べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

とくべつな朝

2007年11月28日 00時20分54秒 | 慕情

夜がさよならしようとしているよ
まだ明けきらぬ朝のうす陽の中で
茜色に染まった枯葉が小さくふるえてる
木立の梢で
まるで新しい日の訪れをはにかんでいるかのように

ことさら静かに明るみをおびてゆく空を眺めながら
ぼくは深呼吸をひとつする
きみが生まれたその日もきっと
一日のはじまりはこんなふうに美しかったんだろうな
などとひとり思いを巡らせながら

いまごろきみはまだ
深い眠りの中にいるのかな
いったいどんな夢を見ているの
やさしい夢ならいいのだけれど

朝の冷たい大気の中で
小鳥たちのさえずりが
いつにもまして清々しく聴こえてくるのは
きょうがきっととくべつな一日だから

きみのいない世界に生まれてきたぼくが
ぼくのいる世界に生まれてきたきみと出逢うまでに
どれほどたくさん季節が通り過ぎて
どれほど多くの偶然が積み重なったことだろう

きみは気づいているの
なにげないその笑顔が
荒んだぼくの心を
そっと癒してくれているということに

もしもきみが涙を流したり
何かに傷ついたりしたとき
ぼくはきみに
いったい何をしてあげられるだろうね

きみがそのさりげない微笑で
ぼくの胸にほのかなあかりを灯してくれたように
ぼくもきみのために
何かしてあげられるといいのだけれど

あぁ、新しい朝の光が降りそそぎはじめたよ
きょうは世界中が輝いて見えるとくべつの日
それほど遠くない昔
小さなきみが喜びの産声をあげた
記念すべき美しい日

ぼくの祈りのつぶやきが ほら 
白いかすみとなって
冷たい光の中でゆらめいているよ
安らぎと優しさがこれからもずっと
きみの胸を満たし続けますようにと・・・・・








★絵:ジョイス・ビルケンシュトック★↓ポチッっとね
         にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この冬はじめて雪が降った日に

2007年11月25日 10時48分18秒 | 掌のものがたり

この冬はじめての雪が降りました

手袋をはめていないサクラソウの
かぼそい指先があまりに冷たそうだったので
ひだまりは両の手のひらで
やさしく包んで温めてあげました
それからふたりは見つめ合い
なんの迷いもためらいもなく
静かにそっと唇づけました
それは
とてもとても自然な出来事でした

ずっとずっと好きでした
と、サクラソウは
消え入るような声で云いました

どうして?
きみはぼくの何を知っているというの?
と、ひだまりは素朴な疑問を口にしました

するとサクラソウは
これから知ればいいじゃない?少しずつ
と、あどけない眼ざしをむけたまま
なおさら穏やかな口調でささやいたのです

知れば好きじゃなくなるかもしれないよ
恋なんて根拠のない思い込みなんだから
とりとめのない幻想なんだと
思い知ることになるかもしれないんだよ
ひだまりはちょっといじわるを云ってみました

どうしてそんなこと云うの?

夢はいつか醒めるものだと知っているからかな

だったらどうして こんなことするの?
ちょっと戸惑ったように
小頸をかしげたサクラソウの表情は
ほんの少し愁いをおびているように見えました

きまっているじゃない
きみのことが好きだからさ
ひだまりがそう告げた途端
サクラソウの目もとにほんのり
紅味がさしたような気がします

でも あなただって
わたしのこと何にも知らないじゃない
あなたの想い描いているものだって
夢、幻なのかも知れなくってよ

いいさ
それでもぼくはきみのことが大好きなんだから
そう云ってひだまりが微笑むと
サクラソウの愛らしい口唇もまた
かすかに小さくほころびました
それはそれは
とてもやわらかな笑みでした

そうしてふたりはもう一度
そっと静かに唇づけました
せめて夢から醒めるまで
ふたりは一緒に恋することにしたのです

サクラソウの艶やかな髪や小さな肩に
ふわふわと真っ白な綿雪が
いくつもいくつも舞い降りては
つぎつぎ消えていきました
けっして失いたくないものが密やかに
ふたりの胸の中に芽生えたようです

この雪の日を
ふたりはきっと生涯忘れることはないでしょう
もし許されるならこの出来事が
永遠に醒めない夢であってほしいと思いたいですね











★絵:塙賢三★     ↓ポチッっとね
にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

冬のたより

2007年11月21日 19時22分24秒 | 慕情

また冬がやってきたんだね
きみに出逢ってから
いったいどれほど季節の後姿を見おくったことだろう
気の遠くなるような時が流れて
思いもよらない出来事がいくつも積み重なって
ようやく巡り逢えたというのに
きみについて知っていることといえば
いまもほんのわずかばかり
なのにこんなにもきみのことが気がかりで
いつも心から離れないなんて
なんだかまったくおかしなことだね

遠く離れてみて
近ごろようやく気づいたよ
風景は心を映すものだということを
ひとはみな
心を通して世界をながめていたんだね
目に映るすべてのものが
これまでになく色あせて見えるのは
季節のせいとばかりはいえないような気がするよ
きみと歩いたあの道も
きみと訪ねたあの街の景色も
いつかぼくの中で
ぼんやりかすんだ想い出になってしまうのかな
きみとの時間をもっとたいせつにしたいのに
そんなことさへ儘ならないなんて

ぼくの想いなど気にとめることもなく
時は虚しく過ぎ去っていくよ
ときおりふときみの名をつぶやいてしまうのは
きみを想う気持ちの不確かさと
その不確かな感情の置きどころを見失ってしまったから
それでもただひとつだけ確かなことがあるとすれば
それはきみと出逢ってからというもの
寒がりやのぼくが
冬を好きになったということ

また冬がやってきたんだね
きみに出逢ってから
いったいどれほどの季節が
ぼくの前を通り過ぎていったことだろう
過ぎ去ろうとする季節をひきとめることなんて
ぼくにはできない
ちょっと呼びとめて
振りかえらせることすらできないのだから
遠く離れた鈍色の空の下できみの手が
冷たくかじかんだりしていなければいいのだけれど







★絵:パブロ・ピカソ★↓ポチッっとね
 にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ささやかな喜びを

2007年11月15日 09時05分04秒 | 慰め種

もしもあなたの植えた樹に
艶やかな実がたわわになったとしても
ひとつ残らず取りつくさないでくださいな
清らかな歌声を聴かせてくれる
心やさしい小鳥たちのために

もしもあなたの耕した畑に
豊かな実りがあったとしても
すべてを刈りつくさないでくださいな
わたしたちの身近で誠実に暮らす
つつましやかな生きものたちのために

もしもあなたの育てた庭に
きれいなお花が咲いたとしても
無闇に摘みとらないでくださいな
甘い蜜をもとめにやってくる
愛らしい虫たちのために

ときには心静かにぼんやりと
ただあるがままの空をながめてみたり
ときにはまたうっとりと
一日の終わりを美しく彩るあかね雲に見とれてみたり
なにげない風のささやきや
しとやかに降りそそぐ雨音に
そっと耳をかたむけてみてくださいな

いつもただそこに在る
ありふれたものたちの息吹を
素直な心で感じてみてほしいのです
そうすれば ほら
名も知らぬ草花や
地を這う小さな生きものたちや
道端にころがる石ころでさへ
なんだか無性に愛おしくなってくるでしょう

小さな種はガラス瓶につめて
たいせつにしまっておいてくださいな
季節が巡ってちょうどいい頃合いに
ふたたび土へかえしてあげるために









★絵:マイク・スミス★↓ポチッっとね
にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さだめ

2007年11月03日 20時18分08秒 | 哀愁

ひとは
孤独にたえきれなくなって
虚ろな愛にすがってしまうのでしょうか

ひとは
寂しさに押しつぶされそうになって
凍えるような温もりを求めてしまうのでしょうか

泣き叫びながらこの世に生まれて
孤独を噛みしめながら消え去っていくのが
ひとの運命(さだめ)であるはずなのに








★絵:ジャン・ジャンセン★ ↓ポチッっとね
     にほんブログ村 ポエムブログへにほんブログ村 ポエムブログ 自作詩・ポエムへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする