べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

遠い夏の記憶

2007年05月25日 18時36分53秒 | 慕情

陽炎ゆれる田舎道
むせかえるような草いきれ

すこん
と、底の抜けた青い空

野をわたる風にさそわれて
ふとこぼれおちた
麦藁帽子のかげの
やわらかな笑み

なにもかたらず
なにももとめず

深い 深いしじま
空白のひと夏






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月夜にとろける夏の夢

2007年05月17日 17時43分32秒 | メルヘン

きょうという日が
おだやかに過ぎ去ろうとしています

ともし火を落とした部屋の中は
黄色い月あかりに満たされて
まるで蜜かなにかのように
とろりと甘くよどんでいるのです
夜風はほのかに待宵草の香りをふくんでいて
そのことが
なおさら夏の夜の濃密さを深めているようです

どこか遠くの方から聴こえてくるのは
ケルトの子守唄でしょうか
その美しく澄んだ歌声は
しっとりと胸に染み入り
まどろむ魂を葦の揺りかごにのせて
そっと運び去ろうとするかのようです

やがて意識は少しずつ闇にたぐりよせられ
部屋の情景が徐々に輪郭を失い
天井が消え
屋根はなくなり
そのうち壁や床さえ消えうせて
知らぬ間にぼくのからだは
ぽっかり宙空に浮かんでいるのでした
あたりには
鏡を砕いてまき散らしたような
満天の星空がひろがるばかりです

その銀の大河の中ほどを
ひときわまばゆい光を放ちながら
いましも大きなほうき星がひとつ
ゆっくりよこぎろうとしています
音もなく静粛に
それでいて厳かに

いつのまにかぼくのかたわらには
羊飼いの少女がひっそりとたたずんでいて
あどけない仕草でそっと耳打ちするのでした
「ほうき星が通りすぎたあとにはね
地上に金の粉が降りそそぎ
そこにお花が咲き乱れるの」
どうりで夜風が花の香りをふくんでいるはずだね
と、こたえる間もなく
ぼくの意識は眠りの沼のはるか深みへ
ふぅっと ひきずりこまれていきました

そうしてきょうという日が
静かに終わりを告げたのです












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あなたのぬくもりが薄らいでゆく

2007年05月05日 18時21分54秒 | 哀愁

あの日ぼくは
口唇であなたの存在をたしかめた
まちがいなく
すぐそばにあなたがいるということを

あなたを失ったいま
ぼくの口唇はささやくようにあなたの名を呼ぶ
けれどあなたの声は返ってこない
あなたのぬくもりが薄らいでゆく







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ぼくはときおり

2007年05月02日 17時37分36秒 | 叙情

ぼくはときおり
途方にくれてしまうのです
この世に生まれ落ちてしまったことへの戸惑い
手さぐりで生きていかなければならない
心もとなさに
ぼくはときおり
途方にくれてしまうのです

ぼくはときおり
心がふるえてしまうのです
なんでもないのにふと気がつけば
頬がぬれているのは
いったいどうしたことなのでしょう
ぼくはときおり
心がふるえてしまうのです

ぼくはときおり
胸がいっぱいになってしまうのです
なにか目に見えない
大きな意思のはたらきに
はかり知れない何者かの息吹に
ぼくはときおり
胸がいっぱいになってしまうのです

ぼくはときおりそんなふうにして
泣いたり 笑ったり 悔やんだり
ときには知らんぷりしたり あくびをしたり
見果てぬ夢を抱いたり 挫折したりして
右往左往しながらも
日々を過ごしているのです
ときにはきみを思ったりして










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