脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

08’ACLアウェイ道中膝栗毛② AFL観戦記

2008年04月13日 | ACLアウェイ道中膝栗毛

 メルボルンから成田空港までの直行便にて9時間半、そして羽田へとバスで向かい、関空行きの最終便で無事に帰国。帰りもガッツリ14時間の長旅。さすがに疲れたというのが正直なところだが、滅多に行けるところではない南半球の都市は、日頃感じない新鮮な刺激を大いに提供してくれた街であった。

 11日の夜にACLが行われたテレストラドームで、メルボルンでの第二の目的であったオージールールズ(フッティー、AFL)を観戦。この日はエッセンドン・ボンバーズとウエスタン・ブルドッグスのゲームが行われた。
 オージールールズ(発祥の地メルボルンではフッティー)は、18人制のフットボール。試合は4クオーター制で行われ、1クオーターはそれぞれ20分。第1、第3クオーターごとに5分、第2クオーターの後に20分のブレイクが挟まれる。ゲーム内容は、センターサークル内で審判がボールをグラウンドに叩きつけ、バウンドしたボールを奪い合ってスタートする。ボールはアメリカンフットボールと形状は同じながら一回りほど小さい。ルールは単純明快で、ボールを叩き押し出すようにパスするハンドパスはキックで、グラウンド両端にある4本のポールを目指して運び、そのゴールに蹴り入れるというものだ。ボールをゴールポストの間にノータッチで蹴り入れればゴールとなり6点、この時にボールに手が触れたり、ポストに触れた場合や、ビハインドポストとの間に蹴り入れてしまった場合はビハインドとなり、得点が1点になる。
 ボールを持って走る場合には、15mおきにドリブルしなければならない。キックされたボールを、人やピッチにタッチせず10mを越えてダイレクトキャッチすればマークとなり、フリーキックが与えられる。ゴール近くでこのマークを得るとほぼ得点に結びつくため、ゴール前の激しい攻防はこのスポーツの醍醐味でもある。
 得点は3つの数字で示され、最初がゴールの数、中央がビハインド数、最後が総合得点である。

 19時40分のキックオフに備え、それまで街を散策していたが、気持ちが逸るように1時間前には2日ぶりにテレストラドームへ。サザンクロス駅に近づくと既に両チームのマフラーやレプリカユニフォームで身を包んだファンたちが一目散にドームへ向かっている。ドーム前の屋台の数も先日のACLの時とは数が違う。そう、ここオーストラリアは、特にメルボルンはやはり“サッカーの街”ではない。人々の心にはフッティーが染みついているのだ。
 それはゲームが始まると共に、筆者の胸に突き刺さることとなる。

 出発前にここでも書いたようにメルボルンにはこのフッティー、つまりAFL(オーストラリアンフットボールリーグ)に加盟するクラブチームが9チームある。1858年にクリケットの選手たちがオフの間にトレーニングとして始めたのが発祥とされているが、このメルボルンを含むビクトリア州はまさに人気の中心で、決勝戦のグランドファイナルは毎年9万人以上の観衆が集まるという。AFLにはトヨタが冠スポンサーとして鎮座していて、この日も「TOYOTA AFL 2008」というペイントが芝生のピッチに施されていた。
 この日対峙したのはメルボルン北部にその拠点を置くエッセンドン・ボンバーズとその名の通り、西部にその拠点を構えるウエスタン・ブルドッグスの2チームだ。ユニフォームはサッカーと違って、袖が無くノースリーブのような形態。かつて曰くのついたカメルーン代表のユニフォームを連想すれば全く相違はない。それでもサプライヤーはプーマだったり、ディアドラだったりとサッカーとも共通のもの。選手も大半はサッカースパイクでプレーしている。チームグッズも実に充実していて、マフラーからキャップにレプリカユニフォームと日本のJリーグと変わらない。

 ACLと同じようにチケットを場外販売場で購入する。するとレベル1が売り切れている。レベル3のチケットしかないではないか。30オーストラリアドルで最下層のチケットでもACLより遙かに高い。どうやらレベル1はシーズンチケットでその大半が埋まっているようだ。スタジアムに入ると、まだ1時間前にも関わらずたくさんの人がいるではないか。
 レベル3の指定席に向かって、エスカレーターと階段を上る。3階に着くと素晴らしいスタンドの傾斜と眺めに言葉を失った。ピッチに書かれたフッティーのコートはまさにドームの芝部分を全て使う極めて広大なピッチだった。
 この広いピッチでどれだけのゲームが繰り広げられるのか。試合前にアップに来る選手に向かってエールが飛ぶ。キックオフ間際になって気づくといつの間にかドームは一杯の観客で溢れかえっている。指定席のためかレベル1以外は両チームのファンがひしめき合っているようだ。筆者の周りもオセロのように両チームのファンがたくさん座っている。その数はドームのキャパシティを8割はカバーしているだろうか。おそらく5万人ほどの観客が金曜日だというのに詰めかけていた。

 試合が始まると、怒号のような歓声が巻き起こる。アップから見ていると何とも器用に彼らはキックしたボールをキャッチする。そのキックの正確性はサッカーボールの球形とは似ても似つかわないボールだけに舌を巻く精度だ。筆者は高校時代にアメリカンフットボールをやっていたこともあり、ラグビーよりはすんなりゲームに食い入ることができた。
 キックされたボールをきれいにキャッチし、ゲームを動かしていく他に、やはりピッチの広さは尋常ではない。18人制でもこの広さで動き回るのはかなりの運動量が必要とされるはずだ。筋骨隆々の彼らは面白いようにパスを回し、そしてやはりゴール前の攻防は観客の声援が割れんばかりのものとなる。

 試合はブルドッグスが先手を掴み、順調にゴールを重ねていくが、ボンバーズも負けてはいない。第2クオーターが終わることには試合のイシニシアチヴをひっくり返してしまった。面白いのは、スタンドの観客だ。まさに老若男女問わず思い思いに自らの思いを彼らにぶちまける。試合が進むごとにそれは強烈さを増し、普通のおばちゃんがスラングまがいの言葉やブーイングを捲くし立てる。彼らの感情的変化がゲームの進捗に非常に反映されるその姿はサッカー以外のスポーツでは何か久々に出会ったようで新鮮だったし、また、改めて人々を心から虜にするスポーツの真髄を感じたともいえる。

 結局試合はブルドッグスがボンバーズを19.14 (128) to 14.14 (98)で下し、翌日の地元紙の一面を飾ることになった。試合後にはサザンクロス駅までのわずかな距離が人ごみで動かない。皆口ぐちに今日の勝利を喜び、咆哮する者もいれば、唄う者もいる、さながらその光景はACLの時には見られなかった“フェスティバル”つまりはお祭り騒ぎのようであった。試合後夜遅くまでその熱が冷めやらぬサザンクロス駅周辺の光景はこちらでは極めて日常的なのだろう。
 メルボルンでは、このフッティーの会場はテレストラドームかメルボルンクリケットグラウンド(MCG)が大半であり、ACLの試合時に西野監督が芝生の悪さをほのめかしていたのも頷ける。これほど頻繁にフッティーが行われていれば、芝生は痛むも同然だが、同時に彼らだけの国技ともいえるこのスポーツに対する熱狂度は羨ましい限りでもあり、それは真に素晴らしい光景だった。

 とにもかくにもG大阪の劇的な逆転勝利とAFLという新鮮なスポーツに出会い、メルボルンを後にし、翌日の朝に街を立った。西野監督も言ったように、この“時空”を経験したことは決して時間のムダでは無かったかのように思う。