脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

“火の国魂”大阪に消ゆ ~C大阪VS熊本~

2008年04月21日 | 脚で語るJリーグ

 昨日のカシマスタジアムとは対照的に春の陽気が満開となった長居スタジアムへC大阪VS熊本のJ2第8節を観戦に。
 熊本はロッソ時代の昨季から常々スタジアムで観ておきたいチームだった。ここでも何度か取り上げたことがあったが、昨季は残念ながら生で観戦する機会に恵まれなかった。その熊本も昨季のJFLをぶっちぎりの成績で突っ走ってJリーグに昇格した訳ではない。優勝は佐川急便(現SAGAWA SHIGA FC)に持っていかれた。その差は歴然だっただけに熊本もJ初年度の今季は非常に厳しい戦いを強いられるだろうと個人的には考えている。FC岐阜がスタートから健闘を見せているだけに、この熊本も・・・と思いたいところだが、岐阜と違って熊本はここまで6試合で1勝2分3敗の14位と苦しんでいる。

 熊本から駆けつけたサポーターは少なかったが、アップの時から選手たちはそのサポーター達の声援に応えるべく体をほぐす。昨季までG大阪でプレーしたFW中山はここまで2試合連続得点。この日は左SBに入った矢野もかつてはG大阪でプレーした。そして控えのGKには冬の高校選手権でそのプレーを観ることができた元U-17代表GK吉田(ルーテル学院高から今季加入)など個人的に思い入れのある選手もいる。そして、今季新人ながら開幕戦の愛媛戦から抜擢されたMF車智鎬(チャ・ジホ メルボルンナイツより今季加入)がスタメンに復帰。試合前には一人アウェイ側のスタンドにサポーターに挨拶に行くなど気合いは感じられた。
 対するホームのC大阪も、2連敗と全く波に乗れていない。前節広島戦で4失点を食らった守備陣のテコ入れがこの日の焦点ではあったが、GKを相澤から山本に、CBは羽田を外し、江添を先発起用。酒本に代わって柿谷を右MFに、そして前線は小松と森島康という完全にリフレッシュした布陣で臨む。しかしトピックスに欠けている訳ではない。先日MF香川が日本代表候補に選ばれたばかり。自然とチームもサポーターも盛りあがって当然だ。連敗中ながらもC大阪からはその香川を中心に試合をオーガナイズしていこうという気概は感じられた。

 試合が始まると、個人的に前日のカシマスタジアムでの名勝負の余韻が残っていたためか実に低調な滑り出しに映る。熊本は上村を中心としたDFラインと中盤との間にスペースが生まれ、そこをC大阪に再三突かれる形になった。前半からやはり香川の巧さがピッチに映える。彼が左サイドでボールを持つたびに生まれる歓声は、あながちそのボールロストの少なさと無関係ではないだろう。独特のボール運びには既に風格すら感じる。そして彼は常にファーストチョイスとして、逆サイドの柿谷へのサイドチェンジと縦への仕掛けを50/50で考えている。C大阪の攻撃の全権が彼に託されていると言っても過言ではない。それだけ香川と、時には柿谷の右サイドとC大阪は起点となる両サイドから攻撃を仕掛けるのであった。19分にはこのスタメンで気を吐いた森島康がDF2人に囲まれながらのシュートでその才能の片鱗を見せつける。小松と共に前線の2人は決定機には恵まれたが、フィニッシュの精度を欠き前半からチャンスをフイにする場面が散見された。特に右サイドの柿谷と小松の相性は良かったが、C大阪は熊本のバイタルエリアで比較的積極的にプレーできたに関わらず、アタッキングサードでのプレーエリアでボールが確実に繋がらなかった。
 熊本も決してノーチャンスではなかった。組織的な守備から左サイドの車を中心に手数をかけずカウンターを発動させる。41分にはアレーの緩慢なプレーをインターセプトしてから中山がゴール前に迫るが、パスを選択しチャンスを潰す。また、機を見て激しく攻撃参加するベテラン上村は闘莉王のそれを感じさせるものだった。結果的にC大阪がジェルマーノを中心に効果的なプレスを施していたため、熊本も理想の形を作れたわけではなかったが、前半非常に目に付いたのはボールホルダーへのサポートの遅さであった。

 後半に入ると、C大阪は森島康に代わって、国見高出身のルーキー白谷を投入。この交代の意図は良く分からなかったが、この白谷はU-19代表としてもカタール国際でも活躍した逸材。かなりの期待をかけられているのだろう。
 後半は熊本が前半のC大阪のように相手バイタルエリアを攻略しにかかる。リズムを盛り返した熊本は少し引いた位置の高橋と中山の関係が良くなった。守備では上村と河端、そして守護神小林弘のプレーでチームに勢いをもたらした。
 C大阪クルピ監督は沈滞化するチームを非常に好采配で蘇生させた。80分に酒本と羽田を投入。柿谷の位置に酒本、そして羽田を守備陣中央に据え、前田を右SBに移した。それが見事に功を奏す。84分に熊本のクリアボールに高い位置で張っていた羽田がインターセプト、白谷、ジェルマーノと繋いで逆サイドでフリーの丹羽へ。その丹羽が放り込んだクロスからファーサイドの白谷のヘディングで繋いだボールをジェルマーノが押し込んだ。C大阪の待望の先制点の影には、惜しみなく運動量豊富に前線へ駆け上がった羽田の功績が大きい。丹羽がクロスを上げた際もこの羽田がしっかりと相手DF2枚を釣っている。何なら自分が決めてしまいたかったところだろう。結局この1点が決勝点となり、連敗を2でストップさせた。

 熊本も悪すぎたわけではない。シュートも11本と中山を中心にC大阪を脅かした。87分には西森のクロスにドンピシャで市村が合わせたが、決定的なチャンスを最後まで決め切れなかった。“火の国魂”は大阪で燃えることなく、これで5試合連続で勝ち星から見放されることになった。どこかで発奮材料が無いと修復は難しいだろう。限られた現有戦力では精一杯のサッカーをしていると思う。5節の鳥栖戦、前節の水戸戦と勝ち切れなかったのがここで悔やまれるところだ。
 しかしながら、J昇格を前にいきなりチーム名が変わったこともあり、熊本サポによるチャントのほとんどが“ロッソ”コール。少し感慨深い気持ちにさせられたが、そのチャントに耳を傾け、最後までピッチに残りサポーターに頭を下げていた中山の姿が印象的であった。

 まだ長丁場J2は分からない。C大阪も本来ならば大量得点で早めに勝負を決めなければならないはずだった。今季2度目の長居観戦だったが、まだC大阪を“昇格候補”に挙げられる決定的ポイントはこの日も見えてこなかったのは残念なところではある。