脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

“日本代表”逮捕が提起する問題

2008年04月25日 | 脚で語るJリーグ
 
 少し時間差が空いたものの、録画でゆっくり観戦したCL準決勝バルサVSマンUのレビューを書こうとPCを開いたところ、思わぬ事件が・・・

 柏に所属する日本代表候補のJリーガーが、2001年に神戸市内で女性のマンションに忍び込み、下着や携帯電話を盗んでいたことが発覚し、窃盗容疑で逮捕状がとられたよう様子。本人は「知らない」と犯行を否定しているが、時効まで5カ月のところで兵庫県警が現場の遺留物をDNA鑑定したところで発覚した。実は彼には前歴があった。2年前に川崎市内の女性マンションに住居侵入容疑で逮捕されたことがある。今回の事件で、前述の鑑定結果が、その際のDNA鑑定結果と一致したという。当該選手にとっては日本代表に初選出された直後、まさに日本サッカー界にとって、何とも至極残念という他ならない事件となってしまったようだ。

 2年前にも当該選手が起こした女性マンションへの不法な住居侵入は、泥酔であった誤りであることから、事件性はそこまで問われずに起訴猶予処分とされていた。しかしながら、当時所属していた柏レイソルを契約解除され、ヴァンフォーレ甲府に練習生として加入、2ヶ月後に何とか本契約を結ぶに至った。起訴猶予処分となったことも含め、選手自身の泥酔したことによる“過ち”は情状酌量の余地があった。無所属となった空白の2ヶ月間はボランティア活動に邁進し、その行動がチーム関係者に認められた。だが、どうだろう。今回は言い訳が効かない。DNA鑑定、そして“盗まれたものがあること”などの決定的な証拠があっての逮捕状だと考えると、明らかに意図的な犯行と考えるのが妥当だろう。まだ当該選手の処分等が決まっていない段階だが、これで選手生命は絶たれたに等しいかもしれない。

 しかし、非常に残念極まりないのは、プロのサッカー選手であるだけでなく、“日本代表”という大きな肩書きが付いてしまっていたこと。世論的に見れば、“犯罪者”を日本代表に選出していたという訴追を日本サッカーは免れないことになる。今年W杯最終予選、そして北京五輪を控えるだけでなく、Jリーグも今季は観客動員が好調なだけに、そこへの影響は全くゼロではないだろう。本来子供たちの模範となり、“夢”となるべきプロサッカー選手の大罪に日本サッカーは何を学ぶべきだろうか。

 「一人で飛行機のチケットすら買えない」
 以前、専門誌の記事でこんな記述があった。代理人を務める方のインタビュー記事で、高校卒業後すぐにプロ契約を果たした選手が、いかに社会的常識を欠いているかを語った印象的な言葉だった。本当にそういった選手は多くではないと思うが、ごくたまに見られるらしい。単純に考えれば、サッカーで大成するためには幼い頃から、多くの時間をかけての努力と才能が必要であり、少年時代から所属クラブで始まる熾烈な競争を勝ち抜いた者がプロになる道理は当然である。しかし、そこでサッカーの上達に必要な時間と、社会人としての常識人格形成に必要な時間との歪みが生じてしまっているのではないだろうか。単純にサッカープレイヤーとしては一流であっても、常識社会人としては非常に未熟な人間に育ってしまっているということだ。

 これはなかなか単純な論理では片付かないことだろう。“これだけ多くのプロサッカー選手がいれば1人ぐらいそんなヤツもいるだろう”と簡単に片付けるべきか?
 幼少期から教育機関での義務教育が施される日本で、こんなケースはごく希でしかないはずだ。仮に四六時中サッカーばかりやっていたとしても、先輩、後輩、先生、生徒、監督、選手といった構造において人間関係の序列はほぼ確実に社会的常識を植え付けるはずだ。家庭環境によっぽど綻びがあったり、突発的な原因があっての人格形成の障害が無ければ考えにくい。サッカーではプロになれるほどの力を持ちながら、常識人としての行動が欠如しているとなると、どこかで片方のパワーバランスが崩れたに違いない。
 特に当該選手の場合は、1度目ではない。結果的に過去の事件が明るみに出た訳だが、それを隠してこの7年間過ごしていたとなると、2年前の事件の信憑性はおろか、完全に学習能力と自身の欲望に対する自制心に欠けているということ。特に当該選手は昨年も試合中に主審に唾を吐き、退場を食らい、その後運営部品を損壊させるなどの常軌を逸脱した行為で、7試合の出場停止とクラブからの罰金処分を受けている。これは2000年以降のJリーグにおける出場停止処分としては最も重い。ただ、1人の人間としては、ピッチとピッチ外で「悪童」ぶりを発揮したとしても、プレーで結果を残していれば愛される選手もあって良いだろうが、さすがに法を犯したとなればまた話は変わってくる。こういった日頃の行いがそれを裏付けると言われてもしょうがない。これまでサポートしてきた関係者を裏切るには十分すぎると言えよう。

 情報が早い段階で、まだ確かなことは言及できないが、逮捕状が出ているとなると、責任追及は免れない。これまで彼を雇用してきた全てのクラブに責任があるだろう。7年目の真実は日本サッカー界における選手教育はおろか、日本の教育機関が綻んでいる残念な可能性を露呈してしまった。たった1人のこういう愚かな行為が“事件”となり、“サッカー選手は低俗”などという不本意なレッテルを張られる要因となる。当該選手の猛省当然のこと、日本サッカー界と我々ファン全体がもう一度関心を示し、再発防止に取り組まなければならない。一般人とは違う話題性を含むこういった行動が、サッカーというスポーツだけでなく、それを取り巻く文化の失墜に繋がるのは簡単なこと。
 “日本代表”が逮捕されたことの問題提起は我々が思う以上に大きい。