べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

ぼくは旅に出た

2015年10月11日 10時40分48秒 | 叙情

ぼくは旅に出た
旅に出る前の記憶はない
旅に出たころの記憶もない
気づいたときは
すでに旅の途上にいた
もの心ついたそのころはまだ
たいした苦労もなく
おおむね順調だったように思える
そして歳月を重ねるうち
だんだんと
辛さがまさってくるようになった
なんのための旅なんだろう
いったいどこへ向かっているのだろうかと
疑いも抱くようになった 
怒りさえおぼえた
まだ年端もいかぬ子供だったのに
不安をとおりこして絶望さえおぼえた
やがて旅の辛さがあたりまえになった
慣れや順応ではなく
あきらめだった
あれからどのくらい
旅を続けてきたのだろう
ずいぶん遠くまでやってきた
過ぎ去った季節の数を
おぼえていることさえできなくなった
なのにまだ旅は続いている
いつかは終わるとわかってはいるけど
それがいつ終わるのか
どのように終わるのか
ぼくは知らない 知る由もない
どうだってかまわない
ぼくは旅に出た
自らの意思じゃなかったけれど
ともかくぼくは旅に出て 旅を続けた
そしてぼくはいまもまだ
旅の途上にいる
あてどない旅の途上に


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