べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

ひと粒の海 もしくは、配達されることのない手紙

2008年03月16日 20時55分29秒 | 叙情

あなたの瞳から生まれたひと粒の海が
からからに乾涸びたぼくの心をうるおしてくれました
あなたはあなたの悲しみでもって
ぼくにひとときの安らぎをあたえてくれたのです
ひとはだれしも
あたえられたさだめにあらがう術をもちません
だからあなたはあなたの身の上を
そんなに悲しまないでほしいのです
たとえどんなにつらくても
悲嘆にくれたりしないでいてください
あなたはあなたにあたえられたあなたのさだめに
ただ素直にしたがっているだけなのですから
ひとにはそれぞれ
生まれながらにさだめられた役割があるといいます
どなたがおさだめになることなのか
ぼくには知る由もありませんが
きっと深いお考えがあってのことと信じたいものです
もし すべての命に役割があるとするならば
だれもがそれと気づかぬうちに
なにげない日常の中で
それとなく果たしているのかもしれませんね
少なくともあなたの頬をつたうひと粒の海は
ぼくの心をやさしくうるおしてくれました
ぼくにはあなたの悲しみを
取りのぞくことなどできません
静かに受けとめることはできても
その胸の痛みを
分かちあうことすらできないのです
けれどあなたの零したひと粒の海は
たしかに深く 
この胸に沁みていきました
せめてそのことをあなたに伝えることができたなら
そうすれば少しは
あなたの慰めになるのでしょうか
あなたの悲しみによって救われた悲しみ
ぼくはいまそのことを
しみじみ愁いているのです





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気だるい午後

2008年03月09日 19時22分53秒 | 叙情

開け放った窓から見える四角い空が
なんだか哀しい

机の上には
ふたの開かなくなった藍いインク壷と
エキゾチックなドロップの空き缶

ひきだしの中では
いつのまにかつけなくなった日記が
書きかけの手紙とともに
深い眠りについているはず

壁にかかった
ジャンヌ・エビュテルヌの肖像
瞳のないアーモンド形のまなこ

その眼であなたは
いったい何を見つめていたのでしょうね

意識の底の暗がりを流れつづける
短調のピアノの調べ

哀愁をおびた旋律

ふと胸をよぎるあの日の出来事
めくるめく記憶の断片

いくつもの季節が寂しさだけを置き去りにして
静かに遠ざかっていくようです

夢をなくして 希望をなくして
余裕をなくして いろいろなくして
愛さえなくして みんななくして

そもそもわたしの心は愛なんてものを
ほんとうに持ち合わせていたのでしょうか

出窓にぽつんと置かれたティーカップ

口もつけないまま
すでにハーブの香りも消え失せて
すっかり冷めてしまったみたいです

雲ひとつない空の青さがせつなく胸に染みる
退屈な午後のひととき







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もしもぼくが・・・

2008年03月02日 18時46分40秒 | 慰め種

もしもぼくが
おだやかな陽射しであったなら
やさしい光で包んであげたい
凍えてふるえるきみの躰を
そっと温めてあげられるから

もしもぼくが
清らかな泉であったなら
その小さな手のひらにすくわれてみたい
傷つき渇いたきみの心を
静かにうるおしてあげられるから

もしもぼくが
荒れ野の木立であったなら
いつもたくさんの葉を茂らせていたい
冷たい通り雨から
きみを守ってあげられるから

もしもぼくが
やわらかな風であったなら
頬をつたうその涙をぬぐってあげたい
きみの気持ちが
いつも安らかでいられるように

もしもぼくが
ひときわきらめく夜空の星であったなら
きみといっしょに祈ってあげたい
そのささやかな願いが
いつの日かきっと叶えられますようにと

もしもぼくが
闇を照らす灯火であったなら
その胸に小さなあかりを灯してあげたい
いつかきみが
ぼくにしてくれたように









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