脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

京都を背負った意地の衝突 -佐川印刷VS京都-

2010年09月06日 | 脚で語る天皇杯
 今季の天皇杯は1回戦から中1日でJリーグ勢が登場する2回戦に突入。各地でJクラブに挑むアマチュアクラブの戦いが繰り広げられたが、西京極もその例外ではない。J1京都と1回戦で奈良クラブを破ったJFL佐川印刷(以下=印刷)との試合が行われ、延長戦の末に3-2で京都が何とか勝利した。京都は5月30日以来の公式戦初勝利。そして秋田新監督就任後、初めての公式戦勝利となった。

 

 京都は通常と変わらぬベストメンバーを起用。中盤の底にヂエゴを起用し、左サイドバックに中村太、柳沢とディエゴに前線を託す。印刷は奈良クラブと戦った1回戦のメンバー11人を全て刷新。かつて京都に在籍した大槻を軸に、中野、櫛田、吉木という中盤のレギュラー選手、そしてエースの平井と塩沢が前線でコンビを組んだ。
 試合は予想外の立ち上がりを迎える。3分に印刷MF吉木が思い切りの良いシュートでチームに活力を与えると、9分に塩沢がヘッドで京都ゴールを揺らす。今大会の2回戦、ジャイアントキリングが起こるならまずはこの対戦カードではないかと思っていたが、予想以上に楽に印刷は京都から先制点を奪った。

 
 
 9分に塩沢が先制点となるヘディングシュート。
 打点の高い1発で撃ち合いの口火を切った。

 
 印刷の攻撃面でリズムをもたらしていたMF吉木。
 物怖じしない姿勢は11人に共通。

 この先制点でリズムに乗った印刷は、精度の高いパスワークと機を見たカウンターで京都を翻弄する場面を幾度も作る。16分にはパスを繋いで京都の守備網を完全に崩して中野がシュートを打つ場面も。徐々に京都には焦りが感じられてきた。しかしながら、勝てていないとはいえ京都もJ1の意地、2つも格下の相手に負けるわけにはいかない。渡邉の攻め上がりやドゥトラの突破によって印刷ゴールにじりじり忍び寄る。印刷は瀧原、高橋を中心に身を挺してそれを阻み続けた。京都は中盤に起用したヂエゴが周囲とフィットせず27分に角田と早々の交代。まずは1点を目指して早めのベンチワークを見せた。

 
 負傷がちながら得点力はチーム№1の塩沢。
 前半を目一杯プレー。

 
 京都は中山が中心になって攻勢に転じる。
 ここで負ければその1敗の重さは大きい。

 
 ドゥトラの突破を印刷がブロック。
 集中した守備網を形成する印刷。

 31分、京都は右サイドからFKのチャンスを得ると、これをディエゴが水本の頭に合わせて同点とする。この辺りから京都が格上らしいリズムを取り戻すが、印刷は守りでも粘りを発揮。GK大石の活躍と京都の決定力不足に助長され1-1のまま前半を終了。後半も両チームは決定機を決められず、拮抗した展開で90分を終えることとなった。

 
 小柄ながら運動量を武器に活躍を見せた中野。
 早稲田出身のルーキーだ。

 
 31分に水本が渾身のヘッドで京都が1-1の同点に追いつく。

 
 大槻の存在感は印刷にとって絶大。
 常にチャンスは彼のボールキープから演出される。

 90分で決着のつかない試合は15分ハーフの延長戦へ突入。すると92分、右サイドからのクロスに交代出場のFW葛島がダイビングヘッドで勝ち越し弾となるチーム2点目を奪う。追いつめられた京都、逃げ切りたい印刷、延長戦はさらに白熱した様相を呈す。102分には前半から苛立ちを募らせていたディエゴが印刷ゴールに突進、同点となるシュートを決める。この時間帯、少し印刷は集中力が切れていたのか守備時のハードワークが影を潜めた。106分には再びFKのチャンスから角田が頭で決めて京都にリードを許してしまう。しかし、残り15分を切っていたものの、まだ印刷には何かを起こしてくれそうな感触があった。それほど全員が前を向いてプレーし続けていた。

 
 体を張って京都の攻撃を防いだDF瀧原。
 印刷は攻守における集中力が素晴らしかったが…

 
 終始当たっていた印刷のGK大石。
 彼の活躍は守備の時間を強いられるチームを勇気づける。

 
 延長突入と同時に会心のゴール。
 印刷はこれで少し気が緩んでしまったか…

 意地と意地がぶつかり合う京都勢同士の撃ち合いは、106分に京都MF安藤が2枚目の警告で退場、また終了間際にはベンチから京都のコーチが退席処分に処せられるなど波乱含みの展開。115分には京都ゴール前でGK水谷がこぼしたボールに平井が反応するが間一髪でクリアされてしまう。最後まで見逃せない攻防が続いたが、結局3-2で京都が逃げ切り、印刷の天皇杯は2回戦で幕を閉じることとなった。

 
 勝利への執念は双方ともに同じ。
 わずかな集中力の差が試合の展開を分けたのか…

 
 106分に角田が逆転ゴールを決める。

 
 115分、印刷の決定的な場面。
 これが決まっていれば…

 本当に息をつかせぬスリリングな試合だった。京都の不振も背景にはあるが、JFLで戦う印刷のサッカーのクオリティを証明する試合にもなった。試合後には京都の選手たちを労う拍手やエールもあったが、それ以上に印刷を喝采する声も多く聞かれた。同じ京都を本拠地に戦う両チーム。その在り方はプロとアマという対極的なものだが、改めて「京都に佐川印刷あり」ということを試合観戦者に深く印象付けただろう。ジャイアントキリングは起こせなかったが、彼らがJ1クラブを相手にこれだけの戦いを演じてくれたことは、1回戦で彼らに敗れた奈良クラブを応援する者としても感慨深く、刺激になった。サブ主体で臨まれたが、1回戦の結果は成るべくして成ったものだと納得できる。それほどのチームワークを印刷は持っていた。彼らを超えなければ天皇杯でJ1クラブは打ち負かせない。それどころか今後JFLへとステップアップすることもままならないだろう。噛み締めるものが多い好ゲームだった。

 
 試合終了と同時に倒れこむ印刷の選手たち。
 敵味方関係なく惜しみない拍手とエールが送られた。

 
 その数はほんのわずかだが、サポーターの声援があった。
 企業チームだが、京都を誇るチームには間違いない。