べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

夏乙女

2007年06月06日 09時25分41秒 | 掌のものがたり

夏、
ローカル線の無人駅
誰もいないプラットホームに
少女はひとりたたずんでおりました

純白のワンピースに
紅いリボンのついた麦藁帽子
空はどこまでも青く澄みわたり
金色(こんじき)の陽射しは
これでもかとばかりに
容赦なく地上を照りつけています
あたりには人っ子ひとり見あたりません

激しく降りそそぐ蝉しぐれ
そのあまりの騒がしさに
かえってあたりの静けさがきわだつようです
ときおり涼やかな風が吹き過ぎて
見わたすかぎり一面の麦畑がゆるやかに波を打ちます
そのさまはまるで緑の大海原
真っ青な空 真っ白な入道雲



少女は春からやって来ました
そしていま
ようやく夏にたどりついたのです
ふと あすのゆくえに目をやると
景色が遠くゆらめいています
かげろうにゆがんで見える線路のさきには
きっと秋が待っているのでしょう
そうしてもっとさきの そのまたさきのさきには
静かに凍てつく
冬の大地がよこたわっているのです

夏の命は短く
秋は思いのほかはやく訪れるものだということを
知っているのでしょうか
少女はひとり、
誰もいないプラットホームに
たったひとりでたたずんでおりました

草いきれが青く匂いたつ夏の盛り
ひとは誰しも
ひとりぼっちなのかもしれません






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