べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

いまはもう遥か遠いあの夏の日のこと

2010年09月12日 14時12分30秒 | 哀愁

空ばかり眺めていました

そうでないときは
樹陰に風の通り道をみつけて
本を読んだりもしました

ページを繰るたび眠気が益して
つい居眠りすることもしばしばでした

そんなときは夢をみました
たわいのないごく短いものでしたけれど
たいていは目覚めたとたん
ぱちん と弾けて消え去りました

午睡の夢は
まるでシャボンのようでした


ひと気のない野の小路は遠く陽炎に揺れて
空はどこまでもきちんと青く
地平線から湧き立つ雲は
眩いばかりに
きっちり白く輝いておりました

小高い丘の三叉路で
あの日もうひとつの道を選んでいたなら
わたしのきょうは
少しは違っていたのでしょうか


雨が降れば
傘もささずに濡れて歩きました

とくにお天気雨の日は心地よく
あかるい陽射しにきらめく小さな雨粒が
焼けた素肌にやさしくふれて
まるで炭酸水の中を
ゆっくり泳いでいるような気がしたものです

雨上がりの
ブナの林の木洩れ日の
柔らかな調べが好きでした

むせかえるような草いきれと
土の匂いが
好きでした


夜は星ばかり眺めて過ごしました
星々は静かに瞬くだけで
なにも語りかけてはきませんでした

夜が更けると
ときおり手紙をしたためることもありました
たいして意味のないありふれた言葉が
淡く色のついた便箋を虚しく埋め尽くしただけの
そんなとりとめのない独り言が
誰かの手元に届けられることなど
ついに一度もありはしませんでした

誰も知らない無垢な夜明けに
朝露に濡れた草を素足で踏むと
夏のやるせなさが沁みてきました


見上げれば
いまもまだそこにある空と
いまはもうそこにないあの夏の日



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