べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

憐れみのひと

2007年12月23日 12時44分48秒 | 慰め種

あのひとは
とても哀しいひとでした
親しい者にうらぎられ
身近な人々に唾を吐きかけられ
苦しみ もがき のたうちながら
地に這いつくばったひとでした

あのひとは
とても憐れなひとでした
群集に罵声を浴びせられ
石をもって追われ 蔑まれ 見下され
まるでぼろ布かなにかのように
道端に打ち捨てられたひとでした

あのひとは
とてもみじめなひとでした
罵詈雑言と悪態の中で
侮蔑の視線を身にまとい
殴られ 蹴られ むち打たれ
肉は裂け 血はほとばしり 骨は砕かれ  
最期は罪人として孤独に息絶えたひとでした

あのひとはとても哀しいひとでした
あのひとはとても憐れなひとでした
あのひとはとてもみじめなひとでした
それなのになおあのひとのことは
語り継がれているのです
二千年のときを経たいまも ずっと

まるで誰もが
あのひとのことを見知っていたかのように
あのひとの姿を あのひとの行いを
思い浮かべることができるのです
哀しみや苦悩や絶望がわたしたちをさいなむとき
ともするとあのひとが
かたわらに寄り添っていてくださるような
そんな気さえするのです

あのひとはとても哀しいひとでした
あのひとはとても憐れなひとでした
あのひとはとてもみじめなひとでした
それでもなおあのひとは
病にふした者のささえとなり
貧しき者とわかちあい
卑しい者の友となり
罪深き者の心に安らぎをあたえ
そんなか弱い人々の
寄る辺となったひとでした

あのひとは何もできないひとでした
けれどあのひとは
誰にもできないことをいともたやすく
成しとげてしまうひとでもありました
あのひとはとても哀しいひとでした
あのひとはとても憐れなひとでした
あのひとはとてもみじめなひとでした
そしてなによりもあのひとは
愛と憐れみのひとでした








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ゆるゆると深く静かに

2007年12月16日 11時43分35秒 | 叙情

ぼくは眠りたい
青く冷たい湖の底で
深く静かに眠りたい
ときおり薄っすら目蓋をひらくと
水面(みなも)を漂う光の帯が
ゆらゆら揺らめいて見えるでしょうか

ぼくは眠りたい
雪におおわれた純白の森の中で
深く静かに眠りたい
ときおり薄っすら耳を澄ますと
おだやかに降りつむ雪の音(ね)
しんみり鼓膜に染みるでしょうか

ぼくは眠りたい
あなたの清らかな胸の中で
深く静かに眠りたい
たおやかに波うつあなたの胸で
ただ安らかに
永久(とわ)の眠りを眠りたい

ゆるゆると ゆるゆると
深く静かに
ふたたび目覚めることのない眠りを
ただゆるゆると
深く静かに
眠り続けていたいのです








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涙壷

2007年12月10日 18時01分12秒 | 叙情

いつのまにか気づかぬうちに
胸の奥にしまってあった涙壷は
ふちまでいっぱいに満たされて
いまにもあふれてしまいそう

そもそも
涙は頬をつたうものだということを
すっかり忘れてしまったのは
いったいいつ頃のことだったでしょう

涙をあふれるにまかせておけるだけの
しなやかさと素直さが
わたしにもそなわっていればよかったのに
あいにくわたしはそのようなものを
どこかで失くしてしまったみたいです

ですからどうかもうこれ以上
わたしの心を揺り動かさないでいてください
胸の奥深くひっそり隠した涙壷は
いまにもあふれてしまいそうなのですから







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