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シベリアの空

2021-10-10 00:23:17 | 美術
神奈川県立近代美術館葉山で「生誕110年 香月泰男展」を見てきました。

先日、「シー・イズ・オーシャン」という映画を見たのですが、その後、不肖わたくし、無性に海が見たくなってしまい…絵も見たいし、海の見える美術館に行きたいな、と思いついたのがこちらの美術館。今は香月泰男のシベリア・シリーズが全点見られるそうだし…ということで、早速、行ってまいりました。例によって、鑑賞前に腹ごしらえですが、この日は葉山マリーナの中にある「青羅」へ。オーシャンビューの高級中華ですが、頼んだのは五目焼きそばと春巻き(笑)。どちらも美味しかったです。中国茶がポットでサーブされたのも嬉しかったな…。

さて、お腹もふくれたところで美術館へ。今年が生誕110年となる香月泰男の展覧会です。展示は制作年順で、氏が東京美術学校に入学した頃の作品から始まります。色彩も豊かで抒情的な作風の作品が続きます。梅原龍三郎の影響を受けたと思わしき作品も。そして、1948年の「埋葬」に眼が留まります。この作品がシベリア・シリーズの2作目になるようです。その後、氏がシベリア・シリーズを本格的に描き始めたのは1959年からでした。戦争とシベリア抑留時代を描くのには戦後10年以上の歳月が必要だったということでしょうか…。それまでの作品とは打って変わった黒と黄土色の世界。「涅槃」は黄泉の光景のよう。「黒い太陽」からは輝かしい太陽すら黒く見えるほどの絶望を感じます。「復員」は地獄からの生還のようにも見え…。声なき咆哮が聴こえてきそうな作品の数々。シベリア・シリーズには氏の言葉も添えられていますが、その淡々とした調子からかえって戦地の過酷さが伝わってきます。一方で、シベリアの広大な自然を描いた作品もありました。そこに束の間、美を見出すことが救いだったのかもしれません。1969年の「青の太陽」も忘れ難い作品です。その後、亡くなる1974年までシベリア・シリーズを描き続けることになりますが、展覧会では同時期に描かれたシリーズ以外の作品ともあわせて展示されています。ささやかな幸せを描いた作品の数々。没年に描かれた「雪の朝」になぜか胸を衝かれるような思いがしました…。

コレクション展の「内なる風景」では、香月泰男展にちなんで氏と親交のあった人の作品や、戦争に向き合った作品が展示されていました。松本竣介「立てる像」には強烈に目が惹きつけられます。澤田哲郎「シベリアの密葬」は静かな悲しみを感じる作品。戦争がもたらすものを画家たちが作品という形で伝えてくれていたのですね…。

帰りに近くの海岸に寄り、ひさびさに砂浜に座って海を眺めました。いい年こいて子どものように波に足を突っ込んでみたり…。波音の聴ける距離で海を見たのはいったい何年ぶりだか思い出せないくらいですが、やっぱり海はいいですよね…また海の見える美術館に行きたいなぁ…。
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