べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

夜の底の曖昧な時の狭間で

2011年08月14日 19時53分16秒 | 哀愁

とろけるような月あかり
開け放たれた窓
葉擦れの音すら聴こえない
静謐な夜

灯りを消した部屋に蜜の光が染みて
湿り気をおびた静寂が
ゆるやかに密度をましてゆく

テーブルの上には空のグラスがひとつ
うすく透明な
ごくありふれた器が
ぽつんとひとつ在るだけ

そこに在るのは
満たされない何か

満たされないものが
満たされないまま
ただ漫然とそこに在ることが
なんだか無性におかしくて

悲しいほどにおかしくて
ふとその横に
炭酸水の瓶を置いてみようと思いたつ

瓶を取りだすわずかの間
冷蔵庫の中からこぼれでた
機械仕掛けの冷たい光が
殺風景な部屋に
いくつもの濃い影を作りだす

けれど扉を閉めた途端
それもすぐに消え失せて
あたりはふたたび
青い静けさの中に沈んでゆく

ふわりと吹き抜ける微かな風
ひそやかに香る樹木と土の匂い

さしあたってすることもないので
瓶の中身をゆっくりグラスにそそいで
月のあかりに透かしてみる

と、金色の小さな泡粒が
ひとつ そしてまたひとつ
つぎからつぎへと生まれては弾け
弾け散っては消えてゆく

そうしてふつふつと生まれては
ぽつりぽつりと消えてなくなる泡粒を
深い夜の底で見つめながらいまぼくは
どうしようもなく
安らかにひとりだ




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