとえ小さなろうそくの灯りでさえも
ときとして思いがけない温もりをもたらしてくれるものですね
とめどなく溢れだす苦悩にうち震えながらも微笑を浮かべて
それでも人生は美しいと言葉にできるそんな日が
ときにはあっても良いではありませんか


星々もそっと息をひそめる静かな夜
ささやかな安らぎと小さな幸せをすべて分かちあいたいと
だれもが願う特別な夜


あなたの抱える重荷を
わたしにも背負わせください
今宵は祝福された特別な夜なのですから

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