べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

静かに 少しずつ 密やかに

2007年09月26日 22時30分54秒 | 慕情

この想いを何にたくしましょう
あなたの寝顔をやさしく照らす月あかりのように
狂おしく胸を焦がす甘美な想いを
静かに 静かに
深めていけたらいいのだけれど

この気持ちを何にことづけましょう
窓辺に歌う朝の小鳥たちのように
あなたにめぐり逢えた喜びを
少しずつ 少しずつ
伝えられたらいいのだけれど

この愛を何にゆだねましょう
あなたの幸せを願う星々の祈りのように
ぼくの愛があなたの胸を
密やかに 密やかに 
満していけばいいのだけれど







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猫と過ごした夜のこと

2007年09月20日 21時42分07秒 | メルヘン

ある寝苦しい夜のこと
ダウンタウンの古びたビルの屋根の上で
ぼくは一匹の猫に出会いました
どこからやって来たのかその猫は
そうすることがごくあたりまえであるかのように
ぼくのかたわらに歩み寄り
ちょこんと腰をおろしたのです
その横顔をそっとのぞいてみると
とても気品のある顔立ちをした淑女のような猫でした
全体の毛なみは真っ白なのに
片方の耳と両の手足の先っぽだけが真っ黒
まるで頭に小さな帽子をのせ
両手に手袋 足もとは
手入れのいきとどいたブーツを履いているかのようでした

黙っているのも気づまりなので
“星のきれいな夜ですね”
と、一応の礼儀で挨拶をすると
猫は頭に手をやり
そこにある帽子にちょっと指先をそえるようにして
おだやかにかぼそい声で
“ミィヤウ”
と、これまた礼儀正しく挨拶を返してくるのでした
猫なのにおもねるわけでもなく
かといってツンとすましているでもなく
ちょうど程よい距離感とでもいうのでしょうか
ものごとの加減を熟知しているかのような
そんなそぶりをみせるのでした

月あかりに照らされた猫の瞳は
左側が澄んだ青 
右は深い緑の色をしておりました
まるで
底の抜けたような空の清々しさと
底知れぬ湖の深い静けさを
それぞれの瞳にたたえているかのようでした
また 左右でちがう瞳の色は
さながらパリの倦怠と
アンダルシアの情熱をあわせもったような
えもいわれぬ表情を醸しだし
身のこなしもずいぶんとイカしていて
とても育ちが良いにもかかわらず
それでいて 人情の機微というのでしょうか
陽のあたらぬ裏街の人生模様といったようなものまで
きちんと知りつくしているかのようにも思われました

ぼくらはそうして
しばらく屋根の上に並んで腰掛けていましたが
ふとした拍子にぼくの胸の底の奥深い場所から
大きなため息がひとつ
思わず知らず ついあふれ出てしまったのです
あのときぼくはいったい何に思いを巡らせていたのか
無意識のことではありましたが
せっかく美しい月夜の晩に
屋根の上に安らぎを求めにやってきたレディに対して
たいへん申し訳なく
“ごめんなさい”と丁重に 
そしてまた やや親しげにお詫びの言葉をささやくと
その礼儀正しき猫はまたしても
“ミィヤウ”
と、先程よりも心持ちやさしげな声で
“ひとはだれでも心の中に深くて暗い井戸をもっているものよ”
などと慰めてくれるのでした
ぼくにはその気遣いがとてもうれしく感じられました
それから猫は
“考えちゃだめ 人生に求められているのは生きることよ”
と、吐息をもらすように言いながら
ゆっくりとした動作で夜空を見上げたので
ぼくもついつられて視線を上に向けたちょうどそのとき
すっと一筋 視界の片隅をよぎるものがありました

流れ星です
それはまさに あっという間のことでした
あまりに短いあいだの出来事だったので
願いごとをする間もありませんでした
“あぁ、しまった” と
ぼくは無性に残念でなりませんでしたが
猫はそんなこと気にするふうでもなく
“ミィヤウ”とあくびをひとつして
大きく背伸びをしたのです
それはさながら
“過ぎ去ったことを思い煩ってどうするの?”
と、諭してくれているようなさりげない仕草でした
星が尾をひいて落ちたのはその一度きり
そのあとはもう
流れ星を目にすることはありませんでした

あと数時間で夜が明けて
また新しい一日がはじまろうとしていました
“明日のことは明日考えればいいや”
ぼくはそうひとりごち
猫の真似をして大きな伸びをしながら
ふとかたわらに目をやると
そこにはもう 猫の姿はありませんでした

ひとり取り残されたぼくは
先ほどまで猫がいた場所にむかって
“ミィヤウ”と
小声で呼びかけてみるのでした








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きみがあふれてゆく

2007年09月17日 11時44分10秒 | 慕情

春、きらめく木漏れ陽の中で
きみのくちびるに小さな笑みが咲いたとき
何かが変わりはじめたのです
ぼくの中で

夏、草原をわたる風に野花が香り
うっとりと目蓋をとじたきみを見たとき
ぼくは秘かに感じたのです
世界がほのかに彩づきはじめたことを

あの頃のきみは
ぼくが瞬きしている束の間に
つばさを広げようとしていたのですね
朝陽の中で羽化する蝶のように

それでもきみの中には
少女の面影が消えずに残っていたっけ

秋、波にあらわれた貝殻を耳にあて
もの思いに沈むきみの横顔を目にして
戸惑いをおぼえたこともありました
そのあまりのあどけなさに

冬、一日のおわりに小さく手をふって
さようなら 
と 小頸をかしげる愛らしい仕草に
いつもなんだかいたたまれない心持がしたものです

そしてあの日 
ラヂオから流れくる古びた曲に
きみが思わず涙したとき
ぼくはようやく気づいたのです

ぼくは そう
たしかにきみに・・・・・

きみへの想いはそんなふうに
ぼくの心の片隅に
ある日とつぜん小さく芽ばえ
みるみる胸を満たしていったのです

ふと気がつけばきみのことばかり
いまにも溢れてしまいそうなんだ







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たとえばもしきみが

2007年09月12日 00時56分53秒 | 慕情

たとえばもしきみが悲しみにくれて
冷たいアスファルトの上を裸足で歩いていたなら
ぼくがそっと抱き上げて
緑の風の吹きわたる
秘密の草原へ連れて行ってあげる
やわらかな草の葉が
きっと素足に心地好いと思うから
そのときはどうか いつかのような
可愛い笑みを浮かべてみせてくれるでしょうか

たとえばもしきみが寂しさにたえきれなくて
そのかぐわしい頬に涙のしずくが流れたら
ぼくは過ぎ去った季節をかきあつめ
ふわふわとやわらかな
虹色の綿菓子を作ってあげる
ふんわり甘い想い出が
きっと癒してくれるに違いないから
そしたらどうか いつものように
あどけない笑顔をとりもどしてくれるでしょうか

たとえばもしきみがうちひしがれて
深まりゆく暗がりの中で眠れずにいたなら
ぼくは銀河の光のひとひらを
きみのパジャマのポケットに
内緒でそっとしのばせてあげる
夜のしじまがやさしくきみを包んでくれますようにと
だからどうか どんなときにも
しなやかに微笑むことを忘れないでほしいのです

たとえばもしぼくの心が打ちのめされて
胸の内側がざらざらとささくれ立って
気持ちがへこんで かわいて ひからびて
それでもなんとか生きていられるのは
きみがときおり笑顔を見せてくれるから
ときおり静かに微笑みかけてくれるから
だからどうか いつまでも
愛らしい笑みをたやさないでいてください
なによりも
きみが幸せであるために







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なにをいまさらなんだけど

2007年09月07日 21時37分37秒 | 掌のものがたり

とても愛しているけれど 一緒には暮らせないよ
と、あの人は言った
あの人に妻子のあることは百も承知の上だったので
いまさらそんなこと
あらたまって言われてもねぇ・・・って感じで
そのときはとくべつ驚きはしなかったけれど
また別の日 なにかの折に
きみも年頃なんだから
いい人ができたらぼくのことなど気にしなくていいよ
と、言われたときはさすが
わたしはわたしなりに少なからず傷ついた

あの人はわたしのことを
心底愛してくれている(と、思いたい)けど
常にどこか冷静で
感情のおもむくままに流される
と、いうことのない人だから
そこがわたしにはもの足りなかったり
また、たのもしく思えるところであったりもする

けれども たとえばもしあの人が
一緒に死んでくれないか
なんて、やさしい言葉を
かけてくれるようなことがあったりしたら
わたしはよろこんで
その望みをかなえてあげたいと思う

とかなんとか言いながら
わたしだって心のどこかに
いたって冷静な部分を隠し持っているわけで
実際のところどうなるかは
そのときになってみないとわからない
・・・・・・・
ような気がする

けれど でも 
できることならやっぱりわたしは
あの人の胸に秘められた蔭の部分に
どこまでもそっと付き添ってあげたいと思う
あの人の背負っている寂しさや哀しみと
わたしの抱えているそれらとは
おそらく異質のものなんだろうけど
それでも
わたしはわたしなりにあの人のことを
心の底から愛しているのだから

なにをいまさらなんだけど
とにかくそういうことなんです







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近ごろなんだか

2007年09月01日 20時49分04秒 | 慕情

近ごろなんだかもの哀しいのは
移ろいゆく季節のせいばかりじゃない気がします

ふと気がつけば
ため息ばかりついてます

近ごろなんだか人恋しいのは
おそらく どうやら
日々深まりゆく秋のせいばかりじゃないようです

きみがいるから
それとも きみがそばにいないから







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