べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

くじらの唄とアネモネの花

2006年12月30日 21時06分07秒 | メルヘン

そっとまぶたをとじてごらん
ほら聴こえてくるでしょう?

〝なぁに?〟

寄せてはかえす波音が・・・・

空にはまんまるお月様
いつもはおしゃべりな星たちも
今宵は百万光年の瞬きをやめて
まるで凍りついたかのように
真っ暗夜空に貼りついているよ

〝まぁ、ほんと?〟

静かに耳を澄ましてごらん
こんな夜は ほら
聴こえるでしょう あの声が
哀愁をおびたセロの響きにも似て
とおく たかく ひくく
まるで 
銀河の果てから聴こえてくるようだね

〝なんの声?〟

あれは くじらたちの夜想曲・・・・

おおらかで
それでいて やるせないほど美しい
あれは くじらたちの唄声なんだよ
とおく たかく ひくく
ほら 聴こえてくるでしょう?
波音にまじって

〝なんのお唄?〟

すべての命は海から生れ
海から生まれたものは地に育まれ
地に育まれたものは
いずれ空へと帰っていくんだよって唄ってる

〝それから?〟

そうしていつの日かまた
ひと粒の涙の雫となって
静かに海へともどっていくんだって

“へぇ・・・”

やがてひと粒の涙は花になるんだ
はるか大海原の果ての果て
水平線と空とがとけあうあたり
そこは世界でもっとも深い海
その海の 底の底の底深く
ひと知れず
花が一輪咲いてるんだよ

〝どんなお花?〟

愛らしい真っ白な アネモネの花さ

まったく光のとどかない
深海の真っ暗闇に咲く花を
だれも見たものはないけれど
たしかに咲いているんだよ
暗闇の中で
とってもきれいな純白の花が

〝純白の?〟

くじらたちは知っているんだね
目にしたことはないけれど
世界一深い海の 底の底の底深く
白いアネモネの花が咲いているのを

〝どうして?〟

さて、どうしてなんだろうね
とにかく くじらたちは唄うんだ
とおく たかく ひくく
やさしく 哀しく 美しく
海の底の深いところに
幻の花が咲いていることを

“ふぅ~ん・・・”

こんどまた
きみの頬をひと粒のしょっぱい海がつたうとき
そっと胸に手をあてて  
じっと耳を澄ましてごらん
きっと  
くじらたちの唄が聴こえてくるから
とおく たかく ひくく
清く せつなく おだやかに

“それで?”

そうして
くじらたちのコーラスが聴こえたら
思いを沈めてごらんなさい
胸の底の底の底深く
思いを沈めてみるんだよ
するとね
真っ暗な闇の中に咲く
白い花を感じることができるから
純白の とてもきれいなアネモネの花を
ねぇ、
アネモネの花言葉を知っているかい?

“いいえ、知らないわ”

アネモネの花言葉はね
たとえば“儚い恋”だったり
あるいは“恋の苦しみ”だったり
もしくは“薄れゆく希望”だったり
そしてね
白いアネモネの花言葉はね
“真実”・・・・なんだって

こんどまた
ひと粒のしょっぱい海が
きみの頬を流れ落ちることがあったなら
心の底の底の底深く
思いを沈めてみてごらん
真っ暗な闇の中に
きっと真実の白い花が
見えてくるから



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