べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

匂い

2007年07月21日 23時52分23秒 | 慰め種

じっと耳を澄ませてみても
なにも応えてくださらない
すがるような眼ざしをむけても
その手がさしのべられることはありません

それでも季節は移ろい
生と死は
果てしなく繰り返されているのです
ひとの手のおよばぬところで

たとえば
新緑の薫り
匂いたつ花々
炎天下の草いきれ
熟れた果実の芳香
それは繰り返される生命(いのち)の印し・・・

じっと耳を澄ませてみても
なにも応えてくださらない
すがるような眼ざしをむけても
その手がさしのべられることはありません

それでも
土が
雨が
大気が薫る
それらの匂いは
空と海と大地が息づく証なのです

なにも語りかけてくださらずとも
その御手をさし伸べてくださらずとも
感じることがあるのです
世界の息吹を
たしかに大きな意思の在(お)わしますことを










★絵:マイク・スミス★  ↓ポチッっとね
 にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

羽毛のように軽やかに

2007年07月08日 16時05分41秒 | 叙情
わたしはもっと自由でありたい
苦しみをごくありふれたものとして
心静かに受け入れることのできる大らかさと
悲しいときには
涙枯れるまで泣き続けることのできる
曇りのない素直な気持ちをもちつづけたい
分に過ぎたものを
あっさりと捨て去ることのできる思い切りのよさと
貧しさに堪えていける純朴さを手に入れたい
空という大きな屋根の下で
大地という広い寝床の上に五体を投げ出して
まだ見ぬ明日を気にもとめず
過ぎ去った昨日を悔やむことなく
あるがのままの今日に身をゆだねていたい
なにもかもを受け入れるかわりに
なにものにも束縛されない
羽毛のように軽やかな心でありつづけたい
愛をさしのべる勇気と
偽りのない優しさを
いつも胸の奥底に秘めていたい
だからわたしはもっと もっと
自由でありたい








★絵:ジョアン・ミロ★  ↓ポチッっとね
  にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

線香花火

2007年07月04日 19時08分14秒 | 慕情

夏の終わりの薄闇の中で
小さな紅い火球がはぜました
ぱち ぱちぱち ぱちっと
ひかえめに はかなげに
小さなあかりがはぜました
あなたはかがんでうつむいて
せつなくはぜる紅い火を
じっと見つめていましたね
心もとなげに 揺らめく影のように

あなたのかぼそい指先から
最後のあかりがぽとりと落ちたそのあとも
あなたはじっと動かないでいましたよね
いたたまれない静けさの中で
ぼくらの存在の不確かさが
闇に滲んでとけだしていくようで
ぼくはあなたの小さな背中を
ぼんやり眺めているしかなかったのです

哀しいね・・・・・

夜のしじまの暗がりの中で
かすかに聴きとれるかとれぬくらいの
小さなつぶやきを
ぼくはたしかに耳にしました
それが花火のはかなさのことなのか
過ぎ去ろうとしている夏のことをいっているのか
それとも ぼくらのことなのか

あのとき
あなたの心をふるわせていた何かを
ぼくは知る由もありませんでした
ただ 夏の終わりの宵闇の中に
ほのかに浮かんだ
あなたのうなじの透きとおるような白さだけが
いまもぼくのまぶたの裏に
美しく焼きついているのです









★絵:林静一★        ↓ポチッっとね
  にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする