脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

スイスサッカーの清算 ~EURO2008~

2008年06月04日 | 脚で語る欧州・海外

 オーストリアとの共催であるEURO2008開催を前に、スイスに激震が走っている。スイス代表FWのマルコ・シュトレラー(FCバーゼル)がブーイングによる非難に耐え切れず、本大会終了後に代表から引退する決意を表明した。「こんな空気のなかでこれ以上プレーすることなんかできない」とは本人の弁。そう、彼へのブーイングは2006年ドイツW杯でPK戦0-3の末にウクライナに苦杯を喫したあの日から鳴り止まなかったのだ。シュトレラーはこの試合でPKを外し、ベスト16にてスイスが姿を消したきっかけになっている。

 “なんと根性のないヤツだ”と精神論で一方的に批判することもできる。しかし、何とも哀しいニュースだ。自国開催のEURO本大会を間近に控えたこのタイミングで、その心境を吐露することは一国の代表選手として大きな決意が必要だったことだろう。ドイツW杯以降、ケガで長期離脱を余儀なくされたエースFWのフレイに代わって、昨年の親善試合を中心にチーム最多の8得点とその存在感をアピールしていたシュトレラー。3大会ぶりとなったドイツW杯で無失点でのベスト16入りという躍進を遂げた後、パッとしなかったスイス代表、そして国民の大きなカンフル剤として今大会での活躍も期待されていただけに、非常に残念な決意表明となってしまった。

 もし、彼が本大会における自国代表の奮起材料として、自身の代表引退を表明したのならばそれは最大限のリスペクトを送るべきだといえる。これ以上ない“自己犠牲”によって、昨年日本と相まみえた7月からの親善試合直近8試合で3勝5敗と不甲斐無いチームに喝を入れようとしているのだろうかとさえ個人的には推理してしまう。しかし事実は違うのだろう。昨年までブンデスリーガで戦った国内屈指のFWは26歳にしてその重圧に耐えられなくなってしまったのだ。

 これは決してスイス代表の低調なチーム状況と国民の“サッカー離れ”とも無関係ではない。マンネリ感が漂っているのだろうか、未だにスイス代表の人気は欧州の他国と比べるとその足元にも及ばない。前述の親善試合直近8試合では、無得点での敗戦が3試合とその得点力が若きチームの課題とされてきた。そしてEURO本大会を前に不動の司令塔であったマルガイラスが負傷離脱で本大会絶望となってしまい、国民の期待は、25日のスロバキア戦でスイス代表歴代得点記録を樹立したフレイだけに集まっていることだろう。ただ、2001年より7年に渡り長期政権を担ってきたクーン監督がそれまで低迷していた代表チームをEURO2004本大会、ドイツW杯ベスト16と高みに導いてきたのも事実。そのクーン監督が退任する今大会が、国民の関心を引きつける絶好の機会だっただけにシュトレラーの引退表明は戦績を先行してメディアを賑わせてしまった。

 自国代表に関心の薄い、または愛国心に欠けた国民の声がシュトレラーを今回の決断に至らせてしまったのだろうか。本大会でポルトガル、チェコ、トルコと戦うスイス代表。真剣勝負の場には“永世中立国”というお国柄は必要ない。今こそクーン体制の総決算。それはシュトレラーという悲劇のストライカーを生み出してしまったスイスサッカーの過去を清算する場でもあるのだ。

 本大会でピッチに姿を現したシュトレラーへのブーイングは見たくない。