べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

喪失

2008年05月28日 21時33分39秒 | 哀愁

ここではないどこか遠くへ
行ってしまいたいと思いながら
どこへも行けないことには気づいていた
とにかく歩みを進めなければと考えながら
ゆく手になにもないことは知っていた
かといって立ちどまることも
後戻りすることも許されなかった
いっそこのままなにもかも
消えてなくなればいいのにと
心秘かにつぶやいてはみたものの
何も変わらないのはわかっていた
いつかどこかで
とてもたいせつな何かを
失くしてしまったような気がするけれど
それが何だったのかということさえ
いまとなっては思い出せない







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小糠雨降る夜のこと

2008年05月24日 17時46分02秒 | 叙情

静々と日が暮れて
それでもなお降りやまぬ小糠雨
閉めきった部屋であかりも灯さず
じっと息を殺していると
やがて部屋中が
生ぬるい水で満たされていきました
その澱んだ水底に
わたしはからだを丸めて横たわり
人知れず 密やかに
おろおろ泣いてみたのです
なんのためらいも恥じらいもなく
さめざめと
さほど悲しくもないのにです

けれど
まったく悲しくないかといえば
けしてそういうわけでもありません
ただ
胸にわだかまる悲しみのもとが
いったいどこにあるのか
理解できずにいるだけなのです
その証しに
頬をつたうしょっぱい雫は
とどまることなく
ほろほろと
ほろほろとこぼれ落ちて
なおさらに
部屋を満たしていったのですから

悲しいわけがわからないのは
きっとわたしの中に
悲しいことが多すぎるから

などと思いを巡らせているうちに
意識の輪郭がとろとろとろけて
すでに部屋中に満ち満ちた
水にほどよく混じりあい
やがてわたしは
やさしい眠りに落ちていったのです
ほの暗い水の底でゆるゆると
ゆるゆると
やわらかな眠りにほどけていきました
そうしてわたしは知ったのです
悲しみは思いのほか
甘美なものだということを










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いつわりのことば

2008年05月18日 13時17分45秒 | 哀愁

どうせなら
もっと上手な作り話を聴かせてください
嘘をつくのに
あなたはなんて悲しい顔するの
わたしはいつも微笑んでいられる
自分のために流す涙は
とうのむかしに枯れ果ててしまったから
やさしい言葉もなぐさめも
そんなものは必要ありません
とるにたりない戯言なのだと知っているから
わたしのことならだいじょうぶ
傷つくことには慣れっこなのです
だからどうか
そんな見え透いた嘘で終わらせないで
わたしのことならご心配には及びません
おそらくきっとこれまで通り
生きていけると思うから







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だから なおさら

2008年05月07日 22時22分28秒 | 哀愁

とにもかくにも
なにもかにもが
曖昧模糊としているの
どんなにじっと見つめあっても
どれほど深く想っていても
あなたにわたしのすべてがわかるはずもなく
わたしもあなたを
理解しつくしてあげられはしない
やるせなく 
せつないことではあるけれど
とどのつまり
そういうことではないかしら
ひとはみな寄る辺なきもの
だから なおさら
なので なおさら









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